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第1章

第17話 聖女誘拐事件

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クレタをお姫様抱っこして、アリシアが囚われている砦に向けカッ飛んでいく。さっきの数倍のスピードだ。クレタは怖すぎて悲鳴もあげないで、必死に抱きついている。最高時速マッハ3で飛んで行きたいが、高所恐怖症の影響でクレタの精神に何かあったら困る。

秘密結社、剣と骸骨か。古来から代々の聖女と対立し、戦ってきたという存在ということだった。やつらの目的は何なのだろうか? アリシアをその場で殺さずに生かしたということは、儀式か何かで彼女の命を使おうとかか? 謎だな。
どちらにしても大事なアリシアをさらいやがって許さんぞ。まだ、アリシアとデートもしていないのだからな。オレの嫁に手を出される前に必ず助ける。

視界の左下にあるミニウィンドウを見ると、アリシアは縛られて牢屋に入れられているようだが、今のところ特に何をされそうとかいう気配はない。
誘拐したあとに馬車でアリシアを運んだ時は、数時間はかかったであろう距離も、わずか1分も経たずに着いた。なにせ時速数百キロで空を飛んでいるのだからすぐに追いつく。今、砦のはるか上空数キロのところで空中に浮いている。下方には山の一部を利用した天然の砦があった。

《探査マップ/神愛》

砦はどこから入ればいいのだろうと、入り口を探す。すると山の中腹に向け、馬車が入る事ができるように馬車道がふもとから出来ていた。その先を目で追っていくと、砦への入口を見つけることができた。巧妙に木や岩を使い、扉を隠してある。馬車道もふもとの所で分岐になっている事が分からないように木で隠されている。下からだと見つけられないのだろうが、上空からだと丸見えだ。馬車はこの扉から入ったのだろう。そっと人目のないところに降り立つと、クレタを下ろした。彼女はそのままペタリと地面に腰砕けのように座り込んでしまった。今回はスピードをだいぶ出していたので、よほど怖かったのだろう。

「クレタ! フラフラしてたけど、大丈夫かい?」

「ありがとうパック。私は大丈夫よ」

「無理をするなよ。しばらく休んでもいいんだぞ」

「お気づかいをありがとうございます。大丈夫です。それよりすぐにアリシア様を助けに行きましょう」

「分かった。パック、装備ごと透明になる魔法をかけてくれ」

「あいよ、インビシブル/透明化だね。ここはパックにお任せあれ!」

《インビシブル/透明化×3》

『ブンッ』

「……!? セシル様、私たちの体が半透明になりました!」

「潜入するのに良い魔法だろう。術をかけられている者同士だと半透明だが、他の人にはまったく見えないから安心しなさい」

はぐれないように、パックは左肩に座り、クレタとは手を繋ぐ。しかし、魔法を使ったあとで、しまったと思った。この魔法は内緒にするつもりだったのだ。透明モードで女の子にイタズラしたらオレがやったとバレてしまう。マジで失敗したな。クソ! クレタに口止めをしておこう。

「この魔法はアリシアにも内緒にするようにな。神の化身が使用する魔法はあまり一般には広めないほうがいいからな」

「はい、承知いたしました。私の命にかけて口外しません」

両手を口元で組み、真剣な瞳で真っ直ぐにオレの目を見ている。その瞳の奥にある純粋なエネルギーに赤面し、サッと目を反らせてしまった。若いっていいよな。45歳のおじさんは腹が真っ黒で、しかも脳内の95%はエッチな事しか考えていないからな。ちょっと反省。
でも命がかかっていたら、その時はインビシブル/透明化のことを普通に言ってもいいからと、心で突っ込みを入れた。

入口のそばに来ると、スピアを持って警備をしている門番が2人いる。探査マップ/神愛の最少情報で確認する。

●レベル12盗賊A
●レベル13盗賊B

意外に平均以上のレベルだった。国と敵対している事だし、軍事訓練は絶やさないというところか。
こんな所だし、モンスターくらいしか襲ってくるものがいないのか、雑談をしてペチャペチャとエロ話をしていた。目の前まで近づき話を聞くと、男にありがちなエロい武勇伝だ。

「アンカスタード市の娼館にいる壺の快楽No.1のサーラちゃんは良かったぜ~。イイ声で鳴くんだよ。高めのエロい声でああ~っ、イッちゃうイッちゃうってな」

「マジかよ! その娘ヤりてぇ~。さすがNo.1ってとこか。喘ぎ方とか男の惑わし方が上手いな。それじゃアソコの締りも良いんだろうな」

「そうなんだよ。あの手の女の子ってさ、男をイカすためにアソコの筋肉を締めるために鍛えているっていうぜ! 肛門とアソコの筋肉って繋がっていて、同時に鍛えるらしいぜ」

「アソコの筋肉など鍛えられるものなのかぁ~。俺も彼女が出来たら、鍛えてもらおっと」

なんとも下劣な話をしているものだ。オレの手を握るクレタの手が、こんな話聞きたくないとギュ~ッとしてきた。オレという好きな男の前で下ネタを聞かせるとは、女の子にとって拷問を受けているに等しい。エロ話で女の子が笑ったりしたら、男は引く場合が多い。

こいつらをどうするか? ここで暴れたとして侵入が敵に早々にバレた時、アリシアの身に何かあったら大変だ。まずはアリシアを確保した後に暴れた方がいいだろう。密かに潜入をし、敵にバレないようにしないとな。
やはり出会ったやつを片っ端からスリープ/睡眠で眠らすのが楽でいいな。こっちにはユニーク魔法の探査マップ/神愛があるから、どこに誰がいるかなどの敵の情報は筒抜けだからな。

《スリープ/睡眠×2》

『ゴトッ』

レジストに失敗した門番2人が同時に崩れ落ちる。楽チン楽チン。これなら叫ばれることもなく先に進める。あとで鉱山奴隷にするから、しっかりと紐で両手両足を縛り、端に寄せておく。さあ、これで先に進もう。

『バシュッ』

馬車も通れるくらい大きな鉄扉を開けて入ろうとドアノブを回したら、回した手に攻撃を受けた。毒針だ。扉にも罠を仕掛けてあったとはな。ま、オレの防御力を突破できるわけがないから無駄なことだがな。龍の攻撃すら有効ダメージを与えることができない80万オーバーの防御力があるので、罠に気をつける必要がない。だから漢探知で進んでいくことにするかな。漢探知とは、罠の解除を防御力、耐久力頼みで体を張って突破する行為のことをいう。

『ギィィイイイイ』

大きな鉄扉を開けて中に入る。その先には前方に向け、馬車も通れる広めの通路が奥に続いている。明かりが左右にポツポツと置いてあるが、砦内は薄暗く、カビ臭さがツンと鼻についた。

探査マップ/神愛を見ると、砦の全貌がついに分かった。山の中にある洞窟なのに意外に広い。大小10くらいの部屋に武器庫もあり、100人くらいは楽に生活出来そうだ。籠城ということも考えたら、この砦はなかなか堅固なものであろう。

地下のトンネルを進むとその先には、なんと、これから行く予定のアンカスタード市近くの洞窟へとつながっている。随分と長い距離の洞窟だ。いつ、誰が掘ったんだろう? アンカスタード市に地下トンネルで行き、そこで物資をそろえて生活していたのだろう。秘密結社、剣と骸骨の砦がある事がバレてパルミラ教皇国の騎士に攻め込まれたとしても、いざとなれば地下トンネルを抜け、アンカスタード市に堂々と逃げ込めるようにしていたのだ。

アリシアはどこにいるかというと、洞窟の最下層にある独房にいる。そして彼女の白く細い首には服従の首輪を付けられている。そして、亀甲縛り? みたいなものだろうか? 双丘をエロくアピールする形にロープで手足を縛られている。うほ! アリシアのEカップがエロすぎて双丘を揉んで吸ってしゃぶりたくなってきた♪

砦内は今のところ20人のヒューマンが活動している。発見しだいスリープ/睡眠で寝むらせる。なにせ敵にはオレが見えないが、オレは敵が見える。なんとも理不尽だが誘拐犯に容赦はしない。わっはっはっ!

大きな通路の突き当りに着くと、馬車が数台止まっていた。この中の1つにアリシアが乗っていたのだろう。周囲には誰もいなかった。体を装備ごと透明化する魔法があるなど、想定もしていないだろうしな。勉強家で多種多様な知識を持つクレタでさえ、聞いたことも古書で読んだこともないと言っていた。パックはユニーク魔法の使い手だが、この世界において神から愛された特殊な存在なのだ。

駐車場を抜けて、正面にある階段を上がっていくと左右にドアが適当な感覚である細長い通路が続いていた。恐らく大人数で攻め込まれても、一気に兵士を送ることはできず、2人横に並んで突きを出すのが精一杯だ。実に色々な所が考えられ、良く出来ている。
通路を進んで行き、部屋の1つを通りかかった時に妙な音が聞こえてきた。

『チュプチュプチュプ、ブブブ、シュッシュッシュッシュッ』

「ハァハァハァ、モーラちゃんいいよ。それ気持ちいい」

「チュプチュプ……ん……うふふ、ヨシュアさんここも良いでしょ……チュ~チュ、ブブ、クッチュクッチュ」

「おお! それは! も、もうイクよ」

「うん、出して! モーラの口にあなたの熱いもので一杯にして!」

「おう! イクよ!」

『ドピュッ、ピュ、シコシコ、ピュ』

《スリープ/睡眠×2》
《クリーン/清浄×2》

『ゴトッ』

武士の情けだ。最後までイカしてから眠らせてやった。次に魔法の効果が薄れて起きた時は鉱山奴隷になっているから、驚くだろうがな。ついでに精子臭いと持ち運ぶときに嫌だから、2人とも体を綺麗にしておく。

「なかなか、鬼気迫る感じが良かったね! 公園で覗き見してるような楽しさがあったよ」

「………………それについてはノーコメントよ」

「さぁ、先に進もう」

その後も、数人で雑談する者たち、食事をしている者たち、ベッドで寝ている者たちと、次々にスリープ/睡眠で眠らせて進んでいく。なにせ姿が見えない上に、高レベルな騎士2人に攻め込まれているのだ。誘拐犯たちにはなす術がない。秘密結社、剣と骸骨などと、ロックウェルが脅かすから慎重に進めていたが、残りは司令室にいる男女ニ人と、地下深くにあるアリシアが隔離された独房を見張っている男性兵士1人となった。
通路の終着点にある司令室に入ると、女が書状を書いていた。

「大変なことになったわね。まさか神エロースが自ら降臨し、我々の宿願を阻みにくるとは! こんなことは許されないわ!」

「ああ! 早く各支部にこの事実を送らなくてはならない。数百年かけ、やっと我らの悲願を達成できるところまで来たのだ。ここで邪魔をされては今まで計画を進めてきた同士たちの苦労が水の泡だ」

計画? 秘密結社、剣と骸骨の悲願とは何なのだろう?  

「ディグとクララには最優先で送らないと不味いわね。早く対抗策を練ってもらわねばならないわ。セシルの動き次第では計画に支障が出るでしょうから」

「ああ、そうしてくれ」

「ぷっ!」

その話題の本人は目の前にいるんですけど。しかもパックが笑いを我慢できなくなって吹いてるし、気づかれたらどうするんだよ。

「ん? 何か今、音が聞こえたか?」

「確かに聞こえたわ。誰かいるの?」

あとは砦の最深部にいる男が1人だけだし、もう隠れなくてもいいだろう。

「パック、解除だ」

「承知~」

《インビシブル/透明化、解呪》

『フォン!』

「きゃっ!」

「な! だ、誰だ貴様は! どこから入ってきたのだ!」

「今、お前たちが話していた神の化身セシルだ。聖女アリシアをよくも誘拐してくれたな。返してもらいに来たぞ」

「「「な!!」」」

突然、神の化身が登場したことで、2人は息が詰まるほど驚いているようだ。フナのように口を開けたままピクリとも動かない。だが、事態が飲み込めたのか、先に動いたのは女の方だった。女は男より度胸があることは、大人なら誰しも知る事実だ。我に返り、横に立て掛けてあったスピアを手にとって襲いかかってきた。

「セシル様、ここは私にお任せを」

クレタがオレの前に進み出た。

~~~戦闘開始

●レベル28女戦士A/1
●レベル26男戦士B/0

イニシアティブはオレが取ったが、待機を選択した。次点はレベル25聖騎士クレタだった。クレタは上級職なのでレベル25といっても、実質はレベル55だ。
腰からメイスを外して向かってきた女戦士Aにそれを振るった。

『ガガガガガガガガガガッ』

クレタは一撃で10発のメイスを繰り出し、10発全弾をレベル28女戦士Aに命中させた。女戦士Aは血だらけになり倒された。

レベル26男戦士Bはまだ動けないでいる。神の化身が突然現れたということに、気圧されたのだ。

~~~1ターン終了

●レベル26男戦士B/1

レベル26男戦士Bは意識を取り戻した。2ターン目もオレは待機を選択。次点のクレタがレベル26男戦士Bに襲いかかる。

『ガガガガガガガガガガッ』

クレタのメイスでの1回の攻撃で10発全弾命中し、レベル26男戦士Bは意識を失った。

~~~戦闘終了

「クレタ強い! 2ターンで終わるなんて楽勝だったね!」

「そんなことないわよパック。でもそう言ってもらえると嬉しいわ」

パックに褒められて嬉しかったのか頬が赤くなった。パックは女の子を褒めるの上手だな。オレも見習わなくてはならない。職人気質で生きてきたものだから、そのスキルは所持していない。

デスクに書き終わった書状が置いてあったので、中身を出して見てみると書いてあった内容は、パルミラ教皇国神都ベネベントに神の化身セシルか降臨した。各所で対策をするように、というシンプルなものだった。

他にも何か怪しい物がないか、部屋中を引っ掻き回し探したが、日々の日報や帳簿などが主で特になかった。ただ、書状の数が尋常でないほどあったのが気がかりだ。全部で100枚はあるのではないだろうか? ということは、この砦のような拠点が同じ数はどこかに在るとうことだ。

秘密結社、剣と骸骨……このラティアリア大陸全土に勢力が広がっているのかもしれないな。聖女アリシアの敵が……。アリシアの戦闘力は問題ないが、今回のようなケースではあっさりと破れてしまう。アリシアの男として、自分の愛する女の敵は排除してやろう。

「セシル! 何、怖い顔をしているんだよ! 何を考えているの?」

「剣と骸骨の勢力が秘密結社というものを超えているから、少しな……」

「セシル様、大丈夫です。今まであまり認知されていなかった剣と骸骨が聖女誘拐という事件を白昼堂々と起こし、その存在が明るみに出ました。パルミラ教皇国中でエロース教異端審問会が、何らかのアクションを起こすことでしょう」

異端審問会だと! そんな恐ろしい部署があったのか。リミテーション/神との誓約は痛いだけだが、異端審問の拷問となると、指を1センチメートルごとに切断したり、焼きゴテを目に当てたりと、見るも無残な光景が思い浮かぶ。くわばらくわばら。関わり合いになりたくない。
2人を紐で縛り、先に進むとしよう。いよいよ砦の地下最奥に行き、アリシアを助けるぞ。
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