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第1章

第25話 獣耳族開放宣言

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探査マップ/神愛で周囲の監視役などがいないか、赤オレンジのマーカーがないか探していると……いたいた! 500メートルほど先に赤オレンジのマーカーが2つあるのを見つける。やはりこういうイベントには監視役かもしくは指示役がいるのは鉄板だよな。その2人の名前に見覚えがあった。ああ、そういうことかとニヤリと笑う。

「急にニヤッと笑ってどうしたのさセシル!」

「500メートル先に、赤オレンジのマーカーが2つある。これはバスタードとインソルベントだ」

「ええっと、その2人は確か、エムデンの執事2人ですわよね?」

「そうだ。この暗殺団の裏には枢機卿エムデンがいるようだ。なぜオレを殺害しようとするのだ? 神の化身であるオレを? まあ、2人を捕まえて聞いてみるか。って言ってる間にクレタが暗殺者を全員倒したようだ」

「アイツらオイラ嫌いだよ! なんか生理的に受け付けないんだよね!」

馬車の外に出ると、ワイアットに説得された獣耳族の戦士12人と気を失った暗殺団10人が倒れている。

「ワイアットの説得で分かってくれたのか?」

「はい、セシル様。このあとのオレたちの行動を見てから戦うかどうか決めてくれるところまで話し合いました。獣耳族の子供たちを助けるところを見せましょうぜ!」

暗殺者集団を見事に蹴散らした、クレタとエミリアがやってくる。

「クレタ、あなたは私とレベルが変わらないのに、どうしてあんなに強いのよ。あっという間に6人倒してボスまで瞬殺してしまうなんて!」

「私もなぜかは分からないわ。ここ数日の間に体から溢れる力があって、私も驚いているのよ」

探査マップ/神愛でバスタードとインソルベントが、暗殺失敗を確認したようだ。すぐに撤退をはじめる。この神の化身を相手にして、そう上手く逃走出来ると思っているところが面白いやつらだ。

マジックハンド/魔力の手の射程距離は10メートルだが魔力の拡大で変えられる。

《マジックハンド/魔力の手MP10×14×効果距離50倍》

「みんなあっちの空を見てごらん。面白いものが見えるぞ」

指でその方向を指し示すと、みんながそっち方向を見る。バスタードとインソルベントを1人7個のマジックハンドで拘束すると、大文字焼きのような形で空を滑空している。さながら異世界番ジェットコースターだな。

「「「うわああああああああああああ!」」」

2人は叫びながらこちらに向かってきた。はい、いらっしゃいませ。

「ほわ~助かった~。ひゃ! セ、セシル様!」

目の前で空中停止する。一瞬、安堵する表情を浮かべたが、オレたちがいるのに気がつき、驚きのあまり素っ頓狂な声をあげた。

「あれれ? オイラたち暗殺団の指揮官を捕まえたはずなのに、なぜエムデンの執事たちが来るんだろうね~。説明してほしいね?」

インソルベントは怒気を込めて言い放つ。

「セシル様、これは何かの間違いです! 我々は街の視察で動いていただけで、あそこにいたのは偶然です。我らは公務をしていただけです。絶対に誰かの陰謀だ!」

「なるほど、お前たちの意見は分かった。オレを暗殺しようとした、刺客とはなんの関係もないと?」

「はい、その通りでございます。馬車が襲われていたので助けに行こうとしただけです。まさかセシル様の乗られている馬車とは失礼な奴らです」

「オイラ絶対嘘だと思うな。セシルゥ~、アレやっちゃえば?」

「そうだな、こういう時はアレが一番だ」

《マジックハンド/魔力の手×70》
《クリエイトウォーター/水創造×10》

『バシャッ』

バスタードとインソルベントを拘束していたマジックハンドが消えると、別のマジックハンドが70本現れて、暗殺団10名を吊り上げてから、水をぶっかけて起こした。

「「「な!」」」

《リミテーション/神との誓約×10》
逃げるな、攻撃するな、嘘は言うな、聞いたことはすぐに10秒以内に答えろ、自決はするな、オレの命令はすべて実行しろ。

『ズブズブズブズブズブ』

毒々しい爪が10個に別れ、暗殺者全員に向かって飛んでいくと、額の第3の目から脳内にズブズブと入っていく。

「「「ひぃいいいいいいいいいいいい!」」」

「同情はしないぞ。いいか、これは神の呪いだ。今、オレが言ったことに嘘をつくと死んだ方がましだというくらいの、地獄のような苦しみを味わうから気をつけろ。リーダーがまず来い」

マジックハンド/魔力の手がリーダーを目の前に連れてくる。

「お前たちにオレの暗殺を命じたのは、バスタードとインソルベントだな?」

暗殺団リーダーは殺すぞ! と言わんばかりに睨みつけてくる。質問には無言で拒絶をする。

「うぐぁぁああああっあっあ! ごわぁああああああっ」

リミテーション/神との誓約が発動し、凄まじい激痛に首や体を左右に何度も振ると、口から泡を吹いて失神した。目は完全に白目となっている。
前に2度味わったワイアットは、顔色が青くなってよろけている。もはやトラウマになっているらしい。

「相変わらずこの魔法の威力は凄いね。オイラこの魔法が一番怖いよ!」

《デパス/精神安定》
《クリエイトウォーター/水創造》

『バシャッ』

また水をかけ、意識を無理矢理に取り戻させる。リーダーは目を覚ますとセシルを見るが、前のようには睨みつけては来ない。あまりの激痛に少し心が折れたようだ。前にワイアットも一発で心が折れたしな。

「いいか。この魔法の痛みは、この世のあらゆる痛みの中で最高峰の激痛になっている。これ以上の痛みはこの世に存在しない。絶対に死ぬことはないが、神の呪いだから吐かないと大変だぞ。
今度は全員に聞く。1人でも嘘を言ったり、無視をすると共同責任で全員が呪いでああなるから気をつけてな」

親指で暗殺団リーダーを指さした。暗殺団のメンバーは身の毛もよだつ恐ろしさに顔色が悪くなっている。もうひと押しかな。
インソルベントとバスタードは、吐かないでくれ! と手を組んで祈っている。

「じゃあ聞くぞ。暗殺を命じたのは、ここにいるインソルベントとバスタードだな?」

「「「はい! そうです」」」

全員がハッキリと答えた。ははは、こいつらあっさり裏切りやがったな。

「これでお前たちの罪が決定したな。神殺しは罪が重いぞ」

《マジックハンド/魔力の手×14》
《リミテーション/神との誓約×2》
逃げるな、攻撃するな、嘘は言うな、聞いたことは全て答えろ、自決はするな、オレの命令は実行しろ。

「「ひぃぃいいいいい~。助けてくださいセシル様! の、呪わないでぇ~」」

「助けて欲しかったら素直に吐くんだな。オレの女たちを襲った罪は死で贖え!
お前たちにオレとアリシアの暗殺を命じたのは、エムデンだな?」

「「「はい! すべて吐きますから助けてください」」」

「呪いが発動しないということは本当にエムデンが神殺しを画策したのだな。それではお前たちに命じる。エムデンのところに戻って、オレの用事が終わって戻るまで大人しく待っていろとな。処分はその時に決めると伝えろ。
エムデンが逃げないように捕まえているのだぞ。逃げられたら呪いが容赦なく発動するから気をつけるんだな。暗殺団は神殿に行き、外で並んで待っていろ」

「「「はい! 承知いたしました!」」」

「さっさと行け!」

暗殺団とエムデンの執事は、振り返ることなくダッシュで走り去っていく。よほどビビったのだろう。

「それではオレたちは孤児院に行こう」

「「「はい! セシル様!」」」

孤児院に着くと、獣耳族の子供たちが出迎えてくれる。女の子が抱っこしてとせがまれたので抱っこしながら中に入る。

「あ! 昨日助けてくれたお兄ちゃんだ! ママ~ママ~。来て~」

昨日、馬車にひかれて事故に巻き込まれた親子は、この孤児院にいた。母親が走ってやってくる。

「はあはあ、昨日は命を助けていただきありがとうございます! お礼もできずに大変失礼しました」

「いや、いいのだ。オレたちも急いでいたからな。それより体で痛むところはないか?」

「はい、おかげさまで痛むところはございません。本日は聖女様とご一緒なのですか?」

「そうですわ。このお方は神の……むぐむぐ」

アリシアの可愛い口をおさえて、オレの正体を言うのを止める。

「オレはお菓子の料理人だ。今日はここに新作のレーモンクッキーというお菓子を差し入れに来た。あと、ココアという飲み物もあるぞ。さあ、食べてくれ!」

子供たち全員に1袋ずつレーモンクッキーを分け与えて、温かいココアを振る舞った。

「わぁ~これ美味しい~!」

「この飲み物も甘くて美味しい~」

「こんな美味しいの飲んだことないわ!」

女性職員にも渡すと嬉しそうに受け取って食べている。子どもたちを探査マップ/神愛で見ていると、すぐに病気が治るわけではないが、何人かのステータスが良い兆候があった。病気で落ちていたステータスが緩和する子供が数人いた。やはりレーモンクッキーの効果は絶大だな。それを嬉しそうに見ながら魔法を使う。

《エリアリカバリー/範囲回復魔法》

子供たちは全員病気が治っている。あとはワイアットに任せておけば大丈夫だろう。レーモンは場外に取りに行けばすぐ生えてくるからいくらでも取ることが出来るし、最初だけ薄力粉と砂糖を開業記念に大量にプレゼントしよう。これでもうアンカスタード市の栄養環境は大丈夫だ。

「セシル様! 何から何までありがとうございます! 命も救っていただき病気まで。私はどうすればこの恩にむくいることができるででょうか?」

「セシルのお兄ちゃん、ココアとレーモンクッキー美味しかったよ! ありがと!」

「いいか、お前たちが元気に育っていくことが恩返しだということだ。そのための制度をこれから作っていくからな。ここにいるものは聞くがいい! 神の化身セシルがここに宣言する」

そばにいた獣耳族タニアを抱き上げ、お姫様抱っこをする。タニアの頬が赤くなった。恥ずかしいのだろう。

「犯罪奴隷を除き、獣耳族を奴隷にすることは禁ずる。この誓いを破ったものは神の化身セシルを侮辱したものとして、身分を問わず処刑する。
ここに獣耳族開放宣言とする」

アリシアを見ると、子供たち、そして獣耳族が救われたことに感極まって目に涙が溢れている。

「セシル様~! セシル様~! セシル様ぁ~!」

タニアを降ろすと、アリシアが胸に飛び込んできて泣いている。そして優しくアリシアを抱きしめた。アリシアは随分と長い間オレの胸で泣いていた。ここまで喜ぶというのは少し違和感を感じた。修道女たちは優しい性格をしているが、獣耳族はそれほど関係性の深い者たちとは思えなかったからだ。

クレタとエミリアが、アリシアの頭をナデナデしている姿を見て優しく微笑んでいる。何か知っているのだろうか? もしも、何か知っていたなら、あとで吐いてもらおう。なんにせよ、これでミッションコンプリートだ。神殿に帰ってブタを除去し、完全に終了だ。

ワイアットに新規事業を起こす資金として、白金貨10枚と砂糖、薄力粉など、必要なものを大量に手渡す。それをワイアットは受け取り、感謝と固く握手をした。

「このワイアット、セシル様のためにならば、いついかなる時も駆けつけ、この命を捧げます」

「ありがたいが、お前の命はここにいる子どもたちのために使え。そしてあとはお前たちが子供たちを守るんだぞ。頑張れよ」

《クリエイト シリコン/創造》

空中にラヴィアンローズのロゴが付いた、硬化シリコンを1つ出すとワイアットに渡す。

「これはオレに会う必要が発生した時、これを持って神殿に来るがいい。このあとオレはベネベントに戻るが、何か困ったら頼ってくるんだぞ。オレがいなかったら、ベネベントの修道女である、ここにいる聖女アリシアか、次の聖女ルシィルに頼むといいだろう」

「「「はい! セシル様! このご恩は一生忘れません!」」」

他の獣耳族解放軍の奴らも急にオレを様づけで呼びはじめた。彼らの信頼も得られたよう喜ばしいことだ。異種民族であっても、こうしてお互いに手を取り合い生きていくことは出来る。人とはそういうものだ。

ワイアットと獣耳族解放団を残してオレたちは神殿に戻る。



    
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