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第1章

第47話 父の仇

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気がつくと、オレは真っ暗な空間に1人浮かんでいた。上も下も分からない、というよりプカプカと浮いている感覚で体に重力を感じない。宇宙には行ったことはないが、宇宙空間に浮いているとは、このような感じなのだろうか。先程から目を開けているのだが、光がないので何も見えないし、音も聞こえない。孤独な空間に迷い込んだのかと、少しだけ不安になる。

「ここはどこだ? パック、これはどうなっているんだ?」

肩に座っていたパックに話しかけるも返事がなかった。暗くて見えないが、パックとも別れてしまったのか。取りあえず真っ暗だと不安だから、その解消も兼ねて明かりを灯してみるか。

《ライト/照明》

光が周囲を明るく照らし、オレ自身の体は見える。しかし、他には何もない真っ暗な空間だった。

《サポート》
オレはどこにいるのかを教えて?

【次元の狭間】

次元の狭間……だと! オレはいつの間にそんなところに送り込まれてしまったのだ。ここから出るためにはどうしたらよいのだろうか? そもそも次元の狭間から出ることは可能なのか? 多くの疑問が頭をよぎる。《探査マップ/神愛》を開けると、周囲にはやはり何もないようだ。だだっ広い空間があるだけのようだ。そうだ! パックなら眷族だから、探せるかもしれないな。魂的につながっているからな。

《探査マップ/神愛、セシルの眷族パック》

ミニウインドウが視覚の左下に立ち上がると、パックが写る。おお! 生きてたようで安心したぞ。1人というのは凄いストレスになるのだよな。以前はボッチだったから分かるのだがな。オレにとってパックは切っても切り離せない相棒となっていて、最も重要な仲間だ。ミニウインドウを拡大すると、ヴェルチェッリ騎士団の仲間も写った。全員が一緒にいるようで、ちょっとだけ一安心だな。

『ギィン、ギィン、ギィン、ギィン!』

ん? 剣と剣がぶつかる音が耳に聞こえてきた。仲間は誰かと戦っているのか? さらに大きくミニウインドウを最大まで拡大する。後ろ斜め上から、パックたちを見下ろしている状態だ。

仲間が戦っているのは、ポートフォリオとグレーターデーモン5体だった。まだ死者は出ていないようだが、すでに全員がボロボロになっている。ランクAモンスターは1体で国内最強クラス6人パーティーで戦うのが通常なのに、5体もいるのだ。メンバーの中の最も強いカミラでさえ、ステータスで平均100以上の開きがある。勝ち目など最初からなかった。グレーターデーモンに仲間たちはもてあそばれている。

「ぐっぐっぐ、そろそろ諦めたらどうだ。限界はとうに越えているだろう」

「はぁはぁはぁはぁ、誰がお前なんかに白旗を上げるものか」

「この状況で貴様らに勝算があるとでも思っているのか、バカな女だ。ジョルジがわしの女になり、わしの子を孕むというのならば、団員の連中の命を助けてやってもいいぞ。前代の団長の娘と結婚すれば、まだ心を開かないパトリックの派閥を取り込めて、ラスメデュラス騎士団の地位が磐石になる。わしに従うというならば……ほら、わしの一物をなめるがいい、ぐっぐっぐ」

『カチャカチャカチャ』

ポートフォリオはズボンをおろして一物をさらけだすと、いやらしい目でカミラを見つめる。
17歳の美しいカミラの顔が、苦悶の表情に変わる。絶対に勝てないのはみんな分かっているのだろう。1番レベルの高いカミラはベースレベル68であり、次点のマユラは65で2人だけは一体一でもある程度は戦うことが出来た。だが他のメンバーはレベル60以下だ。それに対してグレーターデーモンはレベル60が5体で異空間の効果で20%身体能力が増している。

「……旦那様」

しばらく下腹をさすりながら考えていたカミラだったが、仲間を助けるために苦渋の決断をした。ポートフォリオの要求に応じるため、一歩前に出る。

『バシュッ!』

『ギィーン!』

そのとき副団長のマユラが腰に下げていた投げナイフをポートフォリオに投擲する。しかしグレーターデーモンの爪によって阻まれた。

「団長! 私は団長に命を捧げています。私たちのために、そのようなことはなさらないできください。ポートフォリオの女に団長がなるくらいなら、死んだほうがマシです」

「「「我々も副団長と同じ気持ちです」」」

「お前たち……分かった。あがきにあがいてポートフォリオに1撃でも与えてやるぞ」

「バカなやつらめ、もう手加減はなしだ。殺してやるぞ、ぐーっぐっぐっぐ」

「みんな頑張って~。オイラにできることが何かないかな? 何かないかな? うううっ、ダメだ! オイラの魔法は性行為専門だったの忘れていたよ!」

ポートフォリオに1撃いれる。そのために全員で総攻撃を仕掛ける。だが、本気になった上級悪魔グレーターデーモンは圧倒的に強い。通常の攻撃も激烈だが、毒爪に麻痺も持っている。魔法も90%の確率で無効化し、範囲攻撃魔法であるレベル4暗黒魔法ブリザードを好み、それを連発してくるという凶悪なモンスターだ。

「はぁはぁはぁ、みんな諦めるんじゃない!」

「はい! 団長!」

《カラープス/弱体化×10》
《グレートエンハンスメント/身体強化×10》
《ホーリーシールド/聖なる盾×10》
《ホーリーウェポン/魔法武器×10》

『バチィ!』

カミラが神聖魔法を次々に唱える。《カラープス/弱体化》は、グレーターデーモンの無効化スキルにより弾かれた。

「ちっ、グレーターデーモンは90%の無効化スキルを持っている。魔法は回復に徹し、打撃で戦え!」

「「「はい! 団長!」」」

カミラは父親をグレーターデーモンに殺され、その復讐のためだけに生きてきた。このモンスターにかけては時間をかけて研究をしてきていた。だが、この上級悪魔には弱点は1つもない。強い仲間を育て、6人パーティーで1体と戦うしかなかった。

「対高ランクモンスターへのフォーメーションDで行くぞ!」

「「「はい! 団長!」」」

聖騎士10人が敵に殴りかかる。フォーメーションDとはモンスター1体に対して5人で攻撃するということのようだ。モンスターも連携をしており、レベル50代が中心のヴェルチェッリ騎士団ではとてもグレーターデーモン5体には歯が立たなかった。

5分後には、パックと副団長マユラ、団長カミラ以外は息絶えていた。床に仲間たちは血まみれで倒れている。ある者は頭が千切れ飛び、ある者は胴体を強力なグレーターデーモンの爪で切り裂かれて真っ二つになり、またある者はレベル4暗黒魔法、《ブリザード/氷の嵐》の連発で全身を凍らされた。カミラも右腕をグレーターデーモンの毒爪に吹き飛ばされ、座り込み動けないでいる。

「ぐっぐっぐ、だからわしの女になれと言ったのにな。最後にもう1度だけチャンスをやろう。わしの女になり、わしの子を孕んで生涯をわしに尽くせ。忠誠の証として、すぐにわしの一物をしゃぶれ」

「ペッ」

『ピチャッ』

カミラが吐いた唾をポートフォリオは顔の真ん中で受ける。

「このアマがぁ~」

「団長!!」

『グシャッ!』

ポートフォリオが腰からメイスを抜き、上から思いっきりカミラの脳天に叩きつけようとする。しかし間一髪でマユラがカミラを押し倒して防ぐが、代わりにメイスをまともに脳天に食らってしまう。

「マユラァァァァァァァァ!」

悲痛なカミラの声が響く。マユラは頭がべこりと陥没していて、目を開けることもできない。頭部から大量の血が吹き出した。

「だん、ちょう、生きてくださ……」

『コトッ』

宙を掴むような動作をしていたマユラの手が落ちる。マユラはヴェルチェッリ騎士団創設からの仲間で、カミラががむしゃらにモンスターと1人で戦っていた頃に知り合った。父の仇を倒すため、命をかけてモンスターと1人戦うカミラに共感し、はじめての仲間となったのである。年齢が上という事もあり、彼女にとって最も長く、最も信頼の出来る姉のような存在であった。

「マユラッ! マユラマユラマユラマユラ! お願い! 目を開けてよ! 私がトップを取るまで付き合ってくれるって言ってたじゃない! マユラァアアアアアアアアアアアア!」

「おいおい! これは現実なの? オイラは頭がどうかなっちゃったの? ついさっきまで楽しく騎士団戦を見ていただけなのに、こんなことになっちゃうなんて!」

「ここまでバカな女とは思っていなかったな。お前の父親パトリックと同じだ。お前の父親も頑固でな、神聖娼婦を使って、次のティムガット市の司教にわしがなろうと画策したのに、反対の一点張りでな。仕方がないから、ここにいるグレーターデーモンにパトリックを殺してもらったのよ。あとはお前と結婚し、ラスメデュラス騎士団での地位を盤石にしようとしたのだ。それなのにも関わらず騎士団を出ていってヴェルチェッリ騎士団など作りおって、お前ら親子には腹が立って仕方ないわい」

「な、なんだと! 貴様がお父様を殺したとでも言うのか!」

「ぐっぐっぐ、今頃気がついたのか? お前の父親はグレーターデーモンに殺されただろう。ここにいるやつらが殺ったのよ」

「オ前ハアノ男ノ娘ダッタノカ? パトリックダッタカ。ヤツ命ガ尽キル時、見モノデアッタゾ。私ノ命デ団員ノ命ダケハ助ケテ下サイッテ、土下座シテ頼ンデキタノヨ。モトモト、ポートフォリオニ頼マレテ、パトリックダケ殺シニ行ッタノニナ。無様スギテ笑エタゾ、フォッフォッフォッ!」

「うううっ、お父様……こんな奴らに」

衝撃的な父の真実を知り、膝まずくカミラ。眼差しはすぐに怒りと憎しみで染まると、メイスを残った左手で掴み立ち上がった。

「お父様の仇ぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいい!」

『ギィーン!』

ポートフォリオに襲いかかるが、グレーターデーモンが割ってはいり、メイスの一撃を止める。

「ぐっぐっぐ、今、お前が相手をしているグレーターデーモンがパトリックを殺したやつだよ。父と同じやつの手にかかって仲良く死ぬがよい」

「うあああああああああああああああああああああああああああああ!」

『ギィン、ギィン、ギィン、ギィン!』

半狂乱となったカミラが、でたらめな戦棍術で力ずくで叩きつける。大好きな父と友人たちを殺された怒りと憎しみで、すでに精神に異常をきたしてきている。
カミラは精神が崩壊してデタラメな攻撃を繰り返しているので、父を殺したというグレーターデーモンにすぐに押し込まれ、毒爪で切り刻まれていく。左太もも、右目がえぐれて潰された。満身創痍になりながらも、怒りと憎しみの強さでもちこたえて退くことがない。

「ポートフォリオォォォオオオオオオオオオオオオ!」

『ギィン、ギィン、ギィン、ギィン、ギィン!』

「セシル! セシル! カミラが殺されちゃうよ! セシルゥ~、あああああああ!」

『ズガッ!』

グレーターデーモンから放たれた毒爪の1撃がカミラの胸を切り裂く。胸部から血を吹き出し、よろけたカミラに止めを刺そうとグレーターデーモンが毒爪を振りかぶる。

「カミラ! 危ない!!」


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