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第1章

第5話 奇跡の祝祷

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御付きのもの2人に抱きかかえられ、外に連れて行かれる。庵の前には屋根が取り外された馬車が止めてある。豪華絢爛で金銀色取り取りで素晴らしいものだ。ローマ帝国の皇帝あたりが作らせそうな代物だ。

馬車の椅子に座らせられると、アリシアがしっかりと後ろからオレを抱き、顔が下がらないようにする。首が疲れないように若干斜め上向きにしてくれるところなんかは、女性らしい優しい配慮である。
そんな彼女の優しさに感謝しながら、馬車はゆっくりと動く。

神殿の玄関口にはなんと30メートルはあるのでは、というくらい大きなエロース神様の巨像がある。エロース神様は立像となっており、両手を広げ、ハグをしそうなポーズをしている。その周囲には神殿を支える柱がそびえている。写真でしか見たことないが、パルテノン神殿みたいだ。
広い身廊の真ん中を車は行く。周囲には修道女や修道士が数多くいて、身廊の真ん中を開けて立っている。中央をオレの乗った馬車がゆっくりと進んでいく。

「「「オオオオオオオオオオオオ!」」」

大歓声がと拍手喝采が起こる。さすがガチ宗教国家。

「「「セシル様!」」」

物凄い声援が起こる。ここまで歓迎してくれたら、悪い気はしないな。
スーパースターってこんな気持ちなんだろうか? 信徒たちが歓迎してくれている気持ちがとても伝わってくる。こんな異世界まで来た甲斐があるな。

歓声をあげる人々は、歓喜の涙に号泣する者、膝と手をついて叫ぶように泣く者。叫びすぎたのか失神して警備の騎士に運ばれている者。色々な反応をする人がいる。

身廊の壁や壁寄りの通路には、膨大な数の芸術性の高い装飾品や祭壇画、何百体という全身像が連ねていて、その荘厳さにオレも興奮してしまった。芸術系の教養もパティシエには必要で、ずいぶんとその勉強に時間をさいていたからな。

周囲が大歓声をあげている異常な状態で、馬車はどんどん進み翼廊を過ぎ、終点の巨大な礼拝堂にたどり着いた。ここでは信徒が礼拝堂に入りきらないほど、大勢で溢れかえっている。

うん、やはりガチ宗教って凄すぎるな。日本では無宗教だったから、このような雰囲気って理解ができない。

後頭部はアリシアの胸の谷間の感触がポワポワしていて心地良いしな♪ ガチ宗教国家にハマりそう~♪

終点で馬車をクルッと一回転させてオレは信者に顔を向けている。すると馬車前に金色の祭服を着込んだ男が、片膝をついて右手を胸にあてると立ち上がる。

「セシル様、私は教皇ブライド・マクファーソンでございます。サン・ルステラ大聖堂へようこそおいでくださいました。ご降臨されて皆大変歓喜しております」

「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオ」」」

教皇マクファーソンが手をあげるとピタッと歓声が止まる。よく躾けられているな。

「神の化身が地上に降臨されるという、世界の歴史で過去例のない偉大な記念日に感謝いたします。本日はこの素晴らしき日を永遠に刻むために祝日とし、国をあげてお祝いさせていただきたく思います」

教皇マクファーソンは、コクリと頷くと、鉄の檻を引いて5人組が前列に出て来た。

「私はAランクパーティ俊敏なる脚のリーダー、ゼッファでございます。セシル様のために普通絶対得ることができない龍の子供をお持ちしました。あとで是非ご堪能ください」

ゼッファはものすごく得意げに、鉄の檻を囲うようにしていた幕をあげ、龍の子供を見せる。

「「「「オオオオ!」」」

みなが驚いて歓声をあげる。ゼッファは自信満々だ。調子に乗って、帯刀していた剣を抜き、頭上にあげた。

でも龍の子供って捕まえても大丈夫なのだろうか。だいたいRPGの定番最強の敵キャラは龍だ。龍が子供を取り返しにきて国が積んだりすることとかないのだろうか? それともこの異世界では龍はそれほどでもなかったりするのか?

「おお! 人が絶対にかなわない龍を手玉に取り子供を捕まえるとは何という豪気なことか! そなたたちには思いのままの恩賞をとらすことを、私は約束するであろう!」

「ありがたき幸せにございます!」

そうか。やはり龍は相当強そうだ。龍って捕まえてどうするんだろ? そういえば、さっきご堪能下さいって言ってたし、食べるのか?

「セシル様に是非とも献上し、召し上がっていただきたく存じます」

やっぱり食べるのか……龍。

《サポート》
龍って美味しいのか教えて?

【例外はあるが、基本的に魔力の高い魔物ほど美味である。異世界では龍が魔物の王者である。龍族が最も高い魔力を持っている】

へ~。魔力が高いほど美味いとなると、龍って相当美味しいのか。この後楽しみだな。

「ピュ~イ、ピュ~イ」

なんか可愛い鳴き声だがこの世は弱肉強食だからな。オレたちを恨むなよ。

「それでは調理場に連れて行……何?」

『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!』

突如、大きく神殿が揺れる。神殿というよりもこの神都全体に地響きが起きている。何が起きたんだ? と考えていると、騎士が礼拝堂に飛び込んでくる。

「緊急事態でございます! 緊急事態でございます! 龍が北の城門を攻撃しています!」

騎士は真っ青な顔で告げる。その瞬間にみな龍の子供を見る。

「な、なんと! 龍が子供を取り戻しにきたのか。なんてこった!」

「増援とご支持をお願いいたします!」

その間もゴゴゴゴッと地響きが何度も起こる。龍さんは子供を助けに来ているのだろうな。さすが怒れる龍だなあ。ちょっと探査マップで北の城門を見てみよう。

《探査マップ》

お! これだな。北門の外にでっかいマーカーがあった。ん? 赤いのは何故だろう?

●魔物名:龍
●状態:激昂
●脅威度:SS
●レベル:854
●HP:59201
●MP:58579
●腕力:29860
●体力:29341
●敏捷:29542
●知力:29312
●魔力:29267
●器用度:29843
●スキル
ブレス4、咆哮4

うっは! こりゃ強いや。この国終わったな。30メートルはあるのではないだろうか? ってシロナガスクジラより大きそうだな。さすがRPG最強の龍っていったことだな。ということは、さっきの地響きはやはり龍の咆哮か。地響きがここまで届くほどとは凄まじい威力だな。

画像を動かして守備側を見ると、城壁の上から戦っている騎士は必死に弓矢をバンバン撃って城壁に寄せ付けないようにしている。
上級職である聖騎士も魔法で攻撃して龍を近づかせないように全力で抵抗している。まあ、敗北は時間の問題だろうな。お、また咆哮が来る。

『ゴゴゴゴゴゴゴゴオオオオオオオオオオオオオオオオ』

アリシアはオレをそっとイスに持たれかけさせ、立ち上がった。覚悟を決めたようにキリッと真顔になり、教皇猊下を見る。キリッとしたアリシアも可愛い♪

「マクファーソン、セシル様をウェルラミウム市に連れて行きなさい。そして北以外の城門を全て開け、神民に非常事態宣言を出し、避難させなさい。
そしてわたくしの後継者は予定通りルシィルに任せます。
クレタはそのまま聖女の御付きとしてルシィルに仕えて下さい。良いですわね」

アリシアは非常事態に次々と指示を出した。教皇マクファーソンはアリシアをまっすぐ見てコクリと頷く。さすがトップの判断力は素早いな。すぐに現実を受け入れて決断した。

「はっ! 聖女様、仰せにお従いいたします」

ルシィルもアリシアの話にコクリとうなづいた。ああ見えて冷静な判断が出来るようだ。さすが次代の聖女になるだけの胆力はある。しかし意外だったのがクレタだった。彼女はいつも冷静な娘だと思っていたが、少し取り乱しているようだ。

「そんな! アリシア様も退避なさいませんと。もっと私をアリシア様に仕えさせて下さい。アリシア様~」

あの冷静沈着なクレタが、泣きながら懇願する。そんなクレタを見てアリシアは優しく微笑む。

「クレタは今までよくわたくしに仕えてくれたわね、ありがとう。あなたのおかげで何も不自由することなく聖女としてやれた事に感謝しているわ。
でもね。神民が脱出する時間を作り、龍を止めることが出来るのが、わたくしである事はあなたが一番よく分かっているでしょう」

そう言われるとグッと口を強く結び、クレタは黙る。

「……承、知いたしました。アリシア様、ご武運をお祈りします。どうか、どうか生きてください」

アリシアはコクリと頷いてクレタを優しくハグをした。そして、泣くクレタをソッと離すと、オレに向き合った。

「セシル様、このあとわたくしは神民が脱出する時間を稼ぐために龍の相手をしなくてはなりません。どうやらわたくしはここまでのようですわ。天に召される前にエロース神様の化身セシル様に出会えたこと、心から感謝いたしております。そしてご無事にウェルラミウム市に避難できることをお祈りいたしておりますわ」

そう言うと片膝を地面につき、両手を胸の前で組み、迷いのない顔で微笑んだ。今から神民の為に死地に向かうというのに、何という清々しい女の子なのだろう。

「聖騎士はわたくしに続きなさい! 龍を止めに行きます。行きましょう!」

最後のお暇が終わると、アリシアは立ち上がり、聖騎士たちに向かい鼓舞をした。

「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオ!」」」

アリシアは神殿から出ていくと、後ろから聖騎士が1000名ほどついて出て行く。

良い子だ、良い子だアリシア。神民が脱出する時間を稼ぐためだけに、己の命を差し出すつもりだ。自分のふところを潤わすことだけを、やっている政治家たちに、爪の垢でも飲ませてやりたい。

この娘を何とか助けれないだろうか? う~んダメだ。やはり全く体が動かん、困ったな。痺れはだいぶ取れてきているのだがな。

「それではセシル様、ここからは聖女に代わり、私、マクファーソンがお守りいたします。神殿専門の地下トンネルから脱出するぞ! 急げ!」

「「「はい!教皇猊下!」」」

馬車は神殿の入り口ではなく、さらに奥の方に向かっていく。礼拝堂の壁がガラガラガラと開き、そこに馬車は入っていく。
緊急脱出用の秘密の道があったんだな。今はオレの横にルシィルがついている。

《探査マップ/神愛》

アリシアはどうなったかな? お! いたいた。

ミニウィンドウにアリシアが映った。今、龍と対峙している北の城門に到着したようだ。

《ホーリーシールド/聖なる盾》
《バトルソング/鼓舞》
《リカバリー/回復魔法》×5

立て続けに3つも呪文を唱えたアリシアは守備隊の騎士たちを見る。

「騎士の皆さん、セシル様を、神民を守るために命をかけて戦いましょう。わたくしについてきて下さい!」

持っていたメイスを頭上に掲げると、守備兵を鼓舞する。

「ウオオオオオォォ! アリシア様が来てくださったぞ! 龍といえどそう簡単に負けはしないぞ!」

守備隊も盛り上がって指揮が上がる。戦いを見ていると、アリシアの魔力を6倍かけたホーリーシールドだけが、龍のブレスを止めることができるようだ。他の聖騎士は攻撃魔法を撃ち、騎士は弓を撃つが、龍にはなんの意味もない。全くダメージが入っていない。

MMORPGモンスターバスターでは、攻撃力が防御力を超えなければダメージは0だ。残酷な構図となってしまっているが、アリシア以外はいても意味がない。唯一龍の攻撃に耐える力を持つアリシアも1回のブレスで魔力を通常の6倍も使ってしまう為、魔力回復ポーションをガブ飲みしながら、耐えている。どちらにせよ、いずれ敗退することは間違いない。

攻撃力が全然足りていない。龍の防御膜を突破することすらできていない。ここを突破しないとダメージにならないのだ。

勝てないけど神民が逃げるまで持ちこたえることができると、アリシアが言っていたのはそういうことか。みんな頑張れ。

オレはというと教皇マクファーソンたちと個室で脱出準備が整うまで待機している。まあ、貴重な文化遺産とかたくさんありそうだし時間がかかるのだろう。オレはルシィルの膝枕で寝ている。ルシィルもクレタも両手を組み一心に祈っている。アリシアの無事を祈っているんだろう。祈りって神に祈るのだろうから、神の化身であるオレに祈っているのか。体が痺れて動けなくてすいません。動ければ龍の10倍近くステータスが高いのでなんとかなるのだがな。

ん? なんかルシィルの体が薄っすら光を帯びてきているような気がする。なんだ? 魔法を詠唱しているのだろうか?
探索マップで街中を見ていると、こちらでも異常事態が起きている。なんと、みんな逃げていない!? 逃げようとすらしていない。多くの神民が両手を胸に辺りで組み、祈りを捧げている。

さすがガチ宗教国家。龍が襲ってきたという、こんな時でも神に祈りを捧げるとは。みんな死ぬかもしれないのだから逃げないとやばいって。

一方アリシアもピンチになってきている。龍のブレス攻撃が激しさを増してきている。アリシアは魔力回復ポーションをガブ飲みして魔力を切らさないようにしている。しかしホーリーシールドをもう何百枚も貼っては破られ、貼っては破られている。龍のブレスに耐えられるホーリーシールドを張れるのはアリシアだけだ。シールドの厚みが他の聖騎士のものとは次元が違う。他の聖騎士が張るホーリーシールドは薄っぺらな紙のようだ。

激昂している龍に、思ったより早く負けそうだ。攻撃もすべて龍の防御膜に阻まれて意味ないしな。矢や魔法攻撃が皮膚に到達していない。そんな中、街のミニウィンドウから叫び声が聞こえる。

「「「エロース神様我々をお救い下さい! セシル様我々をお救い下さい!」」」

別の場所でも同じ祈りをあげている。っていうか神都ベネベント中で同じように祈りを叫ぶようにして捧げている。神殿内からも聞こえてきた。

おお! 大合唱だ。オレも祈られている。助けてあげたいけどマジで動けないんだよこれがな。そうして祈りの大合唱を聞いていると、ルシィルとクレタ、他の巫女、教皇マクファーソンまで祈りはじめた。

祈りが光の奔流となっている。祈っている人たちの体からなんか出てる。魂が抜ける様な感じと言えば良いだろうか。その光の塊が大量にオレに向かってきている。

いや、オレじゃないな。ルシィルだ! 彼女の中にドンドン入ってきている。気がつくとルシィルの体がまぶしすぎて見えないくらい光輝きはじめた。

ど、どうなってんだこれ? この光、前に見たな。エロース神様に召喚された時と同じだ。っと考えていたら、光の奔流がルシィルの体からオレの体に移ってきていた。オレの体も光りはじめた。

な、何が起きたんだ。眩しすぎて目を開けられないぞ。しばらくして光がおさまると、その場にいる全員が倒れていた。

「……体が……動く……」

オレの体が動くようになっていた。手をにぎにぎしてみる。そっとルシィルを寝かせて立ち上がる。

「オレの体が動くし声も出る。転移後のオレの声は、こんな低めの渋い声だったのか。声のトーンは前の体の時より低めだな。それにしてもなんで急に治ったんだ。そういえばルシィルに光が集まっていた。彼女が何かしたのか?」

探査マップ/神愛のルシィルをタップする。

●名前:ルシィル・パレルモ
●年齢:13歳
●種族:ヒューマン
●所属:パルミラ教皇国、神託の聖女見習い
●身長/体重:162/46
●髪型:ピンク髪ウェーブヘア
●瞳の色:青色
●スリーサイズ:79/55/81
●カップ/形:G/半球
●経験:なし
●状態:失神
●ベースレベル:78
●職業:レベル48聖騎士
●HP:6230⇒1
●MP:6490⇒1
●腕力:3129⇒1
●体力:3101⇒1
●敏捷:3118⇒1
●知力:3223⇒1
●魔力:3267⇒1
●器用度:3145⇒1
●スキル
神聖魔法5、盾術5、戦棍術4、生活魔法
●エキストラスキル
エロース神の寵愛、奇跡の祝祷
●装備
メイス+5

ルシィルもアリシアとほぼ同じ強さだな。膝枕の時に気がついていたが、やはりGカップだったとはな。Gは爆乳に位置する。ツンツン指で突っつくと、Gカップがポヨンポヨンするな、ぐふふ♪ だが今はそんなことをやっている場合ではない。
床に倒れているクレタをルシィルの横のそっと寝かせる。

「さぁ、アリシアを助けにいくか」


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