異世界転移して出会っためちゃくちゃ好きな男が全く手を出してこない

春野ひより

文字の大きさ
上 下
49 / 54
時価マイナス2000万

4-8

しおりを挟む
 起きたら9時を過ぎていて、それにベッドの中に居た。
 のそりと起き上がったアオイは、四つん這いのような姿勢のまま静止した。まだ眠い。それから5分。まだ眠かったがジスランがいたと思しき箇所はすっかり冷えている。急に寂しくなったアオイはのそのそと起き出した。
 大きめのガウンを羽織っただけの格好で外に出ると、ハトリがすっ飛んできた。

「アオイ様、服!服!」
「パジャマだし上に着てるからセーフ」
「アウトです!」
「ところでジスランは?」

 ハトリが頭を抱えた。

「ごめんって、ジスランにバレなきゃ大丈夫だよ」

 アオイはそう言うと、小さな欠伸をひとつしてふっと窓の外を見た。丁寧に整えられた花園がある。そこの一角、赤い薔薇茂みの前にジスランの姿があった。

「…………」

 アオイは吸い込まれるように窓の近くに寄ると、額をくっつけじっと外を見た。

「アオイ様……?」

 ジスランは1人ではなかった。誰か――女と居る。ザワ、と心が波打ってアオイは眉間に皺を寄せた。窓を触っていた手が拳を握る。
 女は頬を紅潮させ、ジスランに何か話しかけている。すると、女の後ろから5歳ぐらいの少年が駆けてきた。ジスランに目一杯手を振っている。ジスランは微笑ましいものを見るように目を細めた。

「……いいなあ」

 こぼれ落ちた言葉は、羨望に満ちていた。

「アオイ様?」

 アオイは目を瞠った。今、僕は何て言った?
 少年はジスランに向けて身振り手振りで何かを一生懸命伝えている。ジスランは困ったように少し眉を下げると、少年の頭を撫でた。少年は飛び跳ね全身で喜びを表現している。
 その姿が、昨夜のアオイと重なった。

(――いや違う)
 
 重なりそうで、重ならなかった。
 だってあの少年はアオイのように綺麗じゃない。普通の、どこにでもいる普通の少年だ。
 それなのに!

(どうしてジスランに優しくしてもらえるの――)
 
 ジスランはアオイが好きだ。それは、アオイがアイドルだからだ。
 じゃあ、アイドルじゃないアオイは?
 そんなの嫌われるに決まってるじゃないか!

(それなのに、昨日の僕は、僕は――)

 アオイは唇を噛んだ。プツン、と皮が千切れ鉄の味が広がる。

「僕は、期待に応えられなきゃ価値がないのに」

(あの男の子に、僕はなれない)

 もしここにジスランがいれば、どうして?と優しく問いかけたはずだ。しかし、ここにジスランは居なかった。ハトリは怪訝そうな顔をしながらも見守っているだけである。ここまで追い詰められてもなお、アオイの顔色は変わらなかったからだ。
 アオイはポツリとつぶやいた。

「手紙にさ、みんな僕が悪いって書いてあったんだ」
「アオイ様に悪い所なんてありません!」

 ハトリが素早く否定したが、アオイの心には響かなかった。

「うん、でもさ、あんな手紙だけで醜態を晒す僕に、価値はないんだよ」
「アオイ様、さっきからいったい何を……」
「だからきっと、僕が悪いんだ」

 やっと気づいたの?
 どこから聞こえたその言葉と共に、アオイの意識は闇に呑まれた。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

イケメンの後輩にめちゃめちゃお願いされて、一回だけやってしまったら、大変なことになってしまった話

ゆなな
BL
タイトルどおり熱烈に年下に口説かれるお話。Twitterに載せていたものに加筆しました。Twitter→@yuna_org

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

ブラッドフォード卿のお気に召すままに~~腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する~~

ゆうきぼし/優輝星
BL
異世界転移BL。浄化のため召喚された異世界人は二人だった。腹黒宰相と呼ばれるブラッドフォード卿は、モブ扱いのイブキを手元に置く。それは自分の手駒の一つとして利用するためだった。だが、イブキの可愛さと優しさに触れ溺愛していく。しかもイブキには何やら不思議なチカラがあるようで……。 *マークはR回。(後半になります) ・ご都合主義のなーろっぱです。 ・攻めは頭の回転が速い魔力強の超人ですがちょっぴりダメンズなところあり。そんな彼の癒しとなるのが受けです。癖のありそうな脇役あり。どうぞよろしくお願いします。 腹黒宰相×獣医の卵(モフモフ癒やし手) ・イラストは青城硝子先生です。

優しくて知的な彼氏とサークルの合宿中我慢できなくて車でこっそりしたら、優しい彼氏が野獣になってしまった話

ゆなな
BL
Twitterで連載していたタイトルそのまんまのお話です。大学のサークルの先輩×後輩。千聖はいろさん@9kuiroが描いて下さったTwitterとpixivのアイコン、理央はアルファポリスのアイコンをモデルに書かせてもらいました。

ナイトプールが出会いの場だと知らずに友達に連れてこられた地味な大学生がド派手な美しい男にナンパされて口説かれる話

ゆなな
BL
高級ホテルのナイトプールが出会いの場だと知らずに大学の友達に連れて来れられた平凡な大学生海斗。 海斗はその場で自分が浮いていることに気が付き帰ろうとしたが、見たことがないくらい美しい男に声を掛けられる。 夏の夜のプールで甘くかき口説かれた海斗は、これが美しい男の一夜の気まぐれだとわかっていても夢中にならずにはいられなかった。 ホテルに宿泊していた男に流れるように部屋に連れ込まれた海斗。 翌朝逃げるようにホテルの部屋を出た海斗はようやく男の驚くべき正体に気が付き、目を瞠った……

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた

マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。 主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。 しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。 平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。 タイトルを変えました。 前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。 急に変えてしまい、すみません。  

処理中です...