異世界転移して出会っためちゃくちゃ好きな男が全く手を出してこない

春野ひより

文字の大きさ
上 下
44 / 54
時価マイナス2000万

4−3

しおりを挟む
「お疲れ様ですー」
「あ! アオイ様! ノヴァ様も」

 ステージに着くと数人のスッタフが駆け寄ってくる。彼らに笑顔で挨拶をしながらアオイは進捗を尋ねた。

「だいたいできています。あとは照明のチェックですね」
「ちょうどいいや。僕も一緒にやります。最終日のチケットの捌け具合はどうなってますか?」

 ライブは月に3回、1日おきに開催されている。本当は連日開催したかったが、この国の技術ではどうしても1日準備の時間が必要なのだ。もちろんジスランは全通している。
 アオイの質問に、スタッフの男はきびきびと答えた。

「完売しています。立ち見希望の声も増えていますね」
「あんまりギチギチに入れたくないんだよなあ……やっぱ欲しいなあテレビ。中継したい。ラジオもいいけどアイドルは顔が命だし」

 アオイのつぶやきに、隣にいたノヴァが反応した。

「そうそう、そういうのだよ偉い人が欲しい知識」
「テレビ? やですよ。仕組み知らないし」
「仕組み知らないくせに色々無理言って舞台装置作らせたやつが何言ってんだか」

 ノヴァが呆れたように片眉をつり上げた。

「だって欲しかったんだもん」
「うるせ~」
「でもノヴァ様だってアオイ様の作る舞台の素晴らしさは知ってますよね?! 俺、初めて見た時は本当に感動して……確かに無茶言ってると思うこともありますけど」
「あるんだ」
「でもでも、本当に凄いです! こんなのアオイ様は見慣れてるかもしれませんけど……でも、あれが見れるなら俺たち死ぬ気で頑張れます!」

 スッタフ瞳はキラキラと輝いている。アオイと一緒にステージを作ることに誇りを持っている顔だ。アオイの妥協しない姿勢は、こういう志の高い若者をよく惹きつけた。

「アオイ様! 準備できました!」
「あ、はーい。どうぞ」

 アオイの声に従ってパッと照明がつく。親しんだ明りにアオイは目を細めた。

「ノヴァさん、ちょうどいいんでステージ中央に立ってください」
「はいはい。アオイ様の仰せのままに」

 ノヴァはそう言って気だるげな様子で歩いて行った。手渡されたメガホンを片手に声を張りあげる。

「一番端の照明もう少し右――そうそこ! そのまま少し傾けてください。オッケー」
「アオイ様、舞台セットの確認もお願いします!」
「もちろん、もうこのままリハーサル行きまーす。各自準備してー」

 アオイの掛け声に従ってバタバタと人が行き交いはじめる。アオイはステージに立ちノヴァの隣に並んだ。

「アンタ、衣装は」

 と、ノヴァ。

「後で持ってきてもらいます。というか、このままリハいって大丈夫でしたか」
「いい。なるだろうなと思ってたし」
「あはは……はい、じゃあ一曲目から行きます――!」
 



 リハーサルを終えたアオイは、楽屋で先ほど到着したハトリに差し入れしてもらった水を飲んでいた。ハトリが到着したと言うことは、ジスランもいるということである。傍に控えているハトリに向かってアオイは話しかけた。

「ジスラン、今日は楽屋に来ないの?」
「今日は終わったらくるそうです。今はどうしても欲しいグッズ? があるとのことでした」
「言ってくれたらあげるのに」

 アオイはそう言って口をとがらせた。ハトリが言っているのは今回のライブから始めた物販のことである。いよいよ痛バ作るジスランが現実味を帯びてきたな、とアオイは思っている。そうなったらどうやって止めよう。
 ハトリが困ったように眉を下げた。

「竜神様はその、アオイ様のことに関しては絶対に譲らないので……」

 ノヴァが口を挟んだ。

「愛されてんじゃん」
「そうなんですけどお」
「完璧なステージができたらそれでいいじゃないの」
「そうなんですけど!」

 アオイはため息を吐き、真っ直ぐ前を見据えた。

「……ノヴァさんの言う通りです。ジスランから貰ったものは全部ステージで返します」
 
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

優しくて知的な彼氏とサークルの合宿中我慢できなくて車でこっそりしたら、優しい彼氏が野獣になってしまった話

ゆなな
BL
Twitterで連載していたタイトルそのまんまのお話です。大学のサークルの先輩×後輩。千聖はいろさん@9kuiroが描いて下さったTwitterとpixivのアイコン、理央はアルファポリスのアイコンをモデルに書かせてもらいました。

邪魔にならないように自分から身を引いて別れたモトカレと数年後再会する話

ゆなな
BL
コンビニのバイトで売れない美しいミュージシャンと出会った大学生のアオイは夢を追う彼の生活を必死で支えた。その甲斐あって、彼はデビューの夢を掴んだが、眩いばかりの彼の邪魔になりたくなくて、平凡なアオイは彼から身を引いた。 Twitterに掲載していたものに加筆しました。

俺の彼氏には特別に大切なヒトがいる

ゆなな
BL
レモン色の髪がキラキラに眩しくてめちゃくちゃ格好いいコータと、黒髪が綺麗で美人な真琴は最高にお似合いの幼馴染だった。 だから俺みたいな平凡が割り込めるはずなんてないと思っていたのに、コータと付き合えることになった俺。 いつかちゃんと真琴に返すから…… それまで少しだけ、コータの隣にいさせて……

ブラッドフォード卿のお気に召すままに~~腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する~~

ゆうきぼし/優輝星
BL
異世界転移BL。浄化のため召喚された異世界人は二人だった。腹黒宰相と呼ばれるブラッドフォード卿は、モブ扱いのイブキを手元に置く。それは自分の手駒の一つとして利用するためだった。だが、イブキの可愛さと優しさに触れ溺愛していく。しかもイブキには何やら不思議なチカラがあるようで……。 *マークはR回。(後半になります) ・ご都合主義のなーろっぱです。 ・攻めは頭の回転が速い魔力強の超人ですがちょっぴりダメンズなところあり。そんな彼の癒しとなるのが受けです。癖のありそうな脇役あり。どうぞよろしくお願いします。 腹黒宰相×獣医の卵(モフモフ癒やし手) ・イラストは青城硝子先生です。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

イケメンの後輩にめちゃめちゃお願いされて、一回だけやってしまったら、大変なことになってしまった話

ゆなな
BL
タイトルどおり熱烈に年下に口説かれるお話。Twitterに載せていたものに加筆しました。Twitter→@yuna_org

ナイトプールが出会いの場だと知らずに友達に連れてこられた地味な大学生がド派手な美しい男にナンパされて口説かれる話

ゆなな
BL
高級ホテルのナイトプールが出会いの場だと知らずに大学の友達に連れて来れられた平凡な大学生海斗。 海斗はその場で自分が浮いていることに気が付き帰ろうとしたが、見たことがないくらい美しい男に声を掛けられる。 夏の夜のプールで甘くかき口説かれた海斗は、これが美しい男の一夜の気まぐれだとわかっていても夢中にならずにはいられなかった。 ホテルに宿泊していた男に流れるように部屋に連れ込まれた海斗。 翌朝逃げるようにホテルの部屋を出た海斗はようやく男の驚くべき正体に気が付き、目を瞠った……

王様お許しください

nano ひにゃ
BL
魔王様に気に入られる弱小魔物。 気ままに暮らしていた所に突然魔王が城と共に現れ抱かれるようになる。 性描写は予告なく入ります、冒頭からですのでご注意ください。

処理中です...