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時価2000万
3-4
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「眠れない?」
ジスランの瞳が剣呑に光る。男はアオイの全身に素早く目をを知らせると、早口に捲し立てた。
「やはり身体に負担が? いえ、それより大丈夫ですか? 熱は?」
ちょっとした口実のつもりだったのに、思っていた以上に心配するジスランにむず痒い気持ちになる。アオイは気遣わしげに上げられた男の腕をそっと押し留めながら首を横に振った。
「だ、大丈夫。そもそもこの時間はいつも起きていたから眠れないだけで……」
「この時間も? ……いつも? 店が閉まってから数時間経ちますけど」
「あはは、驚いた? 僕たちは意外と忙しいんだ。ところで、ジスランの部屋に行ってもいい? それともジスランが来る?」
遮るようにして強引に話題を変えると、ジスランは釈然としない顔のまま、しぶしぶといった様子でアオイから離れた。そのまま上半身を捻り、自室に向かってアオイを招くように腕を広げる。
「……私の部屋へ。暖かいお茶を用意します」
「あっ待って待って」
立ち上がり部屋の中へ進んで行こうとするジスランの服の裾を掴むと、ジスランは不思議そうな顔をしながら振り返った。
「どうかしましたか?」
「その、ハトリさんとかには知られたくなくて……」
顔を伏せ、裾を握りながらもごもごと口を動かすと、ジスランはああ、と軽く頷いた。男はさり気ない仕草でアオイから離れ立ち上がると「大丈夫ですよ」と穏やかな声で答えた。顔が見たくて追いかけるように扉から顔を出すと、悪戯っぽく笑うジスランと目が合った。
「ハトリにも誰にも知らせませんよ。淹れるのは私です」
「ほんとに?」
「ほんと。さ、おいで」
促され小さな扉を潜る。ずっと屈んでいたため固まった筋肉を伸ばそうと背伸びをしていると、男は愉快そうに肩を揺らした。
「まったく、悪い子ですね」
言葉とは裏腹に口調は柔らかい。アオイは恥ずかしそうにはにかむと目を細めた。
「悪い子の僕は嫌い?」
「いいえ、愛らしくて好きですよ」
「そ、れは……ありがとう」
不意に、まるで当然のように与えられた好意にうっかり動揺してしまう。ジスランの答えはだいたい予想ができていて、そう言ってもらいたかったからあんな聞き方をしたのに、実際に返ってくるととても恥ずかしかった。アオイは赤く染まった頬を隠すようにぐるりと部屋を見回して、それから、ジスランに胡乱な視線を向けた。ジスランが不思議そうに首を傾げる。
「アオイ?」
「……ジスラン、もしかして赤が好きだったりする?」
「うん? ええ、はい。それがどうかしましたか?」
「ふうん」
「アオイ?」
「なんでもなーい」
突然つんとそっぽを向いてしまったアオイにおろおろしているジスランを無視して、アオイは大股でソファまで歩くと部屋の主人に断ることなくぼすんと腰掛けた。クッションを手繰り寄せながら、アオイはジスランをじとりとした目で見つめた。
別にいいけどさ、ソラハアオイが好きなのに、部屋は赤いんだ。ふうん、そう。
「アオイ? 何か嫌なことでもありましたか? 寒い?」
「別にー。でも、ジスランは僕への愛が足りないと思う」
「そんなことありませんけど」
アオイの言葉尻に被せる勢いだった。その真剣な声に思わず顔を上げて彼の顔を見る。真顔だった。これ以上ない程の真顔だ。反射的に、怒ってる、と思った。慌てて謝罪の言葉を口にしようとするそれより先に、ジスランは、アオイの傍までくると、膝を付いて下から覗き込むようにしてアオイと目を合わせた。真剣な瞳にアオイの心臓が跳ねる。ジスランはそっとアオイの手を取ると、名前を呼んだ。アオイの名前だ。その呼び方があまりに優しくて、アオイは無意識のうちに息を止めていた。
「私は、アオイが何よりも大切で、愛しています」
こんなに愛おしそうに目を細めて、視界いっぱいにアオイを写しているのに、ジスランの「好き」はアオイと同じ「好き」じゃない。
ままならないな、とアオイは思った。熱のこもった視線から逃げるように目を伏せると、ジスランの、「信じて」という声が追いかけてくる。アオイは顔を上げた。彼の瞳の中に、所在なさげにジスランに手を預けたアオイがいた。
「私は君のためなら、君が望むならいくらでも竜人の鱗を捧げる用意があります」
「んん゛っ……」
アオイは素早くジスランから顔を逸らした。ジスランは笑っていない。マジだ。本気で言っているのである。
「アオイ、私から目を離さないでください。せっかくだし欲しいって言ってくれませんか?」
せっかくだし? 一体何がせっかくなんだ? アオイは慌てて手のひらをジスランに向け顔を隠した。降参のポーズである。
「ごめん、大人気なかった、反省してます。ジスランの愛は疑ってません」
「ほんとに? 何が不満だったの? 教えて、アオイ」
「いや本当に大したことないし僕もちょっと元の世界のノリだったというか、だから本当、ジスランは何も悪くなくて」
早口で畳み掛けるように弁解して、ぶんぶんと首を横に振る。
部屋のメインカラーが赤だっただけで不貞腐れるのはどう考えてもアオイが悪い。冷静に考えて、そもそもこの世界にイメージカラーの概念あるか分からないし。別に俺も好きな色何?って聞かれたら黒って答えるし。
ジスランの瞳が剣呑に光る。男はアオイの全身に素早く目をを知らせると、早口に捲し立てた。
「やはり身体に負担が? いえ、それより大丈夫ですか? 熱は?」
ちょっとした口実のつもりだったのに、思っていた以上に心配するジスランにむず痒い気持ちになる。アオイは気遣わしげに上げられた男の腕をそっと押し留めながら首を横に振った。
「だ、大丈夫。そもそもこの時間はいつも起きていたから眠れないだけで……」
「この時間も? ……いつも? 店が閉まってから数時間経ちますけど」
「あはは、驚いた? 僕たちは意外と忙しいんだ。ところで、ジスランの部屋に行ってもいい? それともジスランが来る?」
遮るようにして強引に話題を変えると、ジスランは釈然としない顔のまま、しぶしぶといった様子でアオイから離れた。そのまま上半身を捻り、自室に向かってアオイを招くように腕を広げる。
「……私の部屋へ。暖かいお茶を用意します」
「あっ待って待って」
立ち上がり部屋の中へ進んで行こうとするジスランの服の裾を掴むと、ジスランは不思議そうな顔をしながら振り返った。
「どうかしましたか?」
「その、ハトリさんとかには知られたくなくて……」
顔を伏せ、裾を握りながらもごもごと口を動かすと、ジスランはああ、と軽く頷いた。男はさり気ない仕草でアオイから離れ立ち上がると「大丈夫ですよ」と穏やかな声で答えた。顔が見たくて追いかけるように扉から顔を出すと、悪戯っぽく笑うジスランと目が合った。
「ハトリにも誰にも知らせませんよ。淹れるのは私です」
「ほんとに?」
「ほんと。さ、おいで」
促され小さな扉を潜る。ずっと屈んでいたため固まった筋肉を伸ばそうと背伸びをしていると、男は愉快そうに肩を揺らした。
「まったく、悪い子ですね」
言葉とは裏腹に口調は柔らかい。アオイは恥ずかしそうにはにかむと目を細めた。
「悪い子の僕は嫌い?」
「いいえ、愛らしくて好きですよ」
「そ、れは……ありがとう」
不意に、まるで当然のように与えられた好意にうっかり動揺してしまう。ジスランの答えはだいたい予想ができていて、そう言ってもらいたかったからあんな聞き方をしたのに、実際に返ってくるととても恥ずかしかった。アオイは赤く染まった頬を隠すようにぐるりと部屋を見回して、それから、ジスランに胡乱な視線を向けた。ジスランが不思議そうに首を傾げる。
「アオイ?」
「……ジスラン、もしかして赤が好きだったりする?」
「うん? ええ、はい。それがどうかしましたか?」
「ふうん」
「アオイ?」
「なんでもなーい」
突然つんとそっぽを向いてしまったアオイにおろおろしているジスランを無視して、アオイは大股でソファまで歩くと部屋の主人に断ることなくぼすんと腰掛けた。クッションを手繰り寄せながら、アオイはジスランをじとりとした目で見つめた。
別にいいけどさ、ソラハアオイが好きなのに、部屋は赤いんだ。ふうん、そう。
「アオイ? 何か嫌なことでもありましたか? 寒い?」
「別にー。でも、ジスランは僕への愛が足りないと思う」
「そんなことありませんけど」
アオイの言葉尻に被せる勢いだった。その真剣な声に思わず顔を上げて彼の顔を見る。真顔だった。これ以上ない程の真顔だ。反射的に、怒ってる、と思った。慌てて謝罪の言葉を口にしようとするそれより先に、ジスランは、アオイの傍までくると、膝を付いて下から覗き込むようにしてアオイと目を合わせた。真剣な瞳にアオイの心臓が跳ねる。ジスランはそっとアオイの手を取ると、名前を呼んだ。アオイの名前だ。その呼び方があまりに優しくて、アオイは無意識のうちに息を止めていた。
「私は、アオイが何よりも大切で、愛しています」
こんなに愛おしそうに目を細めて、視界いっぱいにアオイを写しているのに、ジスランの「好き」はアオイと同じ「好き」じゃない。
ままならないな、とアオイは思った。熱のこもった視線から逃げるように目を伏せると、ジスランの、「信じて」という声が追いかけてくる。アオイは顔を上げた。彼の瞳の中に、所在なさげにジスランに手を預けたアオイがいた。
「私は君のためなら、君が望むならいくらでも竜人の鱗を捧げる用意があります」
「んん゛っ……」
アオイは素早くジスランから顔を逸らした。ジスランは笑っていない。マジだ。本気で言っているのである。
「アオイ、私から目を離さないでください。せっかくだし欲しいって言ってくれませんか?」
せっかくだし? 一体何がせっかくなんだ? アオイは慌てて手のひらをジスランに向け顔を隠した。降参のポーズである。
「ごめん、大人気なかった、反省してます。ジスランの愛は疑ってません」
「ほんとに? 何が不満だったの? 教えて、アオイ」
「いや本当に大したことないし僕もちょっと元の世界のノリだったというか、だから本当、ジスランは何も悪くなくて」
早口で畳み掛けるように弁解して、ぶんぶんと首を横に振る。
部屋のメインカラーが赤だっただけで不貞腐れるのはどう考えてもアオイが悪い。冷静に考えて、そもそもこの世界にイメージカラーの概念あるか分からないし。別に俺も好きな色何?って聞かれたら黒って答えるし。
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