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時価1000万
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魔女の言葉がぐるぐる頭の中を巡っている。
自室に着いたアオイは、ぐるりと部屋を見渡し衣装棚に目を止めた。着ている服を脱ぎながら衣装棚に近づく。ばさりと服が落ち、あっという間に全裸になった。
「赤……いや青……違うな、黄色にしよう」
思い描くイメージに相応しい服を素早く選んでいく。着替え終わると、今度はジュエリーボックスを開け、中身を棚の上にぶちまけた。
これは、全てあの美しい男から貰った物だ。
アオイは男から贈られたものを一つも換金していなかった。それは、贈られたものを身に付けて頻繁に来店する男を喜ばすためでもあったが、何より、できなかったのだ。
――だって俺たちはこんなものでしか繋がれない!
「はは、アホらし」
乾いた笑いを漏らすと、アオイは男が似合うと言ったピアスをつけ、ブレスレットを嵌めた。鏡を見る。美しく着飾った青年がそこにいた。
「僕は空波蒼――」
それはアイドルの名前だ。愛されるために作った偶像。
空波蒼。空は青い。青い空のように、誰にとっても当たり前で、決して近いところにはいないけど、皆から好かれる存在になりたかった。
でも、ここは違う。
ここの、この世界の空は青くない。
――ここの空は黄金に輝いている!
少し遅れてサロンに到着したアオイは、既にあの美しい男が居るのを見てごくりと唾を飲み込んだ。
アオイは小さく息を吸うと、男に向かって歩き出した。
「こんばんは、旦那様」
声をかけると、すぐに男が振り向いた。その後ろにいるノヴァが微かに眉を上げたのを見て、アオイは微笑を浮かべた。何も言わんでください。んなこた分かってるわ。目配せだけの会話が終了する。
「アオイ。遅かったですね、どうしたんですか?」
どこか体調が悪いですか? と気づかわしげにアオイを見る男に、アオイは微笑むと首を横に振った。
「ごめんなさい、今日は何を着ようか迷っていたら時間がかかっちゃいました……どうですか?」
男は180センチあるアオイよりも上背があるので、目を合わせようとすると必然的に見上げる形になる。照れくさそうに頬を染めてみせると、男は穏やかな表情で目を細めた。
「綺麗ですよ、もちろん。……耳飾り、つけてくれたんですね」
男の目が伏せられ、目元に濃い影が作られる。たぶんこれは喜んでる、と判断したアオイは「お気に入りなんです」と耳飾りを愛おしそうに撫でた。男の瞳が微かに見開かれたことに、目を伏せて耳飾りを撫でていたアオイは気づくことができず、傍にいたノヴァだけが気づいていた。
「……アオイ、今夜も君の時間をもらいたいのだけど」
差し出された花を受け取りながら、アオイはにこりと微笑んだ。
「もちろん、お待ちしていました。ご案内しますね」
アオイは小さく息を吸った。さあここからだ。アオイは賭けに出るつもりだった。
「今日が何の日か覚えていますか?」
明かりをつけながら、アオイはソファに腰掛けた男に問いかけた。男は視線を上げアオイの顔を見ると、「もちろん」と鷹揚に頷いた。
「今日はアオイと出会って1ヶ月目です。そうでしょう?」
男の言葉に、アオイは安堵の息を吐いた。「覚えていてくれて嬉しいです」と答えると、男は悪戯っぽく目を細めると、アオイの名前を呼んだ。
「私の名前、分かりましたか?」
「…………」
アオイは男の顔をじっと見つめた。透き通るような白髪、すっきりとした目鼻立ち、薄い唇、そして――黄金に輝く瞳。
「アオイ……?」
ギシ、とソファが軋む音がする。アオイが男の膝に乗り上げたからだ。普段は見上げているその美しい顔を上から覗き込む。はらりと髪が落ち、男の頬にかかった。
男は怪訝そうな顔をしながらも、アオイを振り払うことはしなかった。いや、それどころかアオイの腰に手を触れることすらしない。アオイは所在なさげに空を切る男の手に自分の手を絡めると、ソファに縫い付けた。
「ねえ――僕にいくら出せる?」
「それは、どういう……」
売れるためならなんだってした。好意を利用するのに今更躊躇いなんてない。
――よく知りもしない男にこの美しい人を利用されるくらいなら、僕が使う。
「明日、僕はどこかの、知らない誰かと寝ることになったみたいです」
声が掠れていた。演技じゃなかった。一瞬、まずいな、と思う。同時に、ちょうどいいや、と思った。
醜い本音もタイミング次第で全て売り物になる。真実もホンモノも全部全部虚飾に変えて、ソラハアオイになってしまえばいい。
僕は空派蒼、愛されるために作った偶像。そう、僕ならできるはずだ。
ピースは揃っている。青ではなく金色に輝く空、空の君と呼ばれる竜神様、目の前の、金色の目をした人間離れした美貌を持つ男。
「たすけて――」
男が大きく目を見開く。賽は投げられた。アオイは男の目を真っ直ぐ見た。
「――ジスランさま」
自室に着いたアオイは、ぐるりと部屋を見渡し衣装棚に目を止めた。着ている服を脱ぎながら衣装棚に近づく。ばさりと服が落ち、あっという間に全裸になった。
「赤……いや青……違うな、黄色にしよう」
思い描くイメージに相応しい服を素早く選んでいく。着替え終わると、今度はジュエリーボックスを開け、中身を棚の上にぶちまけた。
これは、全てあの美しい男から貰った物だ。
アオイは男から贈られたものを一つも換金していなかった。それは、贈られたものを身に付けて頻繁に来店する男を喜ばすためでもあったが、何より、できなかったのだ。
――だって俺たちはこんなものでしか繋がれない!
「はは、アホらし」
乾いた笑いを漏らすと、アオイは男が似合うと言ったピアスをつけ、ブレスレットを嵌めた。鏡を見る。美しく着飾った青年がそこにいた。
「僕は空波蒼――」
それはアイドルの名前だ。愛されるために作った偶像。
空波蒼。空は青い。青い空のように、誰にとっても当たり前で、決して近いところにはいないけど、皆から好かれる存在になりたかった。
でも、ここは違う。
ここの、この世界の空は青くない。
――ここの空は黄金に輝いている!
少し遅れてサロンに到着したアオイは、既にあの美しい男が居るのを見てごくりと唾を飲み込んだ。
アオイは小さく息を吸うと、男に向かって歩き出した。
「こんばんは、旦那様」
声をかけると、すぐに男が振り向いた。その後ろにいるノヴァが微かに眉を上げたのを見て、アオイは微笑を浮かべた。何も言わんでください。んなこた分かってるわ。目配せだけの会話が終了する。
「アオイ。遅かったですね、どうしたんですか?」
どこか体調が悪いですか? と気づかわしげにアオイを見る男に、アオイは微笑むと首を横に振った。
「ごめんなさい、今日は何を着ようか迷っていたら時間がかかっちゃいました……どうですか?」
男は180センチあるアオイよりも上背があるので、目を合わせようとすると必然的に見上げる形になる。照れくさそうに頬を染めてみせると、男は穏やかな表情で目を細めた。
「綺麗ですよ、もちろん。……耳飾り、つけてくれたんですね」
男の目が伏せられ、目元に濃い影が作られる。たぶんこれは喜んでる、と判断したアオイは「お気に入りなんです」と耳飾りを愛おしそうに撫でた。男の瞳が微かに見開かれたことに、目を伏せて耳飾りを撫でていたアオイは気づくことができず、傍にいたノヴァだけが気づいていた。
「……アオイ、今夜も君の時間をもらいたいのだけど」
差し出された花を受け取りながら、アオイはにこりと微笑んだ。
「もちろん、お待ちしていました。ご案内しますね」
アオイは小さく息を吸った。さあここからだ。アオイは賭けに出るつもりだった。
「今日が何の日か覚えていますか?」
明かりをつけながら、アオイはソファに腰掛けた男に問いかけた。男は視線を上げアオイの顔を見ると、「もちろん」と鷹揚に頷いた。
「今日はアオイと出会って1ヶ月目です。そうでしょう?」
男の言葉に、アオイは安堵の息を吐いた。「覚えていてくれて嬉しいです」と答えると、男は悪戯っぽく目を細めると、アオイの名前を呼んだ。
「私の名前、分かりましたか?」
「…………」
アオイは男の顔をじっと見つめた。透き通るような白髪、すっきりとした目鼻立ち、薄い唇、そして――黄金に輝く瞳。
「アオイ……?」
ギシ、とソファが軋む音がする。アオイが男の膝に乗り上げたからだ。普段は見上げているその美しい顔を上から覗き込む。はらりと髪が落ち、男の頬にかかった。
男は怪訝そうな顔をしながらも、アオイを振り払うことはしなかった。いや、それどころかアオイの腰に手を触れることすらしない。アオイは所在なさげに空を切る男の手に自分の手を絡めると、ソファに縫い付けた。
「ねえ――僕にいくら出せる?」
「それは、どういう……」
売れるためならなんだってした。好意を利用するのに今更躊躇いなんてない。
――よく知りもしない男にこの美しい人を利用されるくらいなら、僕が使う。
「明日、僕はどこかの、知らない誰かと寝ることになったみたいです」
声が掠れていた。演技じゃなかった。一瞬、まずいな、と思う。同時に、ちょうどいいや、と思った。
醜い本音もタイミング次第で全て売り物になる。真実もホンモノも全部全部虚飾に変えて、ソラハアオイになってしまえばいい。
僕は空派蒼、愛されるために作った偶像。そう、僕ならできるはずだ。
ピースは揃っている。青ではなく金色に輝く空、空の君と呼ばれる竜神様、目の前の、金色の目をした人間離れした美貌を持つ男。
「たすけて――」
男が大きく目を見開く。賽は投げられた。アオイは男の目を真っ直ぐ見た。
「――ジスランさま」
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