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時価1000万
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コンコンコン
アオイの言葉はノックの音によって遮られた。顔を上げドアの方を見る。
「入るぞ。……おいエトワール、貴様呪われてないか」
入ってきたのはハーゲンだった。入った傍から眉間に深いシワを刻む男に、エトがひらひらと手を振る。
「大丈夫だよ。これから王子様が呪いを解いてくれるからね」
「ねえハゲ、このグラグラヘビ引き取ってくんない?」
「ハーゲンさん、ハーゲンさん、新しいペットにミツメネズミとかどうですか?」
「ここは地獄か?」
眉間をつまみ大きなため息を吐くハーゲンを見てノヴァが手を叩いて心底嬉しそうに笑った。
ハーゲンは腰に手を当てると、笑い続けているノヴァを睨みつけた。
「うるさいぞ、ノヴァ。それより貴様ら中身のチェックは終わったんだろうな。もうすぐ開店時間だ」
「ウッザ。分かってるしもうすぐ終わるってば」
「ボクはもうほとんど終わってるよ。……ところで、お忙しい店長サマがどうしてここに?」
エトの冷ややかな視線にハーゲンがたじろく。男は咳払いをひとつすると、真っ直ぐアオイの顔を見た。
「――えっ。僕?」
自分の顔を指差してハーゲンに問いかけると、彼は神妙な顔で頷いた。
「ロゼ様がお呼びだ」
「……魔女が? なんで?」
「さあな。俺は知らん」
「ハーゲンさん……」
目元を潤ませハーゲンを見つめると、男は気まずそうに視線をさ迷わせると大きな咳払いをひとつした。ちょろい。ノヴァが呆れたように眼球をぐるんと回した。
「……借金がどうとか、言っていたようだが」
ボソリと続けられた言葉にアオイは眉をひそめた。金の亡者と評判の魔女の、借金絡みの話。どう考えてもろくなものじゃない。
献上しなきゃいけない宝石の存在がバレた?
あるいは利息が増える?
それとも物置からかっぱらってきたどれかがバレたのか?
アオイの忙しなく回転する思考に割って入る声が2つ。
「へえ。利息が増えたとか?」
「桁一つ追加してみた、とか」
アオイの口元がひくりと痙攣した。
「最ッ悪。僕は娯楽じゃないんですけど」
エトとノヴァは顔を見合せ笑い合った。悪い顔だ。おもちゃを見つけた猫のように瞳が爛々と光っている。
アオイはため息を吐いて立ち上がった。柘榴石をまとめ、手紙を懐に仕舞っている横で、エトのノヴァの視線が意味深に交差する。
「エトさん」
「そうだね、ノヴァ。それじゃあボクは貢ぎ物の黄金翼がバレたに3万」
「アッハッハ、ありえる。じゃあオレは利息がトイチからトゴになるに2万」
「あなた達ほんっと最低だな!」
「おい、行くぞ」
「ああ、はい、 すぐに行きます! 2人ともそれ外したら僕に5万ですよ!」
「アイツほんと逞しいですよね」
「うるさいな!!」
「来たかい」
女は視線だけで座るように促した。言われた通り女の目の前に座る。ハーゲンが背後で一礼し出ていってしまえば、魔女と二人きりになる。
沈黙の中、女はパイプに火をつけると、気だるそうに煙を吐き出した。紫煙が目に染みたが、ゆっくりと瞬きをするだけに留め無反応を貫く。女の口元が微かにつり上げられた。
魔女の部屋は混沌としていた。窓はなく、天井から薬草と思しき植物の束がいくつも吊るされているため照明も間接照明しかないのにも関わらず、ギラギラと光る黄金や宝石、高そうな壺が間接照明の光をこれでもかと反射させており、部屋は眩しいくらい明るかった。彼女が使う黒色の重厚なデスクと、揃いの椅子。その前には背もたれすらない粗末な椅子が一脚。置いてある家具はこれだけだった。これだけなのに、部屋はとにかく窮屈に感じられた。物で溢れているからである。部屋の隅にある大鍋の中には本や宝石が無造作に押し込まれ小さな山脈になっているし、本のタワーは少なくとも3つ形成されている。棚らしきものも見えるが容量という言葉とは早晩縁を切ったようだ。アオイは、隅の奥に眠っているヤツならかっぱらっていってもバレないんじゃないかと思ったが、手を触れたら最後この部屋の奇跡的な均衡は呆気なく崩れ去るに違いない。アオイは早々に邪な考えを捨て去ると、同時に、魔女の部屋から物がなくなった噂を聞かない真相を理解した。
「お前さん、水揚げはまだったたよな?」
トントン、と灰を落としながら魔女が尋ねた。アオイは背筋を伸ばし、魔女の顔を正面から見つめた。
「初モノだったよな?と聞いてるんだよ」
答えなさい、と女。刺すような視線を正面から受け止めながら、アオイは硬い声で「ええ」と頷いた。魔女は口元を歪めると「そうかい」と目を細めた。
「喜びなさい坊や、今度こそ、お前さんの水揚げ相手が決まったよ」
アオイの言葉はノックの音によって遮られた。顔を上げドアの方を見る。
「入るぞ。……おいエトワール、貴様呪われてないか」
入ってきたのはハーゲンだった。入った傍から眉間に深いシワを刻む男に、エトがひらひらと手を振る。
「大丈夫だよ。これから王子様が呪いを解いてくれるからね」
「ねえハゲ、このグラグラヘビ引き取ってくんない?」
「ハーゲンさん、ハーゲンさん、新しいペットにミツメネズミとかどうですか?」
「ここは地獄か?」
眉間をつまみ大きなため息を吐くハーゲンを見てノヴァが手を叩いて心底嬉しそうに笑った。
ハーゲンは腰に手を当てると、笑い続けているノヴァを睨みつけた。
「うるさいぞ、ノヴァ。それより貴様ら中身のチェックは終わったんだろうな。もうすぐ開店時間だ」
「ウッザ。分かってるしもうすぐ終わるってば」
「ボクはもうほとんど終わってるよ。……ところで、お忙しい店長サマがどうしてここに?」
エトの冷ややかな視線にハーゲンがたじろく。男は咳払いをひとつすると、真っ直ぐアオイの顔を見た。
「――えっ。僕?」
自分の顔を指差してハーゲンに問いかけると、彼は神妙な顔で頷いた。
「ロゼ様がお呼びだ」
「……魔女が? なんで?」
「さあな。俺は知らん」
「ハーゲンさん……」
目元を潤ませハーゲンを見つめると、男は気まずそうに視線をさ迷わせると大きな咳払いをひとつした。ちょろい。ノヴァが呆れたように眼球をぐるんと回した。
「……借金がどうとか、言っていたようだが」
ボソリと続けられた言葉にアオイは眉をひそめた。金の亡者と評判の魔女の、借金絡みの話。どう考えてもろくなものじゃない。
献上しなきゃいけない宝石の存在がバレた?
あるいは利息が増える?
それとも物置からかっぱらってきたどれかがバレたのか?
アオイの忙しなく回転する思考に割って入る声が2つ。
「へえ。利息が増えたとか?」
「桁一つ追加してみた、とか」
アオイの口元がひくりと痙攣した。
「最ッ悪。僕は娯楽じゃないんですけど」
エトとノヴァは顔を見合せ笑い合った。悪い顔だ。おもちゃを見つけた猫のように瞳が爛々と光っている。
アオイはため息を吐いて立ち上がった。柘榴石をまとめ、手紙を懐に仕舞っている横で、エトのノヴァの視線が意味深に交差する。
「エトさん」
「そうだね、ノヴァ。それじゃあボクは貢ぎ物の黄金翼がバレたに3万」
「アッハッハ、ありえる。じゃあオレは利息がトイチからトゴになるに2万」
「あなた達ほんっと最低だな!」
「おい、行くぞ」
「ああ、はい、 すぐに行きます! 2人ともそれ外したら僕に5万ですよ!」
「アイツほんと逞しいですよね」
「うるさいな!!」
「来たかい」
女は視線だけで座るように促した。言われた通り女の目の前に座る。ハーゲンが背後で一礼し出ていってしまえば、魔女と二人きりになる。
沈黙の中、女はパイプに火をつけると、気だるそうに煙を吐き出した。紫煙が目に染みたが、ゆっくりと瞬きをするだけに留め無反応を貫く。女の口元が微かにつり上げられた。
魔女の部屋は混沌としていた。窓はなく、天井から薬草と思しき植物の束がいくつも吊るされているため照明も間接照明しかないのにも関わらず、ギラギラと光る黄金や宝石、高そうな壺が間接照明の光をこれでもかと反射させており、部屋は眩しいくらい明るかった。彼女が使う黒色の重厚なデスクと、揃いの椅子。その前には背もたれすらない粗末な椅子が一脚。置いてある家具はこれだけだった。これだけなのに、部屋はとにかく窮屈に感じられた。物で溢れているからである。部屋の隅にある大鍋の中には本や宝石が無造作に押し込まれ小さな山脈になっているし、本のタワーは少なくとも3つ形成されている。棚らしきものも見えるが容量という言葉とは早晩縁を切ったようだ。アオイは、隅の奥に眠っているヤツならかっぱらっていってもバレないんじゃないかと思ったが、手を触れたら最後この部屋の奇跡的な均衡は呆気なく崩れ去るに違いない。アオイは早々に邪な考えを捨て去ると、同時に、魔女の部屋から物がなくなった噂を聞かない真相を理解した。
「お前さん、水揚げはまだったたよな?」
トントン、と灰を落としながら魔女が尋ねた。アオイは背筋を伸ばし、魔女の顔を正面から見つめた。
「初モノだったよな?と聞いてるんだよ」
答えなさい、と女。刺すような視線を正面から受け止めながら、アオイは硬い声で「ええ」と頷いた。魔女は口元を歪めると「そうかい」と目を細めた。
「喜びなさい坊や、今度こそ、お前さんの水揚げ相手が決まったよ」
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