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時価1000万
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「はいはい天使の羽か悪魔の瞳か竜神の鱗か妖精の鱗粉持ってきたヤツには抱かれるんだよな。んなもん持ってるヤツがいるかばーか!」
「大きく出たよねえ」
2人の反応は対照的なものだったが、どちらも同じ目をしている。高校生になってもサンタクロースを信じている友達を見るような目だ。アオイは不服そうに口を尖らせた。
「みんな驚きますけど、そんなに悪いことですか? 僕たちは自分を売ってるんですよ。売り方はちゃんと考えないと。価値が下がるのなんて一瞬だし、売り方次第でいくらでも高値がつくのがこの世界なのに」
生き残り方は基本的に芸能界と一緒だ。アオイの言葉に、ノヴァは大きなため息を吐いた。
「自分の売り方はちゃんと分かってんのがまた腹立つよなあ……」
「アオイは変わってるよね」
「僕はお金が好きなんです。金にならないことは絶対しません」
「そうなの?」
少し離れたところでアオイとノヴァの会話にのんびり口を挟んでいたエトが、突然ソファの背から身を乗り出し、もう一度、「そうなの?」と尋ねた。
「アオイ、お金が好きなの?」
「え? はい」
エトの様子を怪訝に思いながらもアオイは素直に頷いた。好きなものは金、趣味貯金、特技はSNSでトレンドを掻っ攫うこと、嫌いなものは足元を見てくるプロデューサーである。
それなのに、エトは口元にまるで獲物を狩る猫のようないやらしさを湛えた微笑を浮かべた。デビュー当時からナンバーワンの座を譲ったことがないというエトの、壮絶なまでの色香に背筋が泡立つ。
「ボクはそう思わないかなあ」
「はあ……」
内心の動揺はおくびにも出さず、アオイは敢えて興味がないような素振りで適当に頷いだ。エトは素っ気ない態度のアオイを気に留める様子もなく、さらに言葉を続けた。
「ボク、アオイはお金が好きなんじゃなくて、お金を稼げる自分が好きなんだと思っていたよ。ノヴァと一緒」
「ノヴァさん、どうなんです」
「ノーコメント」
思わぬ角度から流れ弾に被弾したノヴァは即座に硬い声で答えると、じろりとアオイを睨みつけた。アオイは慌てて両手を上げて無実をアピールする。
「ちなみに、ボクはお金よりも気持ちいいセックスが好き」
「お、おお……」
さすが、身請けの話が持ち上がる度に「ボクはここにいたいので」と言ってそのことごとくを振っている不動の頂点だ。何か色々違う。
「……な。エトさん見てると俺は万年2位に甘んじててもいいやと思うっちゃうわけ」
「僕はノヴァさんを超えたいですけど」
「なら客と寝ろ」
「絶対ヤダ」
「あはは。アオイはどうしてそうセックスを嫌がるんだろうね?」
「ええ……? 普通によく知らない人と寝るのは嫌じゃないですか……?」
一度売ったら元には戻らない。その人が僕にずっと価値をつけてくれる保証もないし。
アオイの言葉を横で聞いていたノヴァが鼻で笑った。
「そんなのそのうち慣れる」
「僕は慣れたくない」
「それに、君の旦那様はよく知らない人じゃないけどね?」
ソファの背に腕を、その上に顔を乗せたエトが可愛らしい仕草で首を傾げた。先ほどまでの壮絶な色気はどこかに消え、代わりに掴みどころのない、どこか浮世離れしたふわふわした雰囲気を漂わせている。纏う雰囲気を操り印象を操作することはアオイも得意としているが、エトのそれはアオイをもってしても一段上と認めざるおえないほど鮮やかなものだった。
エトの手のひらで転がされ始めていることには気づいていたがどうすることもできず、アオイは逃げるように視線を落とした。手慰みに指を絡めながらボソボソとつぶやく。
「いや、旦那様はそういうんじゃ……。というか、多分誰も抱きたくないんじゃないかと思うんです」
男にアオイを抱く気がないのは知っている。性の匂いがしないのも変わらずだ。
しかし、彼も男だ。なんかそういう感じの雰囲気になればコロッといくのが男という生き物だ。どうしてもバグる瞬間というものがある。もちろんアオイだって例外じゃない。
それなのに、男はアオイが何をしたって一切態度を変えないのだ。直接的な色仕掛けはしていないが官能を煽るような服を着た綺麗な、しかも好みの顔の男がいるのに何もしないし何なら無反応ってどういうことだよ、と散々嫌がっていた過去は棚に上げ、アオイはちょっとキレてさえいた。
あの美しい男は、絶対に自分からアオイに触れることがない。ハグはもちろん、手が触れることすらない距離に焦れていたのは、実はアオイの方だった。誰にも抱かれる気はないので性欲を向けられても困るだけなのだが、一切興味がないという態度もそれはそれで腹が立つのである。だってこの顔だよ?
ノヴァが、怪訝そうに眉を跳ね上げ「なんだそれ」と声を上げた。
「あの方、性欲ないの?」
もしかしてインポ?と続けたノヴァを、「やめなさい」とエトが嗜める。明け透けなノヴァの言い方にアオイは苦笑した。
「さあ。……でも、忌避感はありそうだなって。なんでかは知らないですけど」
いっそ嫌悪している、くらいじゃないと納得できない、というのもある。
「それ、普通にアンタのことが抱けないだけじゃない?」
ノヴァの言葉に、アオイは微かに顔を歪めた。
「大きく出たよねえ」
2人の反応は対照的なものだったが、どちらも同じ目をしている。高校生になってもサンタクロースを信じている友達を見るような目だ。アオイは不服そうに口を尖らせた。
「みんな驚きますけど、そんなに悪いことですか? 僕たちは自分を売ってるんですよ。売り方はちゃんと考えないと。価値が下がるのなんて一瞬だし、売り方次第でいくらでも高値がつくのがこの世界なのに」
生き残り方は基本的に芸能界と一緒だ。アオイの言葉に、ノヴァは大きなため息を吐いた。
「自分の売り方はちゃんと分かってんのがまた腹立つよなあ……」
「アオイは変わってるよね」
「僕はお金が好きなんです。金にならないことは絶対しません」
「そうなの?」
少し離れたところでアオイとノヴァの会話にのんびり口を挟んでいたエトが、突然ソファの背から身を乗り出し、もう一度、「そうなの?」と尋ねた。
「アオイ、お金が好きなの?」
「え? はい」
エトの様子を怪訝に思いながらもアオイは素直に頷いた。好きなものは金、趣味貯金、特技はSNSでトレンドを掻っ攫うこと、嫌いなものは足元を見てくるプロデューサーである。
それなのに、エトは口元にまるで獲物を狩る猫のようないやらしさを湛えた微笑を浮かべた。デビュー当時からナンバーワンの座を譲ったことがないというエトの、壮絶なまでの色香に背筋が泡立つ。
「ボクはそう思わないかなあ」
「はあ……」
内心の動揺はおくびにも出さず、アオイは敢えて興味がないような素振りで適当に頷いだ。エトは素っ気ない態度のアオイを気に留める様子もなく、さらに言葉を続けた。
「ボク、アオイはお金が好きなんじゃなくて、お金を稼げる自分が好きなんだと思っていたよ。ノヴァと一緒」
「ノヴァさん、どうなんです」
「ノーコメント」
思わぬ角度から流れ弾に被弾したノヴァは即座に硬い声で答えると、じろりとアオイを睨みつけた。アオイは慌てて両手を上げて無実をアピールする。
「ちなみに、ボクはお金よりも気持ちいいセックスが好き」
「お、おお……」
さすが、身請けの話が持ち上がる度に「ボクはここにいたいので」と言ってそのことごとくを振っている不動の頂点だ。何か色々違う。
「……な。エトさん見てると俺は万年2位に甘んじててもいいやと思うっちゃうわけ」
「僕はノヴァさんを超えたいですけど」
「なら客と寝ろ」
「絶対ヤダ」
「あはは。アオイはどうしてそうセックスを嫌がるんだろうね?」
「ええ……? 普通によく知らない人と寝るのは嫌じゃないですか……?」
一度売ったら元には戻らない。その人が僕にずっと価値をつけてくれる保証もないし。
アオイの言葉を横で聞いていたノヴァが鼻で笑った。
「そんなのそのうち慣れる」
「僕は慣れたくない」
「それに、君の旦那様はよく知らない人じゃないけどね?」
ソファの背に腕を、その上に顔を乗せたエトが可愛らしい仕草で首を傾げた。先ほどまでの壮絶な色気はどこかに消え、代わりに掴みどころのない、どこか浮世離れしたふわふわした雰囲気を漂わせている。纏う雰囲気を操り印象を操作することはアオイも得意としているが、エトのそれはアオイをもってしても一段上と認めざるおえないほど鮮やかなものだった。
エトの手のひらで転がされ始めていることには気づいていたがどうすることもできず、アオイは逃げるように視線を落とした。手慰みに指を絡めながらボソボソとつぶやく。
「いや、旦那様はそういうんじゃ……。というか、多分誰も抱きたくないんじゃないかと思うんです」
男にアオイを抱く気がないのは知っている。性の匂いがしないのも変わらずだ。
しかし、彼も男だ。なんかそういう感じの雰囲気になればコロッといくのが男という生き物だ。どうしてもバグる瞬間というものがある。もちろんアオイだって例外じゃない。
それなのに、男はアオイが何をしたって一切態度を変えないのだ。直接的な色仕掛けはしていないが官能を煽るような服を着た綺麗な、しかも好みの顔の男がいるのに何もしないし何なら無反応ってどういうことだよ、と散々嫌がっていた過去は棚に上げ、アオイはちょっとキレてさえいた。
あの美しい男は、絶対に自分からアオイに触れることがない。ハグはもちろん、手が触れることすらない距離に焦れていたのは、実はアオイの方だった。誰にも抱かれる気はないので性欲を向けられても困るだけなのだが、一切興味がないという態度もそれはそれで腹が立つのである。だってこの顔だよ?
ノヴァが、怪訝そうに眉を跳ね上げ「なんだそれ」と声を上げた。
「あの方、性欲ないの?」
もしかしてインポ?と続けたノヴァを、「やめなさい」とエトが嗜める。明け透けなノヴァの言い方にアオイは苦笑した。
「さあ。……でも、忌避感はありそうだなって。なんでかは知らないですけど」
いっそ嫌悪している、くらいじゃないと納得できない、というのもある。
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