異世界転移して出会っためちゃくちゃ好きな男が全く手を出してこない

春野ひより

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時価1000万

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「そんなに嫌なら誰か雇えば?」
「それ、信用できます?」
「ぜんっぜんできない。犬にやらせた方がマシ」
「最悪じゃん」
「ここで誠実、真面目、実直な人間を探すくらいならオレはスラム街でピン札を探すね」
「ハーゲンさんは?」
「あれは魔女の犬」
「うまい。座布団一枚」
「うるせ~」

 ノヴァは鼻を鳴らすと、自身も目の前に置かれたプレゼントの山を睨みつけた。彼に倣ってアオイも目の前の山に向き直る。ため息は寸前で堪えた。

 あと数刻もすれば夜も耽る。この時間は、贈り物の中身を確認するとともに、情報交換や身支度といった準備の時間でもあった。
 膝の上で頬杖をつきながら、アオイはプレゼントだけだったら楽しいのに、と思った。
 大体のプレゼントは客から送られた貴金属や本、食べ物、手紙なのだが、まあまあな確率で呪いのアイテムが紛れ込んでいるのだ。
 多くの場合贈り主は不明。ノヴァ曰く、稼げない雑魚の嫉妬。エト曰く、ちょっと拗らせちゃったお客サマの愛。共通するのは最悪、ということだ。

「ッダーッ! クッソまたグラグラヘビの死骸かよ!」

 箱を開け中を覗いていたノヴァが叫んだ。顔は上げずに「ご愁傷様です」と声をかけておく。新しい箱を開けると、ああ最悪。思わず舌打ちが漏れた。ミツメネズミだ。小型の魔獣である。

「ノヴァさん今月多いですね。贈り主、猫でも飼ったのかっ……ってこいつ生きてんのかよふざけんな!」

 素早く箱を閉めて脱走を防ぐと、その上に本を置いて閉じ込める。助けを求めるようにエトとノヴァを交互に、それはしつこく見つめたが驚くほど目が合わない。目が合ったら最後押し付けられるとでも思ってんのか? 確かにその通りだけど寂しいじゃないか。
 アオイはしばらく箱を見つめると、にこりと笑ってなかったことにした。とりあえず、これは一旦保留。
 次の箱に取りかかろうとしたとき、エトがのんびりと口を開いた。

「2人とも大変だねえ……おや、呪詛」
「……ちょっとエトさんほんとに気をつけてよ」

 ノヴァが気遣わしげな声を上げる。エトはのほほんと「大丈夫だよ」と微笑んだ。

「これくらいなら敢えて受けちゃおうかな。今日はイェル様が来るようだし」
「イェル様って宰相の? いつの間に?」
「先週の青髪の方」
「あの僕の髪をガン見してきた変態そんなすごい人だったんですか?!」
「あの人、髪が好きなの? じゃあ今日は髪は結ばないでおこうか……。よく覚えていたね、アオイ」
「この柘榴石はイェル様から貰いました」

 アオイが大ぶりの柘榴石がついた耳飾りを見せると、ノヴァは呆れたようにぐるんと眼球を上に向けた。

「話してるだけなのに一体何をやったらこんだけ貢がせることができるんだか」

 指名客がほとんどいないアオイ宛のプレゼントの贈り主は、例の美しい男か、物見客か、エトやノヴァの指名客だ。
 男娼が指名された際、指名された男娼が準備をしている間に間を持たせるため、サロンにいる他の男娼がつくのだが、アオイはそこで客の心をつかむのが異常に上手かったのである。異常に、と言ったのはノヴァだ。アオイは当然だと思っている。
 一通り中身を確認し終えたアオイは、呪われていない宝石と手紙を手に取ると立ち上がった。

「それは僕の天才的に綺麗な顔とトーク術のおかげですってば。ノヴァさんお隣失礼しまーす」
「来るな来るな。あ、ねえオレのこのグラグラヘビいる?」
「絶対いらない。柘榴石ならもらいます」
「やるか。ていうか貰ったんだろ」
「他にもいくつか貰いました。流石に全部付けたら下品かな。ノヴァさんどう思いますか?」

 着ている服を見せるように両手を広げてノヴァを見ると、彼はアオイの全身を一瞥して、再び目の前の贈り物の山に視線を戻した。

「その衣装で出るなら一つが限界じゃない?」
「やっぱそうか。うーん……イェル様が来るなら今日はこの耳飾りかな……。エトさん、良いですか?」
「ボクは構わないよ。それに、別に聞かなくてもいいのに」
「そこはほら、エトさんの客を横取りするつもりはないですし」
「たかだか宰相1人、減ったところでボクは困らないよ」

 アオイは思わずノヴァの顔を仰ぎ見た。ノヴァは神妙な顔を作るとゆっくりと首を横に振った。

「何も言うな」
「了解っす」
「なあ、それより柘榴石しかなくない? 何をどうしたら柘榴石ばっかそんなにもらうわけ? そんなに好きだった?」
「いや別に。でも流行ってるって聞いたので」
「柘榴石は流行りって言うより格が高い定番の宝石だけど……いや、でも確かに最近また柘榴石つけてる客が増えた気がする。じゃあやっぱ流行ってんのか」
「ああ、そうなんですか?」
「それより、アンタ流行り物が好きなタイプなんだ」

 意外だな、とノヴァ。アオイは心外だ、と眉を吊り上げた。

「流行ってる宝石は高値で売れるんですよ」

 ノヴァはアオイの顔をまじまじ見ると、大きく頷いた。

「分かる。まあ宝石は流行より換金ルートの方が大事だけどな」
「本ッ当にそれ。僕の換金ルート、まだ弱いんだよなあ……」
「だからオレに任せろって言ってんじゃん」
「僕はもう2度と白銀花の時と同じ轍は踏まないと決めたんです。利息だけで7桁借金が8桁に増えてんですよこっちは」

 アオイはじろりとノヴァを睨んだ。
 アオイの売り上げの大半は借金返済(それも利息の!)に充てられている。一向に減った気がしない借金はアオイの目下最大のストレスだった。
 悲壮感すら漂うアオイを見て、ノヴァは鼻で笑った。

「ウケる」
「アオイは大変だね」
「でもこいつの借金が減らないの、客と寝ないからですよエトさん」
「あーあーあー聞こえなーい」

 アオイは耳を塞いで首を振った。ノヴァの冷ややかな視線が痛かったのですぐに手を下ろした。アオイは咳払いひとつしてノヴァの顔を見ると「お忘れかもしれませんが」と口を開いた。

「僕、絶対寝ないとは言ってないです」
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