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時価マイナス1000万
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――私に夢のような時間をくれた貴方に。今夜はこんなものしか贈れませんが、次は必ず貴方に相応しい物を。
今期で1番ときめいたセリフかもしれない。
と、大真面目な顔でノヴァに話したら「キモ」と一蹴された。
「そりゃオレたちの仕事は抱かれるだけじゃないけど。アンタ、ほんとにこのまま抱かれないつもりなの?」
「抱かれないつもりです」
キリッとした顔で言い切ると、ノヴァは顔を歪ませアオイから距離を取った。オッケー分かった、これが俺たちの心の距離ってわけね。
ノヴァの意図は察したが敢えて空気は読まずに距離を詰め「寂しいことしないでください」と涙を拭う真似をしたら本気で嫌そうな顔をされた。「ふざけないでくれる?」と低い声に姿勢を正す。
「や、別に俺もいつまでも抱かれないつもりはありませんけど、まだちょっと距離感がつかめなくて」
「距離感?」
「お客さんとの。ガッツリキャラ被ってるからこのままじゃ売上は見込めないし、どうしようかなとか……色々考えてるんです俺も」
「は? 被ってる? 誰と?」
「エトさん」
「お、お前……」
ノヴァは青褪めた顔でアオイから離れるように身体を仰け反らせた。顔には正気か?と書いてある。アオイは「正気ですよ」と口を尖らせた。
「いや、いやいやいやいや! うちの、不動の頂点の! エトさん捕まえて! 言うに事欠いてキャラ被ってる!?」
「被ってるでしょ、ミステリアスでちょっとえっちなお兄さんみたいなとこが」
「エトさんの方が数倍エロいしミステリアスだけど!?」
「そうなんですよねえ……」
アオイは悩ましげなため息を吐いた。ミステリアスでちょっとえっちなお兄さん、は元の世界でのアオイの評価だ。SNSや掲示板に書かれるそれは端的で分かりやすいからいい、とアオイは本気で思っている。
とにかく、魔女に拾われ売られることが決まった当初、アオイは短くない芸能生活で染みついたキャラをこの世界にも持ち込もうと考えていたのだ。しかしそこに立ち塞がったのがアオイの完全上位互換ともいえるエトの存在である。顔だけなら充分戦える(とアオイは考えている)のに、男性アイドルとして主に女性を相手に商売をしてきたアオイの身体は見た目よりずっと鍛えられており、しなやかな若木のような体躯をしているのに対して、エトはアオイよりもずっと細く、パッと咲いて散っていく花のような儚さがあるのだ。受け身に回ることが多い男娼が客に好まれる身体は圧倒的に後者である。
「それになんかエトさんにはこう、包容力?みたいなものでも負けてる気がする」
「17のガキがエトさんに包容力で勝てるはずないでしょ」
「17? ……ああ、や、はい。そうなんですけどね?」
そういえば年齢詐称してんだった。アオイは慌ててノヴァに合わせて相槌を打った。この世界の人間みんな彫りが深いし、こういうのはとりあえず若い方がいいだろうと思いきって6個も年齢を詐称したのだがこれが笑えるほど疑われないのである。凹凸のない顔、万歳。
「まあとにかく僕の顔に合ってていい感じに稼げそうなキャラを確立しないとなんとも……。それに、一人から愛されるよりたくさんの子から愛される方が俺には合ってると思って」
「初心者に複数プレイはオススメしないけど」
「そう言う意味じゃなくて」
「……アンタの言うことは分かるけどさあ、そういうのは表舞台に立つヤツらがやんだよ」
「僕がいるとこは全て表舞台では?」
「その口縫い付けてやろうか」
ノヴァが低い声で凄んだ。アオイは片目をつむり首を竦ませる。
「別にアンタのキャラはどうでもいいけど、ここはそういうとこをする場所なワケ」
「はあ」
「ちゃんと聞けクソガキ。アンタがどんなに頑張っても向こうが抱こうと思ったら花を受け取った俺たちに拒否権はないの。分かる?」
ここに所属する男娼は客を選べるが、選んだ客を拒否することはできない。この娼館の特性上、一見すると男娼が主導権を握っているように見えるがその実、男娼が持つ権限というのはそうないのだ。
アオイは不満そうに口を尖らせながら、小さく頷いた。
「まあ……はい」
「迫られて、拒否できなくて傷つくのはアンタなんだよ」
「ノヴァさん……」
顔を上げノヴァを見る。彼は気まずそうに視線を揺らすと、ふい、とアオイから顔を背けてしまった。
色々言っているが、要するにノヴァはアオイを心配しているのだ。
ぱちくりと瞬きを数回繰り返したアオイは、ノヴァの意図を汲み取った瞬間満面の笑みを浮かべてノヴァの細い体に飛び込んだ。
「ノヴァさん大好き! 最高! お金貸してください!」
「あーっうるさいうるさい! 抱きつくな! うざい! その顔やめろ! 金は絶対貸さない!!」
今期で1番ときめいたセリフかもしれない。
と、大真面目な顔でノヴァに話したら「キモ」と一蹴された。
「そりゃオレたちの仕事は抱かれるだけじゃないけど。アンタ、ほんとにこのまま抱かれないつもりなの?」
「抱かれないつもりです」
キリッとした顔で言い切ると、ノヴァは顔を歪ませアオイから距離を取った。オッケー分かった、これが俺たちの心の距離ってわけね。
ノヴァの意図は察したが敢えて空気は読まずに距離を詰め「寂しいことしないでください」と涙を拭う真似をしたら本気で嫌そうな顔をされた。「ふざけないでくれる?」と低い声に姿勢を正す。
「や、別に俺もいつまでも抱かれないつもりはありませんけど、まだちょっと距離感がつかめなくて」
「距離感?」
「お客さんとの。ガッツリキャラ被ってるからこのままじゃ売上は見込めないし、どうしようかなとか……色々考えてるんです俺も」
「は? 被ってる? 誰と?」
「エトさん」
「お、お前……」
ノヴァは青褪めた顔でアオイから離れるように身体を仰け反らせた。顔には正気か?と書いてある。アオイは「正気ですよ」と口を尖らせた。
「いや、いやいやいやいや! うちの、不動の頂点の! エトさん捕まえて! 言うに事欠いてキャラ被ってる!?」
「被ってるでしょ、ミステリアスでちょっとえっちなお兄さんみたいなとこが」
「エトさんの方が数倍エロいしミステリアスだけど!?」
「そうなんですよねえ……」
アオイは悩ましげなため息を吐いた。ミステリアスでちょっとえっちなお兄さん、は元の世界でのアオイの評価だ。SNSや掲示板に書かれるそれは端的で分かりやすいからいい、とアオイは本気で思っている。
とにかく、魔女に拾われ売られることが決まった当初、アオイは短くない芸能生活で染みついたキャラをこの世界にも持ち込もうと考えていたのだ。しかしそこに立ち塞がったのがアオイの完全上位互換ともいえるエトの存在である。顔だけなら充分戦える(とアオイは考えている)のに、男性アイドルとして主に女性を相手に商売をしてきたアオイの身体は見た目よりずっと鍛えられており、しなやかな若木のような体躯をしているのに対して、エトはアオイよりもずっと細く、パッと咲いて散っていく花のような儚さがあるのだ。受け身に回ることが多い男娼が客に好まれる身体は圧倒的に後者である。
「それになんかエトさんにはこう、包容力?みたいなものでも負けてる気がする」
「17のガキがエトさんに包容力で勝てるはずないでしょ」
「17? ……ああ、や、はい。そうなんですけどね?」
そういえば年齢詐称してんだった。アオイは慌ててノヴァに合わせて相槌を打った。この世界の人間みんな彫りが深いし、こういうのはとりあえず若い方がいいだろうと思いきって6個も年齢を詐称したのだがこれが笑えるほど疑われないのである。凹凸のない顔、万歳。
「まあとにかく僕の顔に合ってていい感じに稼げそうなキャラを確立しないとなんとも……。それに、一人から愛されるよりたくさんの子から愛される方が俺には合ってると思って」
「初心者に複数プレイはオススメしないけど」
「そう言う意味じゃなくて」
「……アンタの言うことは分かるけどさあ、そういうのは表舞台に立つヤツらがやんだよ」
「僕がいるとこは全て表舞台では?」
「その口縫い付けてやろうか」
ノヴァが低い声で凄んだ。アオイは片目をつむり首を竦ませる。
「別にアンタのキャラはどうでもいいけど、ここはそういうとこをする場所なワケ」
「はあ」
「ちゃんと聞けクソガキ。アンタがどんなに頑張っても向こうが抱こうと思ったら花を受け取った俺たちに拒否権はないの。分かる?」
ここに所属する男娼は客を選べるが、選んだ客を拒否することはできない。この娼館の特性上、一見すると男娼が主導権を握っているように見えるがその実、男娼が持つ権限というのはそうないのだ。
アオイは不満そうに口を尖らせながら、小さく頷いた。
「まあ……はい」
「迫られて、拒否できなくて傷つくのはアンタなんだよ」
「ノヴァさん……」
顔を上げノヴァを見る。彼は気まずそうに視線を揺らすと、ふい、とアオイから顔を背けてしまった。
色々言っているが、要するにノヴァはアオイを心配しているのだ。
ぱちくりと瞬きを数回繰り返したアオイは、ノヴァの意図を汲み取った瞬間満面の笑みを浮かべてノヴァの細い体に飛び込んだ。
「ノヴァさん大好き! 最高! お金貸してください!」
「あーっうるさいうるさい! 抱きつくな! うざい! その顔やめろ! 金は絶対貸さない!!」
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