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追いかけてきた攻めにつかまった受けの話
2-10
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「んん……」
何だかすごくよく寝た気がする。ぼんやりとした頭で時計を探して、枕元に置いてあったそれを見て俺は跳ね起きた。
「9時!?」
というかここどこ!? あ、恵さんの家か!
ぼんやりとしていた頭が一気に覚醒する。それと一緒に昨日の俺の痴態も思い出してあわわわと小さな悲鳴が漏れた。
思わず自分の体を確認すると、ドロドロだったはずの体はさらりと乾いているし、シーツも新しい物に変わっていた。着ている服は…これ多分恵さんのシャツだ。下着は新品のものっぽい? そんなことを考えながら無意識に余った袖をすん、と嗅いだ。恵さんの匂いがする。ガチャリと音がした。慌てて手を下ろして音のした方へと顔を向ける。
「おはよう、直巳」
ドアを開けて寝室へと入ってきた恵さんは、眉根を下げてどこかほっとしたような顔をしていた。どうしてそんな顔をしているのか少し気になったけど、正直それどころじゃなかった俺は恵さん!と半泣きで叫んだ。
「寝坊した!」
「大丈夫、マスターには連絡しておいたから」
「え、あ、え…?」
「ゆっくり休んでね、だって。起きれる?」
「起きれます…」
恵さんを見ていると1人で騒いでいる俺が子供のように思えて恥ずかしくなる。んん゛っと咳払いをした俺は何事もなかったかのように立とうとして、ぺしゃ、とベッドの脇に膝をついた。……腰が抜けてる。顔が熱い。マンガだったら多分ボンッと効果音が付いていたと思う。
「まあそうだよね」
恵さんが笑いを噛み殺しながらそう言った。俺をこんなにしたのは恵さんなのに。俺はじと、と彼を睨んだ。
「恵さん…」
「ふっ…ごめんね、可愛いなって思って」
「可愛い…?」
「まあ何をしても可愛いけどね」
「何をしても…?」
恵さんが兄さんたちみたいなことを言ってる。目を白黒させている俺を見ながら恵さんは俺の頭を優しく撫でた。
「なお、おいで」
そう言いながら恵さんが屈む。ふわりと体が浮いたと思ったら彼の腕の中だった。いわゆるお姫様だっこ、と言うやつだ。恥ずかしかったけど、腰が抜けてて歩けないわけだし、と必死に言い訳をして、そろ、と恵さんに首に腕を回した。
「そうそう、いい子」
褒められた。嬉しさと気恥しさで恵さんの首元に顔を埋める。
「ふっ、くすぐったいよ、直巳」
くすくすと恵さんが笑う。そう言う割にその声はちょっとびっくりするほど甘やかで、俺はぐりぐりと頭を押し付けた。
「…あの、服とか、ありがとう」
「ん? ああ。……どういたしまして」
「?」
「なんでもないよ、移動しようか」
と、恵さん。俺は返事の代わりにきゅっと首元に力を込めた。
お姫様だっこのまま移動して、そのままそっとソファーに降ろされた俺は、ローテーブルに置いてあったものを見て目を見開いた。固まる俺をよそに恵さんはちょっと待っててね、と言ってキッチンへと消えていってしまう。
「直巳?」
ローテーブルに置いてあるものをじっと見つめる俺を、手に朝食らしき皿を持った恵さんが不思議そうな声で呼んだ。声のした方へギギ、と音がしそうなほどゆっくりと顔を向ける。
「め、めぐ、恵さん」
俺はローテーブルに鎮座している物と恵さんの顔を交互に見て、それから震える手でそれを指差した。
「それ、」
そこにあったのは婚姻届だった。ただの婚姻届じゃない。俺が、御守りのように扱っていたアレである。顔を青くした俺を見ながら恵さんはなんでもない調子でああ、と軽く頷いた。
「あのジャケット、クリーニングに出そうと思って」
「あ、ああ…」
そういえば皺になるのも気にせずソファで、その…したんだった。うっかり昨夜のことを思い出してしまって顔に熱が集まる。恥ずかしくて縮こまる俺を楽しそうに眺めながら恵さんが続けた。
「中に紙とか入ってないか確認したら、ね」
「ああああ」
なんでジャケットの内ポケットなんかに婚姻届を入れてたんだろう。頭を抱える俺とは反対に恵さんはなぜだかとても嬉しそうで、だんだん俺もまあいいか、という気持ちになってくる。
「食べたら出しに行こうね」
そう言いながら恵さんは大事なものを扱うように婚姻届を端に避けた。ずっと持ち歩いていたからくたくたになった婚姻届を何となしに見つめる。
…茶色の、婚姻届だ。朝の(と言っても昨日だけど)のアナウンサーの言葉が蘇る。――ラッキーカラーは茶色! 身につけると最高の日になるかも?
「卵じゃなかった…」
「うん? 目玉焼きは嫌だった?」
「え、あ、目玉焼き好きです!」
「そう?」
恵さんは不思議そうに首を傾げて俺の前に目玉焼きを置いた。美味しそうなそれに思い出したようにくう、と腹が鳴る。お腹すいたよね、と小さく笑う彼は俺に箸を渡しながらそれと、と思い出したように付け加えた。
「結婚式も挙げようね」
俺がずっと一緒に居てあげるから、と彼は蕩けるような笑顔でそう言った。
――――――
神崎恵(30歳)
お見合いの時点で直巳に一目惚れしている。本編「1-3」にある「お兄さんも忙しいでしょうし」は、「お義兄さんも忙しいでしょうし」が正しく、正確に変換した直巳の兄から蛇蝎のごとく嫌われる結果になったが全く反省していない。
小鳥遊直巳(22歳)
恵の涙ぐましい努力のおかげで(せいで)身につけるものほとんど全てと恵の存在が紐づいているが全く気にしていない。むしろたくさん思い出があって嬉しいなって思ってる。最近それをうっかり兄に漏らしたら過保護が加速した。
何だかすごくよく寝た気がする。ぼんやりとした頭で時計を探して、枕元に置いてあったそれを見て俺は跳ね起きた。
「9時!?」
というかここどこ!? あ、恵さんの家か!
ぼんやりとしていた頭が一気に覚醒する。それと一緒に昨日の俺の痴態も思い出してあわわわと小さな悲鳴が漏れた。
思わず自分の体を確認すると、ドロドロだったはずの体はさらりと乾いているし、シーツも新しい物に変わっていた。着ている服は…これ多分恵さんのシャツだ。下着は新品のものっぽい? そんなことを考えながら無意識に余った袖をすん、と嗅いだ。恵さんの匂いがする。ガチャリと音がした。慌てて手を下ろして音のした方へと顔を向ける。
「おはよう、直巳」
ドアを開けて寝室へと入ってきた恵さんは、眉根を下げてどこかほっとしたような顔をしていた。どうしてそんな顔をしているのか少し気になったけど、正直それどころじゃなかった俺は恵さん!と半泣きで叫んだ。
「寝坊した!」
「大丈夫、マスターには連絡しておいたから」
「え、あ、え…?」
「ゆっくり休んでね、だって。起きれる?」
「起きれます…」
恵さんを見ていると1人で騒いでいる俺が子供のように思えて恥ずかしくなる。んん゛っと咳払いをした俺は何事もなかったかのように立とうとして、ぺしゃ、とベッドの脇に膝をついた。……腰が抜けてる。顔が熱い。マンガだったら多分ボンッと効果音が付いていたと思う。
「まあそうだよね」
恵さんが笑いを噛み殺しながらそう言った。俺をこんなにしたのは恵さんなのに。俺はじと、と彼を睨んだ。
「恵さん…」
「ふっ…ごめんね、可愛いなって思って」
「可愛い…?」
「まあ何をしても可愛いけどね」
「何をしても…?」
恵さんが兄さんたちみたいなことを言ってる。目を白黒させている俺を見ながら恵さんは俺の頭を優しく撫でた。
「なお、おいで」
そう言いながら恵さんが屈む。ふわりと体が浮いたと思ったら彼の腕の中だった。いわゆるお姫様だっこ、と言うやつだ。恥ずかしかったけど、腰が抜けてて歩けないわけだし、と必死に言い訳をして、そろ、と恵さんに首に腕を回した。
「そうそう、いい子」
褒められた。嬉しさと気恥しさで恵さんの首元に顔を埋める。
「ふっ、くすぐったいよ、直巳」
くすくすと恵さんが笑う。そう言う割にその声はちょっとびっくりするほど甘やかで、俺はぐりぐりと頭を押し付けた。
「…あの、服とか、ありがとう」
「ん? ああ。……どういたしまして」
「?」
「なんでもないよ、移動しようか」
と、恵さん。俺は返事の代わりにきゅっと首元に力を込めた。
お姫様だっこのまま移動して、そのままそっとソファーに降ろされた俺は、ローテーブルに置いてあったものを見て目を見開いた。固まる俺をよそに恵さんはちょっと待っててね、と言ってキッチンへと消えていってしまう。
「直巳?」
ローテーブルに置いてあるものをじっと見つめる俺を、手に朝食らしき皿を持った恵さんが不思議そうな声で呼んだ。声のした方へギギ、と音がしそうなほどゆっくりと顔を向ける。
「め、めぐ、恵さん」
俺はローテーブルに鎮座している物と恵さんの顔を交互に見て、それから震える手でそれを指差した。
「それ、」
そこにあったのは婚姻届だった。ただの婚姻届じゃない。俺が、御守りのように扱っていたアレである。顔を青くした俺を見ながら恵さんはなんでもない調子でああ、と軽く頷いた。
「あのジャケット、クリーニングに出そうと思って」
「あ、ああ…」
そういえば皺になるのも気にせずソファで、その…したんだった。うっかり昨夜のことを思い出してしまって顔に熱が集まる。恥ずかしくて縮こまる俺を楽しそうに眺めながら恵さんが続けた。
「中に紙とか入ってないか確認したら、ね」
「ああああ」
なんでジャケットの内ポケットなんかに婚姻届を入れてたんだろう。頭を抱える俺とは反対に恵さんはなぜだかとても嬉しそうで、だんだん俺もまあいいか、という気持ちになってくる。
「食べたら出しに行こうね」
そう言いながら恵さんは大事なものを扱うように婚姻届を端に避けた。ずっと持ち歩いていたからくたくたになった婚姻届を何となしに見つめる。
…茶色の、婚姻届だ。朝の(と言っても昨日だけど)のアナウンサーの言葉が蘇る。――ラッキーカラーは茶色! 身につけると最高の日になるかも?
「卵じゃなかった…」
「うん? 目玉焼きは嫌だった?」
「え、あ、目玉焼き好きです!」
「そう?」
恵さんは不思議そうに首を傾げて俺の前に目玉焼きを置いた。美味しそうなそれに思い出したようにくう、と腹が鳴る。お腹すいたよね、と小さく笑う彼は俺に箸を渡しながらそれと、と思い出したように付け加えた。
「結婚式も挙げようね」
俺がずっと一緒に居てあげるから、と彼は蕩けるような笑顔でそう言った。
――――――
神崎恵(30歳)
お見合いの時点で直巳に一目惚れしている。本編「1-3」にある「お兄さんも忙しいでしょうし」は、「お義兄さんも忙しいでしょうし」が正しく、正確に変換した直巳の兄から蛇蝎のごとく嫌われる結果になったが全く反省していない。
小鳥遊直巳(22歳)
恵の涙ぐましい努力のおかげで(せいで)身につけるものほとんど全てと恵の存在が紐づいているが全く気にしていない。むしろたくさん思い出があって嬉しいなって思ってる。最近それをうっかり兄に漏らしたら過保護が加速した。
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