初夜の翌朝失踪する受けの話

春野ひより

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初夜の翌朝隣を見たらもぬけの殻だった攻めの話

その後の一幕 ある朝の日

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 ふっと意識が浮上して、重い瞼を持ち上げた。まず隣に直巳がいる事を確認する。彼の胸がゆっくりと上下しているのを見て、俺は安堵の息を吐いた。
 首だけを回して枕元の時計を見る。午前6時22分。

「んぅ……」

 直巳の声だ。俺は再び彼に視線を戻した。直巳の睫毛が微かに震える。俺はじっとその様子を見ていた。

「めぐ……みさん……」

 寝惚けて呂律が回ってない。可愛いな、と俺は目細めた。

「おはよう、なお」
「いまなんじ……?」

 眠たそうに目を擦る直巳から時計を遠ざけ「まだ早いよ」と囁き返す。正直俺にとっては本当に早い時間なのだが、直巳にとってはいつもの時間、いや、遅いくらいだった。彼の普段の起床時間は5時半なのだ。

 けれど今日は久々の休日、直巳も休みだったはずだし、まだ起きるのは勿体なくて俺よりずっと薄い体をそっと抱き込んだ。直巳は驚いたように一瞬だけ動きを止めて、それから落ち着く場所を探すようにもぞもぞと体を動かした。しばらくすると居心地が良い場所を見つけたのかピタリと動きが止まる。それが嬉しくて、俺は彼の頭頂部に顔を埋めながら小さく笑った。

「まだ寝てていいよ」
「ん……」

 直巳は小さく頷くと、俺の背中に腕を回した。いい子、というように項を撫でると直巳はくすくすと肩を揺らした。

「ンッ……ふ、めぐみさん、くすぐったい」

 そう言って、逃げるどころか俺の胸元に頭を押し付ける可愛い子に、俺は堪らない気持ちになった。「ごめんね」と伝えるとすぐに「いいよ」と返ってくる。柔らかいその声に、甘やかされてるな、と思った。
 とん、と直巳の脚が俺のそれに当たる。そのまま絡めるとほんのりと青年の項が色づいた。誘ったのは君なのにね。
 吐息だけで笑うと、直巳は抗議するように俺のパジャマを引っ張った。動きが緩慢だからたぶん眠たいのだろう。

「……ふっ、ごめんって。許して、なお」
「ん゛~……じゃあ、きょう、このまえ言ってたあの……なんだっけ……」
「ああ、パンケーキの?」

 最近できたらしいカフェの名前を言うと、直巳は小さく頷いた。それなら朝食は軽めにしようかな、と一日の予定を何となく組み立てていると、直巳の呼吸がゆっくりになっていることに気づく。
 思考を中断し直巳を抱え直す。ピッタリとくっついた身体が暖かい。

「じゃあ、起きたら行こうか」
「ん」

 直巳が俺の胸元に頬を寄せる。安心しきったその仕草に胸が満たされていく。ゆっくりと背中を撫でながら、俺は囁いた。
 
「おやすみ、なお」
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感想 32

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みんなの感想(32件)

るん
2024.04.11 るん

ランキングにあったから「ムーンさんで大好きな作品だ!読み返そ〜」って思ったら攻め目線がある!!!!!!うわーーー最高です!!この2人好きなので、リベンジ新婚旅行とかその後の話も是非お願いします...!!!

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こゆ
2024.02.21 こゆ

本当に本当にステキなお話をありがとうございました😊一気読み&途中泣いちゃいました!

言葉選びが秀逸で、お話に引き込まれるのにあっという間でした!

沢山の人に読んで欲しい!です✨これからも 沢山のお話、楽しみにしております🥰本当にありがとうございました🙇

2024.02.23 春野ひより

ありがとうございます〜!!
私が書いた話で少しでも楽しんでいただけたのなら本当に嬉しいです😭

こちらこそ嬉しいお言葉本当にありがとうございます!!これからも頑張ります〜!🥰

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どんこ征悦
2023.11.30 どんこ征悦

ムーンで好きだった話だ!
続編もある〜と、一気読みしました。

改めて読み直しても面白かったです。
優しくて穏やかな恵さんの執着重重溺愛が良く分かって最高でした。
最後も愛いっぱいに満たされた2人を見られて、本当に良かったです(*≧∀≦*)

余力ありましたら……
失踪カウントダウンの続きも読みたいです……気長に待ってます(^人^)

2023.12.31 春野ひより

攻め視点ようやく書けたので私も楽しかったです〜!
楽しんでいただけたのならそれ以上の幸せはありません。

失踪カウントダウンほんとのホントに完結させる気だけはあるのでどうか気長に待っていて貰えると嬉しいです。来年本当に頑張ります。覚えていてくれて本当にありがとうございます。

感想ありがとうございました!本当に嬉しかったです!!

解除

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