24 / 30
初夜の翌朝隣を見たらもぬけの殻だった攻めの話
3-2
しおりを挟む
――絶対結婚する。
そう決心してからは早かった。数日のうちに婚約指輪を用意し縁談を取りまとめたのは爺さんたちに急かされたからじゃない。他でもない、俺が、安心したかったからだ。
血縁をしがらみとしか思えず、誰よりも家に縛られたくないと思っているはずなのに、その実俺は誰よりも家に、家族に執着している。
初めて家族になりたいと思ったのが自分より8個も下の男の子だったのは自分でも正気を疑ったし、実はぺド野郎だったのかと本気で悩んだりもしたが一目惚れだったんだ。しかたないじゃないか。もっとも、ぺド疑惑は直巳が成長するにつれ無事に晴れたわけだけど。
直巳の婚約者として過ごした8年は、長いようであっという間だった。
あの子にだけは誠実でいたくて、カッコイイ恵さんでいたくて、できることは全部やった。
正直神崎家が没落しようが吸収合併されようがどうでもよかったし何なら潰れてしまえと思っていた時期もあったわけだけど、嫁いだ先が没落したり吸収合併されるなんて目に直巳を合わせたくなかったから俺にできる全てを尽くして建て直したし、毎週のようにあの子と会う時間を作って俺と過ごすことを当たり前にもした。成人どころか大学卒業まで手を出さずにいられたのは奇跡だと思う。
それだけ、あの子が大切で、大事にしたかった。
愛しているんだ。
「唯一の不満はお義兄さんに未だに認めて貰えないことかな」
「お前が結婚もしてないのにお義兄さん呼びするからだろ」
「いい加減諦めて欲しくて」
「そういうとこだと思うぜ」
高校以来の付き合いである友人、咲久乃が、呆れたように肩を竦めた。
特に説明もなく突然バーに呼び出された文句もあるのだろう、咲久乃は絡むように俺の肩に腕を乗せて「いいか?」と俺の顔を覗き込んだ。直巳ならともかく咲久乃と見つめ合う趣味はないのですぐに振り落とした。
「いってえな。今日なんか機嫌悪くね? てか、そりゃあんだけチガチに婚約者ちゃんの周り固めてれば一郎さんじゃなくても警戒するわ。どこまで束縛するんだよ。あの子の服、お前が全部買ってやってるんだって?」
「心外だな。束縛なんてそんなことしてないよ」
「嘘つけ。じゃあその子が合コン行ったらどうすんだよ」
「別に止めないよ。友人は大事にして欲しいし、若いんだからそういう付き合いも必要だろ。まあ10時過ぎる前に迎えに行くけど」
「こういうバーは?」
「俺が連れてく」
「ほらな」
咲久乃のしたり顔が大変腹立たしい。しかし彼の言うとおりで俺は舌打ちをした。そうだよどんなに格好つけたって直己が俺以外と並んでいるところを想像するだけで腸が煮え繰り返る。俺は吐き捨てた。
「悪いか?」
「大草原不可避」
「ここ、お前の奢りな」
「ふざけんな誰がザルに奢るんだよ。だって面白がるしかないだろこんなん。頑なに婚約者ちゃんの名前教えてくれないし」
小鳥遊さんとこの末っ子だろ、と咲久乃。俺は片眉を跳ねさせ友人の顔を見た。
「なんだっけ、なおみ?」
「軽々しく俺の直巳の名前を呼ぶな」
「マ~ジでそういうとこ一郎さんにそっくり」
友人の口から出てきた直巳の兄の名前に俺は顔を顰めた。
「あのヤバい人と一緒にしないでくれ」
「いやお前も十分ヤバイよ」
自覚なかったんか?と咲久乃が俺の顔を覗き込んだ。
そう決心してからは早かった。数日のうちに婚約指輪を用意し縁談を取りまとめたのは爺さんたちに急かされたからじゃない。他でもない、俺が、安心したかったからだ。
血縁をしがらみとしか思えず、誰よりも家に縛られたくないと思っているはずなのに、その実俺は誰よりも家に、家族に執着している。
初めて家族になりたいと思ったのが自分より8個も下の男の子だったのは自分でも正気を疑ったし、実はぺド野郎だったのかと本気で悩んだりもしたが一目惚れだったんだ。しかたないじゃないか。もっとも、ぺド疑惑は直巳が成長するにつれ無事に晴れたわけだけど。
直巳の婚約者として過ごした8年は、長いようであっという間だった。
あの子にだけは誠実でいたくて、カッコイイ恵さんでいたくて、できることは全部やった。
正直神崎家が没落しようが吸収合併されようがどうでもよかったし何なら潰れてしまえと思っていた時期もあったわけだけど、嫁いだ先が没落したり吸収合併されるなんて目に直巳を合わせたくなかったから俺にできる全てを尽くして建て直したし、毎週のようにあの子と会う時間を作って俺と過ごすことを当たり前にもした。成人どころか大学卒業まで手を出さずにいられたのは奇跡だと思う。
それだけ、あの子が大切で、大事にしたかった。
愛しているんだ。
「唯一の不満はお義兄さんに未だに認めて貰えないことかな」
「お前が結婚もしてないのにお義兄さん呼びするからだろ」
「いい加減諦めて欲しくて」
「そういうとこだと思うぜ」
高校以来の付き合いである友人、咲久乃が、呆れたように肩を竦めた。
特に説明もなく突然バーに呼び出された文句もあるのだろう、咲久乃は絡むように俺の肩に腕を乗せて「いいか?」と俺の顔を覗き込んだ。直巳ならともかく咲久乃と見つめ合う趣味はないのですぐに振り落とした。
「いってえな。今日なんか機嫌悪くね? てか、そりゃあんだけチガチに婚約者ちゃんの周り固めてれば一郎さんじゃなくても警戒するわ。どこまで束縛するんだよ。あの子の服、お前が全部買ってやってるんだって?」
「心外だな。束縛なんてそんなことしてないよ」
「嘘つけ。じゃあその子が合コン行ったらどうすんだよ」
「別に止めないよ。友人は大事にして欲しいし、若いんだからそういう付き合いも必要だろ。まあ10時過ぎる前に迎えに行くけど」
「こういうバーは?」
「俺が連れてく」
「ほらな」
咲久乃のしたり顔が大変腹立たしい。しかし彼の言うとおりで俺は舌打ちをした。そうだよどんなに格好つけたって直己が俺以外と並んでいるところを想像するだけで腸が煮え繰り返る。俺は吐き捨てた。
「悪いか?」
「大草原不可避」
「ここ、お前の奢りな」
「ふざけんな誰がザルに奢るんだよ。だって面白がるしかないだろこんなん。頑なに婚約者ちゃんの名前教えてくれないし」
小鳥遊さんとこの末っ子だろ、と咲久乃。俺は片眉を跳ねさせ友人の顔を見た。
「なんだっけ、なおみ?」
「軽々しく俺の直巳の名前を呼ぶな」
「マ~ジでそういうとこ一郎さんにそっくり」
友人の口から出てきた直巳の兄の名前に俺は顔を顰めた。
「あのヤバい人と一緒にしないでくれ」
「いやお前も十分ヤバイよ」
自覚なかったんか?と咲久乃が俺の顔を覗き込んだ。
228
お気に入りに追加
3,155
あなたにおすすめの小説

当たり前の幸せ
ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。
初投稿なので色々矛盾などご容赦を。
ゆっくり更新します。
すみません名前変えました。

からかわれていると思ってたら本気だった?!
雨宮里玖
BL
御曹司カリスマ冷静沈着クール美形高校生×貧乏で平凡な高校生
《あらすじ》
ヒカルに告白をされ、まさか俺なんかを好きになるはずないだろと疑いながらも付き合うことにした。
ある日、「あいつ間に受けてやんの」「身の程知らずだな」とヒカルが友人と話しているところを聞いてしまい、やっぱりからかわれていただけだったと知り、ショックを受ける弦。騙された怒りをヒカルにぶつけて、ヒカルに別れを告げる——。
葛葉ヒカル(18)高校三年生。財閥次男。完璧。カリスマ。
弦(18)高校三年生。父子家庭。貧乏。
葛葉一真(20)財閥長男。爽やかイケメン。

アルファのアイツが勃起不全だって言ったの誰だよ!?
モト
BL
中学の頃から一緒のアルファが勃起不全だと噂が流れた。おいおい。それって本当かよ。あんな完璧なアルファが勃起不全とかありえねぇって。
平凡モブのオメガが油断して美味しくいただかれる話。ラブコメ。
ムーンライトノベルズにも掲載しております。

それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。
まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。
転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。
ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。
「本当に可愛い。」
「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」
かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。
「お願いだから、僕にもう近づかないで」


愛しいアルファが擬態をやめたら。
フジミサヤ
BL
「樹を傷物にしたの俺だし。責任とらせて」
「その言い方ヤメロ」
黒川樹の幼馴染みである九條蓮は、『運命の番』に憧れるハイスペック完璧人間のアルファである。蓮の元恋人が原因の事故で、樹は蓮に項を噛まれてしまう。樹は「番になっていないので責任をとる必要はない」と告げるが蓮は納得しない。しかし、樹は蓮に伝えていない秘密を抱えていた。
◇同級生の幼馴染みがお互いの本性曝すまでの話です。小学生→中学生→高校生→大学生までサクサク進みます。ハッピーエンド。
◇オメガバースの設定を一応借りてますが、あまりそれっぽい描写はありません。ムーンライトノベルズにも投稿しています。


「じゃあ、別れるか」
万年青二三歳
BL
三十路を過ぎて未だ恋愛経験なし。平凡な御器谷の生活はひとまわり年下の優秀な部下、黒瀬によって破壊される。勤務中のキス、気を失うほどの快楽、甘やかされる週末。もう離れられない、と御器谷は自覚するが、一時の怒りで「じゃあ、別れるか」と言ってしまう。自分を甘やかし、望むことしかしない部下は別れを選ぶのだろうか。
期待の若手×中間管理職。年齢は一回り違い。年の差ラブ。
ケンカップル好きへ捧げます。
ムーンライトノベルズより転載(「多分、じゃない」より改題)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる