初夜の翌朝失踪する受けの話

春野ひより

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追いかけてきた攻めにつかまった受けの話

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 忙しいと時間はあっという間に過ぎていく。
 やっと人心地着いた頃には時計の針は2時を指していた。最後のお客さんの会計を終え、一時的に誰もいなくなった店内を見て肩の力を抜く。

「落ち着いてきましたね。直巳くん、今のうちに休憩入っておきましょうか」
「このグラス片付けてから入ります」
「そう? 私は裏に居るから何かあったら呼んでくださいね」
「はい」

 ちゃんと休憩とってね、と言いながら裏に消えていくマスターを見送ってから俺は視線を下に落とした。
 クラシックが流れる静かな店内で、洗い終わったグラスを黙々と磨いていく。こういう単純作業をしていると、どうしてもあの人のことを考えてしまう。元気にしてるかなとか、ちゃんと休めてるかなとか、――好きな人とはうまくいったかな、とか。
 ふと、グラスを磨く手はそのままに窓の外を見た。

「あ…」

 俺は大きく目を見開いた。
 窓の外、道路を挟んで向かい側に、信号を待つ彼の姿があった。
 恵さんだ。
 思わず手が止まる。時間も、止まったような気がした。
 3ヶ月ぶりに見た彼はなんだが疲れているようで、心なしか撫で付けた髪もぺしゃりとしているような気がした。好きな人とうまくいってないのかな。一瞬、そうだったらいいな、と思って、即座にその考えを打ち消した。俺は彼に幸せになって欲しかったんだ。その気持ちは否定したくない。
 恵さんを嫌う人なんていないと思ってたから、俺はとにかく彼の元を離れることばかり考えていたけど、やっぱ俺の存在が邪魔になっているのかもしれない。俺はキュッと口元を真一文字に結んだ。
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