初夜の翌朝失踪する受けの話

春野ひより

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追いかけてきた攻めにつかまった受けの話

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 恵さんの元から離れて3ヶ月経った。まだ3ヶ月だけど、7年間毎週のように(もしかするとそれ以上の頻度で)会っていただけにその喪失感は覚悟していたよりも大きかった。
 素直に白状しよう。すごく、寂しい。
 寂しさを紛らわせるため持ち出した婚姻届を肌身離さず携帯して御守りのように扱っているのはさすがに自分でもどうかと思うけど、役所に届けるわけじゃないし、一人暮らしの自由さもあって当分やめられそうになかった。
 そう、一人暮らしだ。俺は心機一転一人暮らしを始めていた。小鳥遊の家には兄さんがいるし、今回のことを兄さんたちが知れば大変なことになる。神崎家に討ち入りされても困るし、それに、環境が変われば恵さんのことも案外あっさり忘れられるかもしれないと思ったのだ。
 場所は1人も知り合いのいない海外――ではなく、片田舎の――でもなく、普通に関東某所だ。今借りているマンションは昔母さんが住んでいたものらしい。

 俺の新生活は母さんなしじゃ始まりもしなかったと言っても過言ではない。

 恵さんの元から離れることを決めたのはいいけど、いくら何でも1人で全部どうにかするのはとても無理で、そこで相談したのが母さんだった。俺が恵さんの元をこっそり離れたいということ話すと、母さんはどこか遠くを見るような目をして暫く考えた後、このマンションを教えてくれたのだ。まあ何事も経験よね、と言っていた。兄さんたちには私が上手く言っておくから、とも。正直それが一番助かった。
 こうして俺の新生活は始まったわけだけど、最初は色々あった一人暮らしも3ヶ月も経てばいい加減慣れてくる。俺の新生活は失恋の痛みと僅かなホームシックを除けば概ね順調だった。心なしか独り言が増えた気がするけどまあ、俺しか聞いてないし些細なことだ。

 トースト一枚という侘しい朝食を食べ終えた俺は、朝のテレビ番組を流しながら支度を始めた。さそり座のあなたは今日はいい事があるらしい。朝の占いなんて普段は気にしないけど、結果が良いとちょっと嬉しくなる。我ながら単純だ。
 ラッキーカラーは茶色! 身につけると最高の日になるかも? と爽やかな笑顔で告げるアナウンサーに従って俺は茶色のジャケットを羽織った。最高の日かあ、卵が安くなってるとかかな。


 小さく深呼吸をして気持ちを切り替えると、誰も居ない部屋に向かっていってきます、と挨拶をして部屋を出た。
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