初夜の翌朝失踪する受けの話

春野ひより

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初夜の翌朝失踪する受けの話

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 パチ、と目を覚ました。枕元の時計は6時を指している。いつも起きる時間より30分遅いけど、まあ許容範囲だろう。
 横を見ると当然のように恵さんが眠っていた。穏やかに背中が上下している。忘れないように目に焼き付けていると喉に熱いものが競り上がってきて俺はゆっくり深呼吸を一つした。
 最後だし顔が見たかったけど、覗き込んで恵さんが起きたら大変だからグッと我慢する。綺麗に筋肉のついた背中をしばらくぼんやり眺めた後、俺はそっとベッドを抜け出した。

 ベッドの脇に立って恵さんが起きていないことを確認した俺はさっさと着替えを済ませて出ていく準備をする。そこでふと、リビングルームにある婚姻届の存在を思い出した。
 手櫛で髪を整えながらリビングルームに向かった俺は、テーブルの上に置いてある2人の名前が記入された婚姻届の前に立った。置いて行こうか迷って、持っていくことに決めた。役所に出す気はサラサラなかったけど欲が出たのだ。こんなものあっても恵さんだって困るだろうし、といもしない誰かに言い訳しながら俺は婚姻届を四つ折りにしてポケットの中に仕舞った。

 隠していたスニーカーを履く。そういえばこれも恵さんから貰ったものだと気づいて、俺はギュッと目を閉じた。未練がましく振り返りそうな自分を振り切って俺はドアを開けた。
 服とか必要なものを詰めたボストンバッグは駅のコインロッカーの中だ。まずはそこに向かわないと。


 エレベーターの中で、彼が、恵さんが好きな人と幸せになれるといいなと思った。
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