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初夜の翌朝失踪する受けの話
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しおりを挟む「直巳、なおみ」
「えっわ、はい!」
「いい返事だね。そうじゃなくて、大丈夫?」
恵さんが俺の顔を覗き込みながら言った。やっとぼんやりしていたことに気づいた俺は小さく笑って、大丈夫、と付け加えた。
時は戻って現在、いよいよ明日だった。つまり、俺たちが入籍する日であり――俺が恵さんを解放してあげる日だ。
俺たちは結婚式を挙げないことになっているから、その代わりに新婚旅行はそれなりに豪華な計画を立てていた。行くつもりのない旅行の計画を立てるのは心苦しかったけど、旅費の半分は俺のバイト代から出てるし、あとはまあ、恵さんなら代わりの人も簡単に見つかるだろうからあまり心配していなかった。それこそ彼の好きな子と行ってくれたらいい。
それで、多分、俺は今夜これから恵さんとする。
何となくそういうのは結婚してから、という雰囲気が出来上がっていた中今日がいいと強請るのはとんでもなく恥ずかしかったけど、最後だと思うと結構大胆になれるものだ。
何とかそうと決まったあとは恵さんがホテルを手配してくれた。家はちょっと…らしい。特に場所の拘りもなかった俺は大人しくしていた。とはいえホテルを取ったと言われてかなりテンションが上がったのは恵さんには秘密だ。好きな子が別にいる人に俺を抱かせると思うと罪悪感で胸がしくしく痛んだけど、今日だけだからと言い訳し続けて今日まで来たのだ。だから絶対に失敗したくないし、先延ばしにするのは論外だった。
「本当、大丈夫。ちょっと緊張してるだけ」
実際はちょっとじゃなくてめちゃめちゃしてるし、今にも心臓が口から飛び出そうだったけど、俺は無理に平静を装った。
「無理にすることもないんだよ?」
眉を寄せてそう言う恵さんに、そんなに俺としたくないのかな、とちょっと傷つく。傷つく資格なんて俺にはないのに。
俺は傷ついた事を誤魔化すようにわざとらしく口を尖らせて言った。
「ハジメテなんだから仕方なくない?」
「……」
「それどういう顔?」
「良かった、って顔」
「良かった?」
「何でもないよ。さ、シャワー浴びておいで」
「シャワー……」
思わず口篭る俺を恵さんが俺の手をそっと握った。
「君は本当に可愛いね」
困ったように眉根を下げた恵さんが俺の背中をそっと押す。いつもより性急な態度に心臓が跳ねた。
「いってきます…」
「はい、いってらっしゃい」
恵さんの顔は見れなかった。
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