せっかく異世界転生したのに、子爵家の後継者ってそれはないでしょう!~お飾り大公のせいで領地が大荒れ、北の成り上がり伯爵と東の大公国から狙われ
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
文字の大きさ
大中小
4 / 14
第4話
しおりを挟む――刹那。
目が カッっ! と見開くと、いままでにない程に速くそして鋭く一振りの木剣が振り下ろされた。
ビュン!
木剣は空を斬る。
そして切っ先は一切ブレる事無くピタリと静止する。
振り下ろす姿はとても素人とは思えない程に完成されていた。
胸の高さの辺りまで、柄を握る上下の手の力が違うのだがそれが巧い。
多くの騎士《バカ》のように力任せに叩き斬るのではなく、技術を持って斬るための術《すべ》、これこそまさに剣術、剣技だ。
「――――ッ!?」
どうしてあんなにピタリと剣が、切っ先が止まるんだ? 思い返してみれば腕は伸びきっておらず、手首、腕、腰、膝……全身で衝撃を吸収し、鍔《つば》側の指で衝撃を抑えたのだろう……
思わずゴクリと喉が鳴る。
初日とは思えない成長速度と目の付け所に心が震えた。
今日までの最高の振りに迫らんとする若き才能に嫉妬すると共に恐怖する。
俺至上最高の一太刀だった。亜竜《デミドラゴン》の喉笛を斬り裂いた時に勝るとも劣らない振りだった。
普通は綺麗に素振りをすることを考えて練習する。
しかし、アーク様はその先を目指しているように感じる……「どうすれば効率的に人を斬れるか?」と……
言葉にすれば簡単だが、長いものを振り回すただそれだけで結構疲れる。
柄の握り方に始まり、力の入れ方抜き方、重心の移動……やる事は多い。
凡人の十日は、天才の一日……否、それ以下なのかもしれない。
村に居た頃、時々来る吟遊詩人が語る騎士や英雄に憧れていた。
そんなありし日に似た感覚を呼び起こさせられる姿が目の前にあった。ただただ凄いとしか言葉が出ない。
この若君は間違いなく吟遊詩人の語る英雄の素養がある。
反面、非才な自分では完全に役者不足なのを自覚した。
自分ではこの才能を歪めてしまいかねない。と才能に憧れるとともに恐怖したのだ。
「これだけの才能の原石を俺なんかが下手に指導出来ない。体力作りでお茶を濁している間に何とか俺以外の確りとした剣士に指導させなければ……」
ポツリと独り言をと呟く……と、先ずは走らせることにした。
「アーク様、体力に余裕があるのでしたら今日から限界まで走って体力を付けてください。鋼鉄の武具に身を包み戦場の空気に当てられれば、体力と気力は幾らあっても足りません。技術、体力、知識は絶対にアーク様を裏切る事はないでしょう……」
実体験を交えた論理的な説明であれば、この五歳児は理解できるとこの僅かな時間で理解できた。
「一理ある……ではそうしよう……卿は休むと良い」
そう言うと子守メイドを引き連れて走り始めた。
子守メイドの一人が一瞬、「え? 私も走るんですか?」と言いたげな表情を浮かべるも他のメイドが腹を触ったり、二の腕を触って恐らく「あなた最近 “肉” 付いてきてたわね」「ほらここにも」と、煽ると目を吊り上げて走り出した。
そんな一行を見届け、一人になった空き地で俺はポツリと独り言を呟いた。
「何だよ! なんなんだよ!! あの才能はよォ!?」
幸いなことに普段は誰も近づかない場所なので、“声” は聞こえても何を喋っているのかまでは判らないだろう。
「初めての素振りで、まぐれでも俺の渾身の素振りよりも良い軌道で振るなんて『七武刃』や『剣聖』、『剣鬼』と並ぶ才覚なんじゃないのか? 今のままでも間違いなく俺を超え、技術だけなら数年で彼らを超える。身体が出来上がりさえすればこの世界の五指に入る剣士になるんじゃないか?」
そんな漠然とした高揚感を感じる。
こうしては居られない! 俺が前線に出てでも優秀な騎士を一日でも早く引っ張って来なければ、あの才能の原石は歪になり色がくすんだクズ石に成ってしまいかねない! そんな薄氷のような儚い美しさを感じさせる歪な才……まるで人工的に作られたようなだと感じる。
移動しながらそんなことを考え、豪奢なドアをノックする。
「……」
「……お話が御座います」
「……入れ」
話す事は決まっている。「早く専門の教師を手配してくれ……責めてベテランの騎士を指導に当ててくれ」と、尻を舐めてでも懇願するつもりだ。
俺はアーク様の才能に惚れ込むと同時に、恐怖したのだ。
恥も外聞もあったモノか今の俺の願いはただ一つ!!
「早く俺を担当から外してくれ!」ただそれだけだ。
44
お気に入りに追加
106
あなたにおすすめの小説
勇者がパーティーを追放されたので、冒険者の街で「助っ人冒険者」を始めたら……勇者だった頃よりも大忙しなのですが!?
シトラス=ライス
ファンタジー
漆黒の勇者ノワールは、突然やってきた国の皇子ブランシュに力の証である聖剣を奪われ、追放を宣言される。
かなり不真面目なメンバーたちも、真面目なノワールが気に入らず、彼の追放に加担していたらしい。
結果ノワールは勇者にも関わらずパーティーを追い出されてしまう。
途方に暮れてたノワールは、放浪の最中にたまたまヨトンヘイム冒険者ギルドの受付嬢の「リゼ」を救出する。
すると彼女から……「とっても強いそこのあなた! 助っ人冒険者になりませんか!?」
特にやることも見つからなかったノワールは、名前を「ノルン」と変え、その誘いを受け、公僕の戦士である「助っ人冒険者」となった。
さすがは元勇者というべきか。
助っ人にも関わらず主役級の大活躍をしたり、久々に食事やお酒を楽しんだり、新人の冒険者の面倒を見たりなどなど…………あれ? 勇者だったころよりも、充実してないか?
一方その頃、勇者になりかわったブランシュは能力の代償と、その強大な力に振り回されているのだった……
*本作は以前連載をしておりました「勇者がパーティーをクビになったので、山に囲まれた田舎でスローライフを始めたら(かつて助けた村娘と共に)、最初は地元民となんやかんやとあったけど……今は、勇者だった頃よりもはるかに幸せなのですが?」のリブート作品になります。
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
キモオタ レベル0★世界最弱のオタク高校生の僕だけレベルアップ!美女に囲まれハーレム青春物語
さかいおさむ
ファンタジー
街中にダンジョンが現れた現代日本。
人々には戦士としてのレベルが与えられる。
主人公は世界最弱のレベル0。
レベルの低さに絶望していたある日、戦士のレベルの10倍の強さになるというボスが現れる。
世界で倒せるのレベル0の主人公だけ。
ダンジョンで戦うことは諦めていた主人公だが、その日から自分だけがレベルアップできることに。
最強戦士になって、美女の仲間たちとダンジョンの秘密を解き明かす。
【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい
斑目 ごたく
ファンタジー
「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。
さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。
失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。
彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。
そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。
彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。
そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。
やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。
これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。
火・木・土曜日20:10、定期更新中。
この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。
追放?俺にとっては解放だ!~自惚れ勇者パーティに付き合いきれなくなった俺、捨てられた女神を助けてジョブ【楽園創造者】を授かり人生を謳歌する~
和成ソウイチ
ファンタジー
(全77話完結)【あなたの楽園、タダで創ります! 追放先はこちらへ】
「スカウトはダサい。男はつまらん。つーことでラクター、お前はクビな」
――その言葉を待ってたよ勇者スカル。じゃあな。
勇者のパワハラに愛想を尽かしていたスカウトのラクターは、クビ宣告を幸いに勇者パーティを出て行く。
かつては憧れていた勇者。だからこそここまで我慢してきたが、今はむしろ、追放されて心が晴れやかだった。
彼はスカルに仕える前から――いや、生まれた瞬間から決めていたことがあった。
一生懸命に生きる奴をリスペクトしよう。
実はラクターは転生者だった。生前、同じようにボロ布のようにこき使われていた幼馴染の同僚を失って以来、一生懸命に生きていても報われない奴の力になりたいと考え続けていた彼。だが、転生者であるにも関わらずラクターにはまだ、特別な力はなかった。
ところが、追放された直後にとある女神を救ったことでラクターの人生は一変する。
どうやら勇者パーティのせいで女神でありながら奴隷として売り飛ばされたらしい。
解放した女神が憑依したことにより、ラクターはジョブ【楽園創造者】に目覚める。
その能力は、文字通り理想とする空間を自由に創造できるチートなものだった。
しばらくひとりで暮らしたかったラクターは、ふと気付く。
――一生懸命生きてるのは、何も人間だけじゃないよな?
こうして人里離れた森の中で動植物たちのために【楽園創造者】の力を使い、彼らと共存生活を始めたラクター。
そこで彼は、神獣の忘れ形見の人狼少女や御神木の大精霊たちと出逢い、楽園を大きくしていく。
さらには、とある事件をきっかけに理不尽に追放された人々のために無料で楽園を創る活動を開始する。
やがてラクターは彼を慕う大勢の仲間たちとともに、自分たちだけの楽園で人生を謳歌するのだった。
一方、ラクターを追放し、さらには彼と敵対したことをきっかけに、スカルを始めとした勇者パーティは急速に衰退していく。
(他サイトでも投稿中)
世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する
平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。
しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。
だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。
そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。
女神に同情されて異世界へと飛ばされたアラフォーおっさん、特S級モンスター相手に無双した結果、実力がバレて世界に見つかってしまう
サイダーボウイ
ファンタジー
「ちょっと冬馬君。このプレゼン資料ぜんぜんダメ。一から作り直してくれない?」
万年ヒラ社員の冬馬弦人(39歳)は、今日も上司にこき使われていた。
地方の中堅大学を卒業後、都内の中小家電メーカーに就職。
これまで文句も言わず、コツコツと地道に勤め上げてきた。
彼女なしの独身に平凡な年収。
これといって自慢できるものはなにひとつないが、当の本人はあまり気にしていない。
2匹の猫と穏やかに暮らし、仕事終わりに缶ビールが1本飲めれば、それだけで幸せだったのだが・・・。
「おめでとう♪ たった今、あなたには異世界へ旅立つ権利が生まれたわ」
誕生日を迎えた夜。
突如、目の前に現れた女神によって、弦人の人生は大きく変わることになる。
「40歳まで童貞だったなんて・・・これまで惨めで辛かったでしょ? でももう大丈夫! これからは異世界で楽しく遊んで暮らせるんだから♪」
女神に同情される形で異世界へと旅立つことになった弦人。
しかし、降り立って彼はすぐに気づく。
女神のとんでもないしくじりによって、ハードモードから異世界生活をスタートさせなければならないという現実に。
これは、これまで日の目を見なかったアラフォーおっさんが、異世界で無双しながら成り上がり、その実力がバレて世界に見つかってしまうという人生逆転の物語である。
【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる