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第4話

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 ――刹那。
 目が カッっ! と見開くと、いままでにない程に速くそして鋭く一振りの木剣が振り下ろされた。

ビュン!

 木剣は空を斬る。
 そして切っ先は一切ブレる事無くピタリと静止する。
 振り下ろす姿はとても素人とは思えない程に完成されていた。
 胸の高さの辺りまで、柄を握る上下の手の力が違うのだがそれが巧い。
 多くの騎士《バカ》のように力任せに叩き斬るのではなく、技術を持って斬るための術《すべ》、これこそまさに剣術、剣技だ。

「――――ッ!?」
 
 どうしてあんなにピタリと剣が、切っ先が止まるんだ? 思い返してみれば腕は伸びきっておらず、手首、腕、腰、膝……全身で衝撃を吸収し、鍔《つば》側の指で衝撃を抑えたのだろう……

 思わずゴクリと喉が鳴る。

 初日とは思えない成長速度と目の付け所に心が震えた。
今日までの最高の振りに迫らんとする若き才能に嫉妬すると共に恐怖する。
 
 俺至上最高の一太刀だった。亜竜《デミドラゴン》の喉笛を斬り裂いた時に勝るとも劣らない振りだった。
 
 普通は綺麗に素振りをすることを考えて練習する。
 しかし、アーク様はその先を目指しているように感じる……「どうすれば効率的に人を斬れるか?」と……

 言葉にすれば簡単だが、長いものを振り回すただそれだけで結構疲れる。
 柄の握り方に始まり、力の入れ方抜き方、重心の移動……やる事は多い。

凡人の十日は、天才の一日……否、それ以下なのかもしれない。

 村に居た頃、時々来る吟遊詩人が語る騎士や英雄に憧れていた。
 そんなありし日に似た感覚を呼び起こさせられる姿が目の前にあった。ただただ凄いとしか言葉が出ない。
 この若君は間違いなく吟遊詩人の語る英雄の素養がある。

 反面、非才な自分では完全に役者不足なのを自覚した。
 自分ではこの才能を歪めてしまいかねない。と才能に憧れるとともに恐怖したのだ。

「これだけの才能の原石を俺なんかが下手に指導出来ない。体力作りでお茶を濁している間に何とか俺以外の確りとした剣士に指導させなければ……」

 ポツリと独り言をと呟く……と、先ずは走らせることにした。

「アーク様、体力に余裕があるのでしたら今日から限界まで走って体力を付けてください。鋼鉄の武具に身を包み戦場の空気に当てられれば、体力と気力は幾らあっても足りません。技術、体力、知識は絶対にアーク様を裏切る事はないでしょう……」

 実体験を交えた論理的な説明であれば、この五歳児は理解できるとこの僅かな時間で理解できた。

「一理ある……ではそうしよう……卿は休むと良い」

 そう言うと子守メイドを引き連れて走り始めた。
 子守メイドの一人が一瞬、「え? 私も走るんですか?」と言いたげな表情を浮かべるも他のメイドが腹を触ったり、二の腕を触って恐らく「あなた最近 “肉” 付いてきてたわね」「ほらここにも」と、煽ると目を吊り上げて走り出した。
 そんな一行を見届け、一人になった空き地で俺はポツリと独り言を呟いた。

「何だよ! なんなんだよ!! あの才能はよォ!?」

 幸いなことに普段は誰も近づかない場所なので、“声” は聞こえても何を喋っているのかまでは判らないだろう。

「初めての素振りで、まぐれでも俺の渾身の素振りよりも良い軌道で振るなんて『七武刃』や『剣聖』、『剣鬼』と並ぶ才覚なんじゃないのか? 今のままでも間違いなく俺を超え、技術だけなら数年で彼らを超える。身体が出来上がりさえすればこの世界の五指に入る剣士になるんじゃないか?」

 そんな漠然とした高揚感を感じる。
 こうしては居られない! 俺が前線に出てでも優秀な騎士を一日でも早く引っ張って来なければ、あの才能の原石は歪になり色がくすんだクズ石に成ってしまいかねない! そんな薄氷のような儚い美しさを感じさせる歪な才……まるで人工的に作られたような・・・・・・・・・・・・だと感じる。

 移動しながらそんなことを考え、豪奢なドアをノックする。

「……」
「……お話が御座います」
「……入れ」

 話す事は決まっている。「早く専門の教師を手配してくれ……責めてベテランの騎士を指導に当ててくれ」と、尻を舐めてでも懇願するつもりだ。
 俺はアーク様の才能に惚れ込むと同時に、恐怖したのだ。

 恥も外聞もあったモノか今の俺の願いはただ一つ!!

「早く俺を担当から外してくれ!」ただそれだけだ。


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