上 下
2 / 14

第2話

しおりを挟む

 耐え難い頭痛と悪夢にうなされ、不快な気分で目が覚めた。

「~~っ」

 まるで二日酔いにでもなったみたいにズキズキと頭が痛む。
 西洋風な窓を見るとまだ日の出前らしく、薄っすらと明るくなっている程度だ。

「てかここどこだよ? 病院?」

 ベッドの上で胡坐を掻く、目の前にはカーテンのようなものが取り付けられていた。
 しかし、それは医療ドラマなんかで見る仕切りのカーテンではなく、ヒラヒラとした装飾の施された立派なカーテンだった。

「俺のベッドに天蓋なんか付いてないんだけど!」

 来ている服の肌触りも何時も着ている化繊と違えば、患者の来ている服のようなみすぼらしさもない。
 どちらかと言えばアメリカの金持ちの寝間着に似ている。

 そんなことを考えているとコンコンとドアがノックされる。

「失礼します」

 返事を待つ前にドアが軋んだ。

「あら、お早いお目覚めですね」

 ドアを開けて現れたのは、黒を基調としたメイド服としてオーソドックスなクラシックスタイルに身を包むんだ女性だった。

「……」
「洗顔とお着換えをさせていただきます」

 彼女はそう言うと虚空・・から桶に水を出した。

「魔法?」
「お目覚めになられましたか……仰る通り魔法に御座います。さ、御顔を洗ってくださいませ」

 言われた通りに顔を洗う。

「寝ぐせも直しましょうか」
「自分じゃ判らないよ鏡ないの?」
「今お持ちします」

 装飾が施された手鏡を渡される。

 そこには俺ではない少年・・が寝ぐせを付けてぼけーっと立っていた。
 美しい黒髪、切れ長の瞳に整った顔付き、身長も体格もまるで違う少年がそこに居た。

「はぁ?」

 呆けたような声が口から洩れる。
 
これは夢だ! そうに違いない。

 っぺたを引っ張ってみるが、痛い。

 一体こいつは誰なのか?

「「アークだ」さま?」
「いや何でもない……」

 訝しむメイドを無視して髪を整え服を着替えさせられる。

「本日から剣術の訓練が始まりますのでお時間になりましたらお呼びします」
「判った……」
「では朝食をお持ちしますので、暫くお待ちください……」

 そう言うと一礼してメイドは部屋を後にした。

ふぅと短い溜息が漏れ出る。

「これってつまり転生って奴なのか? まさか自分が体験することになるなんてな……」

『転生』 肉体が死んだ後、魂が異なる肉体を得て新しい生活を送るという考え方で、近年の日本では様々な創作物の導入に用いられている。
 ……つまりいわゆる俺TUEEE系とか、成り上がり系とかのアレだ。

 常人なら到底受けれられないようなシチュエーションなんだが、足掻いても何も変わらないと判っている以上、現状を受け入れ適応していくしかない。
 俺は意図せず「第二の人生」と、「人生をやり直すチャンスを得た」と言う事になる。

 彼女も居なかった正に灰色の青春時代。
 友人達とバカ騒ぎをした訳でも勉強に没頭した訳でもなく、ただ時の流れに身を委ね、チャンスが来るのを口を開けて待っていただけの臆病なあの時代。

 生きているのか? 死んでいるのかよくわからない人生だったが、折角手に入れたこの機会を逃すほど今の俺は愚かじゃない。

 ただ、一つ問題があった。

「この身体って『ドラゴン・オブ・ファンタジー 雪月花』の悪役アーク・フォン・アーリマンなんだよなぁ……」

 大人気の戦略シミュレーションRPGだ。
 複数のエンディングが存在し、老若男女問わず結婚出来るシステムから恋愛シミュレーション扱いされたゲームでもある。

 俺もその例に漏れずパーティーには、美少女ヒロインばかりを加入させたものだ。

 中でも特にとあるヒロインが好きだった。
 からかい上手な小悪魔、年下属性と言う。属性自体が俺のドストライクだったと言う理由もあるが、やはり一番はキャラの性格だ。
 優しくしてくれた主人公に一途なのはもちろんのこと、“人形”のようなご都合キャラではなく、しっかりとしたアクのある人間臭くも年相応に可愛らしいヒロインだった。

 そして『ドラゴン・オブ・ファンタジー 雪月花』の悪役である俺は時に悪態をつき、悪事を働き主人公を窮地に陥れるが、結果としてそれがヒロインと主人公を引き立せ、最終的に主人公に殺される。

 まさに近年の娯楽作品の悪役然とした扱いだ。

「って言うかどうせなら主人公かモブに転生させてくれよ! やり直すにしてもなんだよ悪役って! ハードモード過ぎるだろ! ああ……ハイファンタジーよりローファン世界の方が娯楽面ではよかったなぁ……」

漫画もアニメもないし……

 ハ〇ター×ハンターの続きが読みたかった。
 なんて言って見ても現実は変わらない訳で……

「やってやるよ! 俺はこの人生を生き抜いてやる!!」

 ――と宣言したところで、ガチャリと音を立ててドアが開く。

「朝食をお持ちしました」

 ワゴンに乗せ朝食が運ばれ食事が配膳される。
 ティーカップになみなみと注がれたミルクティーとトーストだ。
 熱でとろりと溶け出したバターがトーストに染みている。

「美味そうだ」
「朝食《・・》や稽古も御座いますので、一杯の紅茶アーリーモーニング・ティーは程々にされた方が宜しいかと……」

原作にこんな本格的な貴族描写あったけ? まあいいか……

「朝食にオムレツが食べたいな」
「料理人に伝えておきます」
「ミルクティーのお代わりをくれ出来れば冷たいのを頼む」
「かしこまりました」

 メイドは返事をすると保温されたポットから別の容器にミルクティーを移し替えた。
 次の瞬間。
 湯気を立てていたミルクティーのポッドには結露した水滴が付着していた。

 魔道具だ。

 この世界には前世のような電気が存在せず、魔石と呼ばる電気のようなエネルギーが入った石をセットすることで誰でも魔法使える魔道具が流通している。
 例えば、明りを灯すものや温度を冷やすものなど多岐に渡る。ただし値段が高価なため王侯貴族や商人のような限られた人間しか使うことが出来ない。

「どうぞ」

 冷えたミルクティーは、食事で火照った身体を心地よく冷ましてくれる。
 思わず笑みがこぼれた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

異世界転生でチートを授かった俺、最弱劣等職なのに実は最強だけど目立ちたくないのでまったりスローライフをめざす ~奴隷を買って魔法学(以下略)

朝食ダンゴ
ファンタジー
不慮の事故(死神の手違い)で命を落としてしまった日本人・御厨 蓮(みくりや れん)は、間違えて死んでしまったお詫びにチートスキルを与えられ、ロートス・アルバレスとして異世界に転生する。 「目立つとろくなことがない。絶対に目立たず生きていくぞ」 生前、目立っていたことで死神に間違えられ死ぬことになってしまった経験から、異世界では決して目立たないことを決意するロートス。 十三歳の誕生日に行われた「鑑定の儀」で、クソスキルを与えられたロートスは、最弱劣等職「無職」となる。 そうなると、両親に将来を心配され、半ば強制的に魔法学園へ入学させられてしまう。 魔法学園のある王都ブランドンに向かう途中で、捨て売りされていた奴隷少女サラを購入したロートスは、とにかく目立たない平穏な学園生活を願うのだった……。 ※『小説家になろう』でも掲載しています。

裏庭にダンジョン出来たら借金一億❗❓病気の妹を治すためダンジョンに潜る事にしたパッシブスキル【禍転じて福と為す】のせいでハードモードなんだが

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
もはや現代のゴールドラッシュ、世界中に現れたダンジョンから持ち帰られた品により、これまでの常識は一変した。 ダンジョンから与えられる新たな能力『ステータス』により人類は新たな可能性がうまれる。 そのため優遇されたステータスを持つ一部の探索者は 羨望の眼差しを受ける事となる…… そんな世界でどこにでも良そうな男子高校生、加藤光太郎は祖父の悲鳴で目が覚めた。確認すると裏庭にダンジョンが出現していた。 光太郎は、ダンジョンに入る事を猛反対されるが、病気の妹を癒す薬を取りにいくため、探索者となる事を決意する。 しかし、光太郎が手にしたスキルは、常時発動型のデメリット付きのスキル【禍転じて福と為す】だった。 効果は、全てのモンスターが強化され、障碍と呼ばれるボスモンスターが出現する代わりに、ドロップアイテムや経験値が向上し、『ステータス』の上限を突破させ、追加『ステータス』幸運を表示するというものだった。 「ソロ冒険者確定かよ❗❓」 果たして光太郎は、一人だけヘルモードなダンジョンを生き抜いて妹の病を癒す薬を手に入れられるのか!?  ※パーティーメンバーやダンジョン内に同行する女の子が登場するのは第一章中盤37話からの本格登場です。

勇者がパーティーを追放されたので、冒険者の街で「助っ人冒険者」を始めたら……勇者だった頃よりも大忙しなのですが!?

シトラス=ライス
ファンタジー
 漆黒の勇者ノワールは、突然やってきた国の皇子ブランシュに力の証である聖剣を奪われ、追放を宣言される。 かなり不真面目なメンバーたちも、真面目なノワールが気に入らず、彼の追放に加担していたらしい。 結果ノワールは勇者にも関わらずパーティーを追い出されてしまう。 途方に暮れてたノワールは、放浪の最中にたまたまヨトンヘイム冒険者ギルドの受付嬢の「リゼ」を救出する。 すると彼女から……「とっても強いそこのあなた! 助っ人冒険者になりませんか!?」  特にやることも見つからなかったノワールは、名前を「ノルン」と変え、その誘いを受け、公僕の戦士である「助っ人冒険者」となった。  さすがは元勇者というべきか。 助っ人にも関わらず主役級の大活躍をしたり、久々に食事やお酒を楽しんだり、新人の冒険者の面倒を見たりなどなど…………あれ? 勇者だったころよりも、充実してないか?  一方その頃、勇者になりかわったブランシュは能力の代償と、その強大な力に振り回されているのだった…… *本作は以前連載をしておりました「勇者がパーティーをクビになったので、山に囲まれた田舎でスローライフを始めたら(かつて助けた村娘と共に)、最初は地元民となんやかんやとあったけど……今は、勇者だった頃よりもはるかに幸せなのですが?」のリブート作品になります。

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる

けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ  俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる  だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

処理中です...