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第66話

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「それはそうと、お前らは渾身の一振り作って来たのか?」

 そう言ったのは長兄だった。

「もちろん」「当然」と言った肯定の言葉が続く中、俺は忘れていた事に気が付いた。
 一番最近打って手元にあるのは、学園に入学してから打った魔杖古剣・火樹銀花かじゅぎんかぐらいしかない。
 それより後に打った刀剣はミナに売った。魔杖剣・紅椿あかつばきだが生憎と手元には無い。

 騎士団での訓練やモンスターや盗賊退治で、時間がない兄達でさえこの日のために今打てる最高の一振りを仕上げて来ている。と言うのに俺は今の今まで忘れていた。
 言い訳を言おうにも、もう売ってしまった刀剣の話をしても仕方がない。
 魔杖古剣・火樹銀花《かじゅぎんか》を、一番出来のいい剣として出すのが無難か……

「そう言えばアーノルドくんは、最近打った一振りを他人に売ったそうです」

 ――――と真面目ぶっていままで黙っていたミーネルが発言する。

「ミーネルさん。俺達だって自分で打った刀剣を販売した事はあるだろう? それの何が悪いんだ?」

 次兄は何を言ってるんだ? と呆れたような口調で窘める。

「ええ、確かにそうですね。アーノルドくんは刀ばかり打っているので、私達のように注文が入る事は少ないみたいですけど、美術品としてソコソコ売れているようです。優秀なバイヤーが付いているみたいなので……」

「そんなアーノルドくんが、名前を付けるほどのブロードソードが二振りあるのです。そのうちの一振りを見せもせず売り払うのはどうかと思うのですが……」

 ブロードソードのような一般的な剣を打った場合には、一族の誰かが品評し売るか、宝物庫に入れるのかを決めるのだが……曲刀に分類される武器に詳しいモノがいないので、俺の打つ刀は基本的に免除と言うか例外になっている。

「確かにまぁ……褒められた事ではないよね……」

 当家の宝物庫の中には、歴代の一族が打ち上げた一振りが収納されており国内外問わず。譲渡の依頼は舞い込んで来るのだが、その全てを模倣した剣を販売すると言う形で拒否している。
 それは如何に剣と共に生きる事を是とする魔剣士であったとしても、寿命の中でそう何本も何本も、軽々と打てるものではないと言う事が大きな理由だ。

 だから三男もあまり擁護できないのだろう。

「確かに一目も見せずに引き渡した事については申し訳ない事をしたと思うが、俺にはブロードソードは向いていない。しかもこの剣は依頼を受けて作刀したものだ。いくらで気がいいからと言って依頼者に渡さないと言うのは、鍛冶師としてどうなんだ? 試験のために剣を新調したかったんだから、それに合わせるのは当然のことだと思うんだが……」

「当主様が決めた事に異を唱えるような発言をしてしまった事は謝罪しますが、アーノルドくんはまだ一振りも宝物庫に修めて居ない・・・・・・・・・・・・・・のだから、その点は気を付けた方が良いと思うわ」

「確かにそうかもね。まぁ俺は魔剣士は剣術と魔術を扱えればそれでいいと思っているんだ。無理に評価してもらおうなんて元々思っていないよ……」



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