上 下
46 / 71

第45話ディナー下

しおりを挟む



「勘違いするなよ? 確かに俺達クローリー家は鍛冶師としての鍛錬を積むためテーブルマナーを始めとした。貴族的な常識にはやや疎いが、これは半島式の正式なマナーの一つだ。国によってはスプーンを使わず椀に口を付けて飲むことがマナーの国もあるんだぞ?」

 俺は前世の日本を懐かしみながらマナーについて説明する。

「そうなの? でもお皿に口を付けて飲むなんて犬猫じゃないんだから……」

 ミナは引き気味だが、文化や宗教と言うのは時代の必要に生み出された発明品だ。ヨーロッパ風の異世界人には理解されない習慣なのが悲しい。

 互いにそんな軽口を叩きながらも互いに険悪になる事無く食事を楽しむ。
 次に出されたのはムール貝とエビの酒蒸しで、魚介が好物である俺は喜んで頬張る。
 
「貝の旨味がたまらん。美味い!」

 本音を言えばカルパッチョなどの生魚を食べたいのだが、港町でないこの町では一般的ではない。
 エビとムール貝を肴に酒を飲む。

「アーノルド君って本当に食べる事が好きなのね。私は魚介の臭みが苦手で……」

「ああもちろん。食とは文化であり、生活の水準を知るのに良い物差しになるからな。魚は適切に処理しないと臭みが強くなる。港町で新鮮な魚介を食べてみると良い美味いぞ」

「そう言う事ね……」

 口直しのソルベ。とは言っても甘味は殆どなく、魚の生臭さを洗い流す目的のため柑橘系など、酸味の強いモノが多く今回は、青リンゴのシャーベットだった。

「酸っぱいけど口直しには丁度いいわね」

 ――――とミナには好評だが俺にとっては酸っぱすぎる。シャーベットは甘くないと………
 口内をさっぱりさせた後に出て来るのは、肉料理……アントレだ。料理全体のメインと言っていい品であり最も期待するものだ。
 料理を待つ間。ワインを片手に雑談に花を咲かせる。

「授業免除のための試験も実技・座学ともに問題なかったから、冬季休暇後まで授業に出なくていいから楽でいい」

「ホント。クローリー家って優秀なのね」

「当然だろう? 現代魔術師の基礎はクローリー家が作ったんだ。魔術の教本はメイザース家を始めとした。旧派閥の息のかかった宮廷魔術師が監修しているが、剣技やそれを魔術に応用する分野は全て現主流派であるウチとその派閥で牛耳っているのだ。幼少期からその内容を叩きこまれているから、今更勉強する部分は少ないんだよ。それはメイザース家もそうだろう?」

「その通りだけど……」

「所詮教育って言うのは、家庭環境によって下駄を履かせる事が出来るものだ。学園に平民の生徒もいるが奴らは俺達にはほぼ叶わない。何故なら基礎が出来ていないからだ。学ぶ機会があれば成り上がる可能性があるだけ完全に世襲よりはマシか……」

「そうかもね」

 他愛のない談笑を楽しんでいるとそこへ、給仕が肉料理アントレを持ってきた。見た目からもわかる程柔らかそうな子牛の肉だ。外側の焼き色と中心部は美しいロゼ色のコントラストが美しい。レアの焼き加減で肉汁が溢れ出しているのが分かる。赤ワインベースのステーキソースの香りが食欲をそそる。

 肉質も柔らかく、濃いめのソースで少し飽きを感じるが、この世界で一番マシな料理はフランス風料理なので、正直に言えば他に選択肢がないだけだ。
 サラダ、チーズと来て次に出されるのは、お菓子アントルメだ。アイスクリームが提供され、その次が果実、最後に濃いコーヒーと焼き菓子で〆になる。

 提供されたコーヒーカップは、ハムスターのお風呂サイズだった。ハム〇郎がどっぷり浸かり縁に腕を掛けて、オッサンのように「ふぅう~」っと声にならない声を上げる。そんなドリンクバーの白いカップサイズを想像されるかもしれないが、エスプレッソサイズのためあの鼠ならギチギチサイズである。
 出されるのがエスプレッソコーヒーと知っていれば、倍量ドッピオでと言伝をすればよかった。
 通常のコーヒーに比べ豆の旨味だけを最大限抽出した味なので、エグ味や雑味と言った余分な味は少なく、豆の持つ味、苦味やフルーティーな香り、酸味と言った味を楽しめる。カフェインも少ないのでディナーで頂いても夜寝られなくなる心配は少ないのも高評価だ。

「焼き菓子も品のある味わいでコーヒーによく合うな」

「私香りは好きなんだけど飲むときには、ミルクや砂糖を入れないと飲めないのよ……」

 子供舌め。

「甘いお菓子と一緒に食べれば紛れると思うよ」

 こうして俺達の打ち上げは終わった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

転生したらやられ役の悪役貴族だったので、死なないように頑張っていたらなぜかモテました

平山和人
ファンタジー
事故で死んだはずの俺は、生前やりこんでいたゲーム『エリシオンサーガ』の世界に転生していた。 しかし、転生先は不細工、クズ、無能、と負の三拍子が揃った悪役貴族、ゲルドフ・インペラートルであり、このままでは破滅は避けられない。 だが、前世の記憶とゲームの知識を活かせば、俺は『エリシオンサーガ』の世界で成り上がることができる! そう考えた俺は早速行動を開始する。 まずは強くなるために魔物を倒しまくってレベルを上げまくる。そうしていたら痩せたイケメンになり、なぜか美少女からモテまくることに。

ユニークスキルで異世界マイホーム ~俺と共に育つ家~

楠富 つかさ
ファンタジー
 地震で倒壊した我が家にて絶命した俺、家入竜也は自分の死因だとしても家が好きで……。  そんな俺に転生を司る女神が提案してくれたのは、俺の成長に応じて育つ異空間を創造する力。この力で俺は生まれ育った家を再び取り戻す。  できれば引きこもりたい俺と異世界の冒険者たちが織りなすソード&ソーサリー、開幕!! 第17回ファンタジー小説大賞にエントリーしました!

死んで全ての凶運を使い果たした俺は異世界では強運しか残ってなかったみたいです。〜最強スキルと強運で異世界を無双します!〜

猫パンチ
ファンタジー
主人公、音峰 蓮(おとみね れん)はとてつもなく不幸な男だった。 ある日、とんでもない死に方をしたレンは気づくと神の世界にいた。 そこには創造神がいて、レンの余りの不運な死に方に同情し、異世界転生を提案する。 それを大いに喜び、快諾したレンは創造神にスキルをもらうことになる。 ただし、スキルは選べず運のみが頼り。 しかし、死んだ時に凶運を使い果たしたレンは強運の力で次々と最強スキルを引いてしまう。 それは創造神ですら引くほどのスキルだらけで・・・ そして、レンは最強スキルと強運で異世界を無双してゆく・・・。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

処理中です...