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第43話実行委員会

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 俺は先ず【昇格試験実行委員会】のドアを叩いた。

「失礼します。報告したい事がありまして……こちらに参りました」

 昇格試験を管理監督するのは、生徒の一部であり、基本的に教師から任された。人格・剣技に置いて優れた生徒で構成されている。
 委員長ともなればその権力は大きく、逆らえる生徒は少ない。

 ドアを開け部屋に入ると、奥の木の机で書類と睨めっこをしている女性がいた。女性は一度こちらに視線を向けるが、すぐに視線を外して万年筆を走らせ文字を綴る。

「アーノルド・フォン・クローリー君、見ての通り私は昇格試験の事務作業で忙しいんだ……急用でなければ、後日にしてほしいのだが……」

 美しくも芯を感じさせる声音で女性は淡々と答えた。

 相変わらず。仕事熱心な女性ヒトだ。

 彼女は、この学園でも指折りの魔剣士である。委員長のアンジェリカ・フォン・アップルヤードだった。
 肩まで伸ばした茶髪は美しく、照明の光を受けて「天使の輪」のような綺麗な反射をしている。顔立ちも美しく、「男装の麗人」とか「宝塚」と言う雰囲気だ。

「アンジェリカ先輩。お久しぶりです・・・・・・・……折り入ってお願いと言うか、お話があるのですが少しお時間よろしいでしょうか?」

 丁寧な言葉使いで確認を取る。が、しかし……

「今は忙しいと言っている。別に私でなくても良いだろう? 悩み事なら【生徒会】や【風紀員会】で言ってくれ……昇格試験の事なら現場指揮を執っている。副委員長かのじょにでも言ってくれないか?」

 ――――と、取り付く島もない様子。
 アンジェリカ先輩は慣れない仕事で、てんやわんやと言った様子だ。
 俺としては、アンジェリカ先輩の顔を立ててあげようとしているのに、彼女はそれを無碍《むげ》にしているのだ。
 いつもなら、最低限の義理は通したと判断して、勝手に行動を起こすが今回はそうもいかない。
 彼女の顔を潰し過ぎてしまうからだ。

「はぁ……素直に聞いて頂けないようなので、用件を簡潔にハッキリと言いましょう。俺の控え室が荒らされました」

 俺の言葉を聞くと、椅子を倒す勢いで立ち上がる。

「な、なんだと!」

 そう言って語気を強める。

「だから話を聞いて欲しい。って言ったじゃないですか? 侵入者は魔剣士三連星を名乗り昇格戦の後半戦で戦った三人です」

「……だが控室は、セキュリティーと集中するために、専用の鍵を用いてしてか入れないようになってる……例外はないハズだが……」

 先輩は可能性考えているようだが、根本的な部分を見逃している。

「そう言われても【遠見とおみ】の魔術で見た事は事実です。もし、お疑いのようでしたら映像を見せる事ができますが……」

「少なくとも私個人は、君の事を信頼している。君なら私刑リンチを科す事も出来るだろうに、報告処罰を任せてくれる事に感謝する」

 恥をかかせないように、目で見て教えてあげようとしているのだが、その意図は通じていないようだ。

「何か勘違いしてませんか? 俺は私刑リンチの許可を貰いに来たんです」

「なっ――――!」

 二の句を紡ぐ事も出来ないほど、驚いているようだ。

「通常では出来ない事を相手はしたのです。ならば昇格試験の実行委員会に間者ネズミが紛れていたとしても、不思議はないでしょう?」

「……」

 アンジェリカ先輩もようやく、その可能性に思い至ったようだ。

「事実、今回荒らされた控室は、通常は昇級戦を行う生徒しか入る事は出来ません。そして、その控室付近の警備をしているのは、実行委員会の方です。怪しまれずに近づき犯行に及べるはあとは、教師ぐらいのものでしょうか?」

「身内に間者ネズミがいるような組織は信用ならない。と?」

 苦虫を噛み締めたような表情を浮かべ、俺を見る。

「その通りです。ならば、古来に習って自力救済を考えるのは、なんら不思議な事はないでしょう?」

「君の打った刀は確か金貨数百枚の値が付いたな?」

「えぇ、ですが先輩が知っているよりも剣の腕も、鍛冶師としても腕も上がっています」

 明言はしないものの、安く見積もり過ぎだ。と、言ってやる。

「君は勝利を収めた。幸い大きな問題には成っていない。少し時間はかかるが私が弁償しよう! ここは穏便に済ませてくれないか?」

 相変わらず気の弱い女性ヒトだ。

「この落とし前を付けさせたいだけです。金銭的な保証はその手段の一つに過ぎません。この難事件を解決すれば、気が付けなかった叱責よりも解決する能力を褒められる。と、思いますが……妥協しましょう……先輩が解決してくれるなら俺は手を出しません・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。これでどうでしょう?」

 こうして俺は時間も労力を割くことなく、俺を陥れようとした奴に復讐する事が出来そうだ。

 彼女が解決してくれるのならね……

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