41 / 71
第40話クズな三連星6 赤の一等星上
しおりを挟むゆっくりとした足取りで試合会場まで歩いて来るのは、馬鹿三連星……もとい。【魔剣士三連星】と名乗る。某、宇宙世紀公国の三連星を彷彿とさせる名称の最後の一人である。
雄獅子のたてがみのような真っ赤な炎髪に、巌のような巨躯を持った男で、籠手を始めとした鎧を着込んでいる。
先ほどまで戦って来た四人とは、存在感の密度がまるで違い。
学園最強の魔剣士ではない。と、知っていても畏怖と敬意に近い感情を覚える。
――――とは言っても、控室に忍び込んで、部屋の備品と刀剣を荒らして行った不良集団の最後の一人。面白半分か、反クローリー家の策略かは知らないが俺相手にぶつけてくる魔剣士だ。油断できる相手ではない。
得物は、腰に下げた剣と、彼の巨漢を持ってしても、腰に帯刀する事は出来ず。麻紐と革製のベルトを使い。鞘を背中に括りつけている。
その剣は、鍔や柄の長さを見る限り、長剣ををそのまま巨大化したようなもので、恐らくは両手剣やそれに類する物だと思われる。
大きく開くように展開された。「鍔」には、銅細工のような美しい装飾が施されており、それでいて実用性を損なわない作り手の工夫を感じる。そしてその「鍔」は持ち手として使えるような「環状の金具」が付いており、取り回しがしやすいように工夫されている。
「うちの者を降すとは、流石は近代魔剣士の始祖たるクローリー家の魔剣士だ」
唸るような低い声だが、不思議と聞き取りやすい。
だが絶対強者のオーラを感じさせる。
「光栄です。先輩」
「東は! ダリル・ゴドム・ハーケン! 対する西はアーノルド・フォン・クローリー! 両者互いに卑怯な手段を用いないことを国王陛下及び神に誓うモノとする……」
審判役の教師が決まり文句を口にする。
審判役の教師の手刀が振り下ろされると同時に、互いに構えをとる。
「ぬんっ!」
ダリルは腰に背負った。両手剣を鞘から引き抜くと、腰を低く落し、中段に構える。
対する俺は、剣を抜かず半身をとって腰だめに構えたのままと、両者全く違う構えだ。
刀身を見て初めて気が付いた。あれはクレイモアと呼ばれるスコットランド人が用いた剣ではなく、大陸特に傭兵国家スイスやスイス人傭兵を雇ったイタリア諸国で用いられた。ツヴァイハンダーと呼ばれる両手剣だ。
ツヴァイハンダーの特徴は、鍔の先にあるリカッソと呼ばれる。刃の無い刀身――――第二の柄が存在する事だ。もちろんリカッソの先には、受け流し鉤と呼ばれる第二の鍔が存在し、通常時はそこで相手の剣を絡めとり受け流し反撃するための道具になり、また槍のように刺突に用いる際には、鍔になりつつ手が滑って斬らないようにする安全装置になる。
まるで長く歩兵戦では使いずらかった。野太刀、大太刀が改良され、持ち手が長くなった 中巻や長巻そして刀に至る。刀剣の進化の歴史である大→小の流れを逆にしているみたいだ。
……そんな事を考えている間に審判が俺達を見て、試合開始の合図を出す時を伺っている。
「試合開始!」
両手剣を用いた剣術はこの世界ではあまり一般的ではなく、魔剣士の多くが濶剣を用いる。
カットラスやシミター、細剣、ツヴァイハンダー、長剣、両手剣などの剣は使用者が極端に少なくなる。
どういった剣術を用いるのか? と言う概要を知っていても戦った経験が一度もない事が多いのは、そう言った理由があるからだ。
長剣と同様にツヴァイハンダーは威力、射程ともに他の剣を超えるが欠点も存在する。それは重量と小回りの利かなさである。長いという事は、十分な速度に加速するまでに時間がかかるという事だ。懐に潜りこんでしまえば、長剣戦の時のように、出来る事は無くなるのだ。
俺は【瞬歩】を使い。魔力を足の裏に集めて、爆発させるように地面を蹴り出した。
ドン! と言う。音を立てて化粧板の石材を割りながら、ダリルへ向けて距離を詰める。
対するダリルは【瞬歩】を使わずに、俺の攻撃を返すつもりのようだ。
(面白い! 最速でお前の防御魔術を削り切ってやる!)
鯉口を切り、鞘から刀を走らせた刃がダリルに当たる瞬間。ダリルの腕が微かに動くと、まるで顔面を殴られたような、鈍い衝撃が俺の頬に響き顔が右を向いた。
(なんだ? この衝撃は? ま、不味い! 何か来る……)
そう直観的に感じた俺は、風精霊の加護を発動させつつ受け身の姿勢を取る。
刹那。
腹に鈍い衝撃が走り、俺は後方。数メートル先へ、吹き飛ばされる。
幸い。受け身を取っていたお陰で直ぐに起き上がる事が出来た。
32
お気に入りに追加
1,788
あなたにおすすめの小説
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
1枚の金貨から変わる俺の異世界生活。26個の神の奇跡は俺をチート野郎にしてくれるはず‼
ベルピー
ファンタジー
この世界は5歳で全ての住民が神より神の祝福を得られる。そんな中、カインが授かった祝福は『アルファベット』という見た事も聞いた事もない祝福だった。
祝福を授かった時に現れる光は前代未聞の虹色⁉周りから多いに期待されるが、期待とは裏腹に、どんな祝福かもわからないまま、5年間を何事もなく過ごした。
10歳で冒険者になった時には、『無能の祝福』と呼ばれるようになった。
『無能の祝福』、『最低な能力値』、『最低な成長率』・・・
そんな中、カインは腐る事なく日々冒険者としてできる事を毎日こなしていた。
『おつかいクエスト』、『街の清掃』、『薬草採取』、『荷物持ち』、カインのできる内容は日銭を稼ぐだけで精一杯だったが、そんな時に1枚の金貨を手に入れたカインはそこから人生が変わった。
教会で1枚の金貨を寄付した事が始まりだった。前世の記憶を取り戻したカインは、神の奇跡を手に入れる為にお金を稼ぐ。お金を稼ぐ。お金を稼ぐ。
『戦闘民族君』、『未来の猫ロボット君』、『美少女戦士君』、『天空の城ラ君』、『風の谷君』などなど、様々な神の奇跡を手に入れる為、カインの冒険が始まった。
辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい
ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆
気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。
チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。
第一章 テンプレの異世界転生
第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!?
第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ!
第四章 魔族襲来!?王国を守れ
第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!?
第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~
第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~
第八章 クリフ一家と領地改革!?
第九章 魔国へ〜魔族大決戦!?
第十章 自分探しと家族サービス
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
転生したらやられ役の悪役貴族だったので、死なないように頑張っていたらなぜかモテました
平山和人
ファンタジー
事故で死んだはずの俺は、生前やりこんでいたゲーム『エリシオンサーガ』の世界に転生していた。
しかし、転生先は不細工、クズ、無能、と負の三拍子が揃った悪役貴族、ゲルドフ・インペラートルであり、このままでは破滅は避けられない。
だが、前世の記憶とゲームの知識を活かせば、俺は『エリシオンサーガ』の世界で成り上がることができる! そう考えた俺は早速行動を開始する。
まずは強くなるために魔物を倒しまくってレベルを上げまくる。そうしていたら痩せたイケメンになり、なぜか美少女からモテまくることに。
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる