30 / 71
第29話実演
しおりを挟む「これは風刃を基本に、【空斬り】と呼ばれる剣技の最高峰の技を再現・強化・拡張した俺の新魔術【空裂】を発動したものだ。
込める魔力量と剣の振り方で斬撃の威力・量・軌道が変るから練習しておくことを推奨する」
風斬りを基本にした術式が汎用性の塊であったため、特定の条件で変数を変更出来るように組んであるのだ。
「では実演をしよう……」
俺は剣を構え振り抜く――――
先ほどとは違い、一本ではなく三本の風の刃が出現し拡散しながら飛んでいく。
先ほどよりは威力は下がっているものの、不意の一撃であれば十分相手の意識を刈り取れるだけの威力がある。
「このように俺が良く使う【風爪】などの風系統の魔術の様に【空裂】の本数を増やす事も出来るが、一瞬で術式を構築・変更する必要があるので馴れるまでは、実戦で使わない事をお勧めする。練習した上で詠唱を決めておくと良いだろう……例えば【空裂三連】と言ったように決めておくと良いだろう。」
「使い勝手のよさそうな汎用性の極めて高い魔術ね。いいの? 自分だけのモノにしておいた方が、勝手はよさそうなものだけど……」
「今回俺は魔剣士としてではなく、一人の鍛冶師・付与術士としてこの剣を打ったんだ。それで今の俺が脅かされようと最高の仕事をしただけに過ぎない。俗人的な技術よりも汎用的な技術を求めるのが昨今の流行だ。それに一度これだけ素晴らしいモノを作れたのだ。二度目が出来ないなんてことはない……と信じているからな……」
職人の端くれとして「これ以上のモノは二度と出来ない」とは、口が裂けても言えない。少し口篭もってしまったが一度男が宣言したのだ。
そう遠くない将来。この濶剣型の魔杖剣・紅椿を超える作品を作って見せると心に決めた。
「私も信じてあげるわ……」
これがデレと言う奴だろうか?
想定外の一言に俺の顔が朱に染まるのを感じる。
「ありがとう。では最後【天月】の説明をしておこう、天月自体はそう変わった性能にはしていない」
剣を握り込むと、体を斜に構えた。剣を水平にするように気を付けながら、腕を後ろに退く――――
その様はまるで邦画版「人斬り抜刀斎」で見た。斎藤一が得意とする片手での突き技【牙突】に似ている。
史実では「無外流」またはその元となった「山口一刀流」と言う抜刀術の使い手で、片手での突きが得意だったと言う逸話から生まれた創作であり、片刃の曲刀であっても刺突と言うのは、十分に有効打足りえると言う証明である。
――――そのまま滑らせるように剣を突き出す。すると切っ先から熱光線が放たれる。
壁は焦げるのに十分な熱量を持っている事を示している。
「これが最後の固有術式【天月】だ。効果は突きを放つ時に熱線を切っ先から放つことで、相手に揺さぶりを掛けられる事と接近される前に叩ける事だ。上手く使えば火球を連射するよりも手軽に火力を出す事もできるぞ?」
「私の苦労は何だったの?」
「道具に頼れば出来る事を人力でやった?」
すごいとは思うけど、あの時もミナ向けに調整したものを使っていれば楽に使えた事だろう。
「さて全てを合わせた奥義をみせてやる。その名を【穿千】と言う」
体を斜に構えた剣を水平にするように気を付けながら、腕を後ろに退く――――すると先ほどとは違う。赤熱化した金属や岩漿のように煌めいて、赤葡萄酒色に刀身が染まり、刀身からはまるで粉雪や蝶の鱗粉のような目に見える程濃度の高い魔力が舞い散る。
それは月夜の寒空に舞う粉雪。あるいは月明りに照らされキラキラと、輝く桜吹雪とでも言いたくなるような情景だった。
「綺麗……花弁みたい……」
「薄氷のようだ」と細工師アルタに言わしめた。細く頼りない印象を受ける両刃の刀身に、ピューピューと言う音を立てて風が集い収束していく――――
キュィィーン。
――――やがてゴウゴウと唸るようなジェット戦闘機を彷彿とさせる轟音を轟かせ、白銀の刀身が赤黒く染まる。
風同士の摩擦によりバチバチと雷光が迸り、刀身を囲むように渦巻く風の塊を言葉で表現するとすれば、小さな暴風雨だ。
「【穿千】」
俺は上空に向けて限界まで溜めた魔力を解き放つ。
ゴウゴウと言う轟音を轟かせ、指向性を持って解き放たれた風は、全てを巻き上げながら空へ空へと突き進んでいく。
やがて切っ先から熱線が発射され、先に発射された空気の塊を飲み込み断続意的に爆発していく――――
ボン! ボン! ボン!
やがて小さな暴風雨の先端まで到達すると、一際大きな爆発をしその衝撃波を持って上空の雲を押しのける。
「これが最終奥義で、最大最強の攻撃だ。これが使いこなせるようになるのけっこう大変だったんだぞ? と言う訳で風魔術を覚えれば「相乗」させることで火力を底上げできると言うデモンストレーションでした。俺は疲れたから帰るわ、あと約束通り一振り刀を置いていくからじゃぁ」
俺は疲れている事を悟られない様に、何とか練習場を後にして呼びつけておいた馬車に乗り家に帰る。
その晩は魔力の過剰消費による疲労感で泥のように寝た。
65
お気に入りに追加
1,926
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
変人奇人喜んで!!貴族転生〜面倒な貴族にはなりたくない!〜
赤井水
ファンタジー
クロス伯爵家に生まれたケビン・クロス。
神に会った記憶も無く、前世で何故死んだのかもよく分からないが転生した事はわかっていた。
洗礼式で初めて神と話よく分からないが転生させて貰ったのは理解することに。
彼は喜んだ。
この世界で魔法を扱える事に。
同い歳の腹違いの兄を持ち、必死に嫡男から逃れ貴族にならない為なら努力を惜しまない。
理由は簡単だ、魔法が研究出来ないから。
その為には彼は変人と言われようが奇人と言われようが構わない。
ケビンは優秀というレッテルや女性という地雷を踏まぬ様に必死に生活して行くのであった。
ダンス?腹芸?んなもん勉強する位なら魔法を勉強するわ!!と。
「絶対に貴族にはならない!うぉぉぉぉ」
今日も魔法を使います。
※作者嬉し泣きの情報
3/21 11:00
ファンタジー・SFでランキング5位(24hptランキング)
有名作品のすぐ下に自分の作品の名前があるのは不思議な感覚です。
3/21
HOT男性向けランキングで2位に入れました。
TOP10入り!!
4/7
お気に入り登録者様の人数が3000人行きました。
応援ありがとうございます。
皆様のおかげです。
これからも上がる様に頑張ります。
※お気に入り登録者数減り続けてる……がむばるOrz
〜第15回ファンタジー大賞〜
67位でした!!
皆様のおかげですこう言った結果になりました。
5万Ptも貰えたことに感謝します!
改稿中……( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ )☁︎︎⋆。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン
ファンタジー
七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています
辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい
ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆
気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。
チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。
第一章 テンプレの異世界転生
第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!?
第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ!
第四章 魔族襲来!?王国を守れ
第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!?
第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~
第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~
第八章 クリフ一家と領地改革!?
第九章 魔国へ〜魔族大決戦!?
第十章 自分探しと家族サービス
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる