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第24話双角の野兎
しおりを挟む刀を作刀し十分英気を養った翌日の事であった。
三度目という事もあり正直この黒い森にも慣れかけていた事もあり、足元からの刺客に気が付かなかったのだ。
「さて、薬草はどこかなぁ……」
ブゥゥーーン!
送風機のような音を立てて、風魔術が落ち葉を吹き飛ばす。冬場は数も絶対数も減る生の薬草は高価で取引される。
回復薬も冬場の方が幾分か高い。
冬眠できなかった熊や、猪、狼の群れを倒した俺にとって敵となるような魔物が居るとは思えない。まさに好き放題出来る環境だと思っていたのだが……
鶏ほどの大きさの「ナニカ」が俺に向かって飛んできた。
「――――ッ! あぶねぇぇぇええええええっ!」
俺がその「ナニカ」の突進を回避できたのはただ運が良かったからだ。目端に不自然に動く落ち葉を捕らえ、「ナニカ」が突進してきた事を察知できたからだ。
気が付くのかあと数秒遅ければ、胴体に直撃していた事だろう……
既に左手の親指が鞘と鍔に斜めに置き鯉口を切っている。後は右手で柄を握り抜刀するだけの状態だ。
俺は鞘引きを行い。魔杖刀・流櫻を中段に構える。
「ナニカ」の正体は、超大型の兎に似た生き物だった。冬毛に変わりつつあるのか、茶色と白が入り混じったようなまだらの毛。長い二本の前歯がセリ出ているものの可愛らしく庇護欲を掻き立てられる。だが通常の兎にはあり得ない立派な角が生えているのだ。まるでアメリカの未確認生物、ジャッカロープやヨーロッパで伝承されている。
レプス・コルヌトゥス、ホーンド・ヘア、ヴォルパーティンガーのような見た目をしている。
あんなご立派な角で刺されちゃ、人体に穴が開いてしまいそうだ。
――――と言っても、兎型モンスターの定番の一角兎じゃないのは、DQプレイヤーとしては少しばかり残念だ。
因みにFFは、4のリメイクを暗黒騎士になるまでと零式と15を少し、レヴァナントウィングをクリアまで触った事がある程度だ。
角兎は身体を地に伏せる様に低くして、こちらの様子を伺っている。
(なんで兎のくせに逃げねぇんだよ! まさか肉食って訳でもないよな?)
俺の知識の中には肉食のナマケモノや、肉食の蹄を持った生物など中途半端に古代生物が好きだったせいで情報が入っている。もしかしたら肉食のげっ歯類が居たとしても、なにもおかしくはないのかもしれない……
それにしてもコイツの武器は突進だけだ。躱して斬るか受けて殺せばいい。不意の一撃を外した時点でこいつは詰みだ。
(何か理由があるのかもしれないな……)
そんな事を考えていると………
刹那。
良く発達した筋肉質な後ろ脚が地面を蹴り、有効射程内にいる俺目掛けて飛来する。さながら引き絞った弦から放たれる弓矢の如き一撃だった。
俺はその一撃を風精霊の加護で防ぐと、空かさず刀を振り双角の野兎の首を跳ね飛ばす。
ぼとり。と言う音を立てて双角の野兎の首が落ち、ぼたぼたと血が滴り落ちる。
「耐久力はないけど攻撃力は最低限度。革鎧とか金属系の鎧を着れば、問題なく防げそうな威力と言った所かな。まぁ奇襲特化型のモンスターだし丁度いい塩梅か……さて、コイツを捌く前にコイツが食う訳でもないのに俺に戦いを挑んできた理由を探さないとな……多分この辺に巣があるからだと思うんだけど……」
風魔術で周囲の落ち葉を吹き飛ばしながら巣穴を探す。
兎と言うのは人間以外では珍しい年中発情期の生き物で、年に六回ほど出産をする。オマケに四か月経過すれば子供も繁殖出来るようになると言う弱者中の弱者だ。
ジャンガリアンハムスター×ヌートリア×カピバラのような見た目のモンスターですら膝よりは大きかった。この双角の野兎も中型犬ぐらいの大きさがあるので、この森と言うかこの世界の生態系はおかしいのかもしれないが、自然科学や生物系の知識が薄いので断言はできない。
そんな事を考えながら風魔術で周囲の落ち葉を吹き飛ばしていると……鶏がギリギリ入れるほどの大きさの穴を見つけた。
「ビンゴ……」
兎の肉は鳥のような味で美味いと聞いている。そして兎の平均出産数は4~8匹。これだけでもそこそこ稼げそうだ。
ナイフ代わりでお馴染みの魔杖直刀・風餐露宿で先ずは手足の関節部分に刃を入れて、筋を断ち圧し折り切り落とす。
そしたら肛門部分から刃を入れて断つ。ポロポロとした。チョコ〇ールのような丸いウンコがある可能性があるので、ウンコがあったら取り除いておく必要がある。
そこまで終わったら適宜直刀で筋を断ち、手を使って皮を剥がす様に向いていく――――
皮と肉に分離させるだけでも約10分かかる。そこまで終わったら木にかけて血を抜いておく。
「これ以上探索したところで持ち帰れないな……」
こうして9羽全てを解体し袋に入れて町に帰った。
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