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第17話作刀の依頼

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 数度刀を振り回し、刀の重さを確かめる。

「ちょっと! カタナって片手で扱うには重すぎない? 
両手剣よりは軽いけど、間違いなく私の濶剣ブロードソードよりは重いわよ!」

 重量で言えば日本刀は平均1~1.5㎏で、小太刀や野太刀でも幅があり800g~4㎏と幅もある。それに比べ濶剣ブロードソードは平均1.1~1.4㎏、長剣ロングソードが平均1.1~1.8㎏、両手剣グレートソードで平均1.5~3㎏だと、どこかで見た事がある。

 俺の刀は『先反り』と呼ばれ、鋒・切っ先寄りに重心がある日本刀だ。実際の重さ以上に重さを感じやすいというデメリットがあるものの、刀の戦場が馬上から地上へ移った事を受け、抜刀がスムーズに行なえるように設計されている。
 重心が持ち手側にある刀に比べ、遠心力によって、より鋭く切れ込みが入り、斬り付ける相手にも重さが伝わりやすい。
そのため武芸に優れた者でなくとも、その重みで相手に致命傷を与える事ができる必殺の武器になる。
 つまり白兵戦特化と言う訳だ。

「そんなことは無いさ、重さは大体一緒、あっても誤差は数百グラムだ。
この場合、剣の重心がどこにあるのかという事と、君の筋力、技術、それに身体能力強化の魔術が不得手だという事が問題なんだ」

 問題点を分かりやすく纏めて整理する。

「先ず一点目の『剣の重心がどこにあるのか?』と言う問題だけど、基本的には『切っ先』か『持ち手側』になる。切っ先側に重心があれば遠心力により鋭い切れ味を持ち、例えば相手と切り結べばその重量で『鍔迫り合い』で有利になる……だけど実際の重量よりも『切っ先』部分に重量が乗れば重く感じ疲れやすくなる」

「じゃぁ私の濶剣ブロードソードは?」

「『切っ先』に重心があるタイプは……魔術型の魔剣士には向かないタイプだね。家の叔母上のような幻術を使うタイプもそうだけど、魔力を外に放出しなくちゃいけないから、身体能力強化の魔術が少し弱くなる。
 かと言って魔杖剣に身体能力強化の魔術を刻むと、折角の魔術と言う長所を捨てるハメになる……だから魔剣士としては近接戦に魔力を振ると決めた訳じゃないなら、先ずは自力を付ける事をオススメする。
 具体的には腕力を付ける事と、正しい姿勢で剣を振れるようにする素振り……そして身体能力強化の練度上昇。あとはお金があるなら魔杖剣を持ちて側に重心を置いたモノにして、火属性の魔術と親和性が高いモノにするとかかな?」

 近接戦型の魔剣士が身体強化7、魔術3だとすると、彼女のような遠距離・搦手型の魔剣士は身体強化3、魔術7の比率になる。最大値(自力)を上げてやれば、3割の身体強化でも腕力で拮抗する可能性が高くなるって訳だ。因みに俺は5対5どっちつかずのバランス型だ。

「魔杖剣を買うお金はあるけど……メイザース家ウチだと伝手が少ないし、何より良し悪しがわかる程、目利きが出来る訳でもないのよね……」

現代の魔術師として、何とも言えない弱点をお持ちだ事……

「そうだ! クローリー家に打って貰えないかしら?」

 名案を思い付いた! とばかりに手を叩く。
その姿はまるで、アルキメデスが風呂に入ったとき、浴槽に入ると水位が上昇することに気が付き、上昇した分の体積は彼の体の水中に入った部分の体積に等しいとわかり、見つけたエウレカ! 見つけたエウレカ! と叫んだ。と言う話を中学理科の教科書で見た事が脳裏に過った程だ。

 当時からオタクだった俺は、教科書内でエウレカと言う文字を見て、あぁあの途中からスーパーヒーロータイムの前の、恐竜〇ング当たりでやっていたと記憶している。交響〇篇エウレカセブンか、エウレ〇セブンAOがチラついていた。

「無茶言うなよ……君の祖先とのいざこざで、タダでさえ両家は犬猿の仲だ。これ以上かき回せばこの国の魔術界を割りかねない問題になる……」

「それもそうね……言ってみただけよ……」

「……」

 気づかれませんように! 気づかれませんように!
俺は心の中で必死に祈った。剣を打つのは結構面倒くさい。
最低でも一日潰れるし、汗まみれになるのだ。
 自分の目指す至高の道具を作る為の努力は惜しまないが、他人にまでそれをしてやる義理はない。俺は叔母達とは違い根っからの鍛冶師ではないのだから……

「そうだ! 君……アーノルド君が打てばいいのよ!」

 おおっと、気が付かれてしまった。

「はぁ……俺が打つのは良いが刀はやめて置け、両刃の直剣と違って刃筋を立てないと全く切れない」

「私も刀が欲しいんだけど……」

「余っているのがあるから、それを売ってやる。ただ、俺の刀は高いぞ? 
なんせ作刀から付与まで全て俺が行う、完全オーダーメイドだからな」

「じゃぁ濶剣ブロードソード一振りと刀を一本言い値で……と言いたいところだけどコレぐらいが限界だわ……」

 彼女が提示した金額は想像以上のモノだった。

「満足したらでいい、その時金をくれ。
 ……幸い俺は金には困っていないからな」

 こうして俺は打ちたくもない剣を一振り、打つ羽目になってしまった。



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