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第8話巨大猪豚と火球の連鎖
しおりを挟む【火球連鎖】の言葉の通り、属性は火、サイズは小、形状は球形、速度は中と発動に必要な工程は基本的なモノなのだが、構築した瞬間次の魔法陣が驚くほどの速度で構築されている。
巨大で複雑な立体魔法陣しか出現していない事から、恐らく魔法陣を複写するメイザース家ないし、彼女の秘術とでも言うべきものなのだろう。
遠距離魔術が冷遇されれば近距離で連射する術を見つけるとは、メイザース家の妄念は末恐ろしい限りだ。
しかし魔術を発動するためのプロセスを半自動化する事が出来る。呪文をロクに唱える事をしていないのを見ると、俗人的な技能なのだろう……身体能力強化などと比べると、外に干渉するものは抵抗が大くバケツに入った水中に、絵具を解いた水で絵を書くような行為をしているのだ。
普通に考えて魔力量が人間離れしていなければおかしい程に連射している。巨大で複雑な立体魔法陣が魔力の消費を削減しているのか? はたまた俺が打ち鍛えた魔杖古剣・火樹銀花の性能が高いのか……学内トーナメントの事を考えると、俺としては後者であることを願いたい。
ミナの放った火球の連射攻撃によりホグジラは焼死したようで、辺りには肉と油の焼ける美味しそうな匂いが漂っている。
(いかん。いかん。肉に意識を取られすぎていた……)
落ち葉に引火した炎を俺の水属性の魔術で消火する。
「水流」
燃え広がる前にホグジラごと放水車の如き放水で、周囲を濡らし鎮火する。
(毛皮の損害はまぁ仕方ないが……猪豚ならば豚の肉質の影響を受けやすく、日本で食肉用に飼育されている肉は脂肪分が少なく、味はあっさりしているがコクがあると聞いている。海外では、霜降りにもきめ細かい肉質にも、ブタの品種によって変わると聞いているので、この肉の塊を納品すればそこそこの金になるだろう……まぁどうやって持って帰るかがネックになるんだが……)
そんな事を考えていると、ミナは極度の疲労のせいか膝から地面に崩れ落ちる。
「大丈夫か?」
「少し魔力を使い過ぎた見たい……」
強がらないだけ可愛げがある。こう言う少し気の強い女がしおらしい態度をしていると、魅力度が数割増しで可愛らしく見える。
「だろうな……アレだけ連続して魔術を行使したんだ。疲れない方がおかしい。休んでから帰るか?」
「えぇ。少しだけ時間を頂戴。魔力回復薬を飲めば多分回復するから……」
そう言って彼女は、制服の内ポケットから小さな硝子瓶を取り出し、コルクを抜いて一気に嚥下する。
サイズは一口、二口程度で飲み切れるほどの量しかないが、前世のエナジードリンクとは違い直ぐに効果が表れる。
回復薬は、薬師あるいは錬金術師などの魔力を付与する事に長けた魔術師が作成する秘薬で、独特の自然な甘みがあり俺は常飲したいぐらいには好きなんだが、結構いいお値段がする上、品質の劣化がしやすいと言う。保存性・コストパフォーマンスが最悪な商品なのだが……汎用的な魔力回復手段がコレしかないので皆渋々使っている。
因みに味は、コーラやドクペなどのような薬の味と言われるモノに近い。
「さてどうしようか……」
このまま肉を放置するのは忍びない。今日は無理でも改めて準備して回収すればいい。俺はそう考えてホグジラの肉を氷魔術で凍結させる。こうすれば雑菌の繁殖は抑えららえるし、手を出そうとする生き物も減るだろうと考えての事だ。
「風に、土に、氷と随分芸が細かいのね……」
俺の氷魔術をみて呆れたような口調でミナは呟いた。
「あぁ兄達と比べても俺は才が広くてね。だからその分特化型にした魔杖刀を携帯してるんだ」
俺はそう言って腰に佩した刀剣を見せつけ。その後に制服のジャケットを捲り、中に複数仕込んだナイフや短刀、ドスの類を見せつける。
「通常魔剣士は、身体強化を活かした近接型、魔術に振った遠距離型、そして一番中途半端と言われる混合型があるけど……アーノルド君はもしかして……」
「そ、混合型。まぁ使う魔杖刀で戦闘スタイルが様変わりするから相手は戦いにくいだろうね……」
「全くその通りよ……」
火属性を使うミナであれば、対戦相手が水属性などの反属性を使ってくれば威力は当然減衰してしまう。逆に風属性なら威力は相乗しミナの得意とする火属性の威力を上げて有利になる。しかし俺ならば全ての相手に弱点を付く事が出来るので、単属性にしか敵性を持たない遠距離型はカモでしかない。
「そんなカモでも、お前みたいな危険物を指導しなくちゃいけない俺のキモチを考えてくれ……」
「まぁ運がなかったと思って……」
こうして俺達は、ホグジラの肉を氷漬けにしたまま冒険者ギルドに帰還した。
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