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第10話

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 次に向かったのは、呪力総量を計るコーナー。
 ホテルの屋上……コンクリート打ちっ放しのこの場所には似つかわしくないものがそこにあった。
 神社で秘祭を受けた時の護摩壇によく似たものだ。

 そこに立っていたのは陰陽師らしくない恰好をした男だった。
 趣味の悪いアロハシャツに、ダメージジーンズとサンダルを履いており、首と耳には十字架まで付いている。
 プリン状態になった汚い金髪に人を睨め付けたような三白眼、お洒落だと思っているのか整え残した顎髭とヤンキー感満載である。
 手には火のついた煙草を持っている。


「あの……」


「あ? 悪い悪い子供の前で煙草は悪いよな……全く五輪のせいで喫煙者には生き辛い世の中になったぜ? うるせぇ奴は創作物の中にまで文句を言う輩までいやがる……」


「あの……」


「『大人の話を遮るな』」


 身体がピクリとも動かない。
 声も出せない。


術か?


「ああ? これかい? これは言霊《ことだま》って言って言葉に呪力を乗せる極めて原始的な呪術だ。その年で簡易式を使いこなしたのは君か?」


「――」


賀茂かも降魔師! いくら二大宗家の方と言えどあまりにもだ!!」


「吉田さん。俺はこのガキと話をしてるんだよなぁ坊主?」


「――」


「……っチ! 言霊をかけたままだったか……まて今解呪してやる……」


「『タバコくせえんだよ! クソヤロウ! 口を閉じろ!』」


「――ッ!?」


「言霊?」


「でも言霊は術として簡易化出来ない高等呪術。神々の話す神語の断片、その再現よ?」


「呪力によるゴリ押しで全部やってのけたんだ! 掛けられた言霊は莫大な呪力の放出で解呪し、その勢いそのままに言霊を掛けた……恐らく意図せずにな……」


「……じゃあ勇樹《ユウキ》は……」


……


「縛れ! 急急如律令《きゅうきゅうにょりつりょう》」


 呪符が飛翔すると地面が揺れ木の根のようなツタが出現し、俺の四肢を拘束する。
 影の中から年若い男が現れる。


「地味ながら派手にやられたねぇ? 三歳児に負けるのって今どんな気持ち?」


「~~っ!」


「あー言霊で喋れないのか……『解』」


 眉間に触れ『解』恐らく解除か解呪の略語を唱えると術が解ける。


「ん~ああ宗助さんすんませんでした」


「うん。良く言えたね人のシキガミから勝手に情報を聞き出して暴走するなんて想定外だよ……」


「…………」


式神? 式神って言ったか? 式神の中には会話が出来るものがいるのか?


「オレのツレが迷惑を掛けたね。吉田勇樹《よしだユウキ》くん」


「あなたは?」


「二大宗家天文担当の土御門信忠《つちみかどのぶただ》だ。まあ俺達は分家だけどな。拘束術解いてやるよ『解』」


「シキガミというのは?」


「受付付近であっただろ? 背の高い綺麗なねーちゃん」


「ああ……土岐菖蒲ときあやめさん……」


「俺達公家系の降魔師は近接戦闘が弱いからな武家系の陰陽師が前衛で居た方がいいのさ……」


「それとシキガミとどうつながるんですか?」


「……土御門家のような古い家には『分家は本家の式神になる』仕来り……ルールがあるんだよ吉田家にも多分あるぞ? 知らんけど……」


 父の方を見ると首を縦に振った。
 どうやら本当にあるらしい。


「……で保守的な爺様婆様方は昨今の役割分担には納得が行かないらしい。『陰陽師たる者、優雅であれ』だとさ……はっ反吐が出る……で体裁として武家の陰陽師そのなかでも家格の高い渡辺家の娘を式神とすることで、爺様婆様方を納得させたってことだ」


「ムズかしいですけど……つまりルールがメンドーってことですね」


「……ハハハハハ まあそういうことだ」


「呪術戦でも繰り広げたのか? すげぇ呪力の残滓残ってるけど……」


「おとーさんじゅりょくこいね」


 土御門信忠《つちみかどのぶただ》と名乗る男と会話していたと思ったら三組の家族に包囲されていた。


「アレ? 信忠《のぶただ》くん久しぶりだね、何してるの?」


「叔父さん……」


「おいおい叔父は酷いでしょ?」


「それに忠幸《ただゆき》くんもいるじゃん」


「お久しぶり小父さん……」


「チョー遠縁とは言え親戚なんだし、もう少しフランクに行こうよ」


「そうあまり無茶を言ってやるな……」


 と知らないオッサン達は自分達の世界を作り出す。
 こう自分が知らないコミュニティーに混ざっている時って得も言われぬ疎外感を感じるよね。
 ATフィールドというか、固有結界張られているっていうかそう言う言外の線を引かれている気がして心細くなる。


「おいおい。オッサン共子供達が置いてけぼりじゃねぇか」


「倉橋随分な言い草だな……まあいい検査を始めよう……」


「先ずは勘解由小路《かでのこうじ》様からお願いします」

「湊《みなと》皆に説明してあげなさい」


「入気《ニューキ》のギで気力《キリョク》をソソいだ賜剣シンケンで一房《ヒトフサ》のカミのケをキり護摩《ゴマ》にイれるとリョウがわかります」


 そう言って短刀で一房の髪を斬ると護摩壇に髪を投げ入れた。

 陽光を浴びパラパラと潮風に流されながら護摩壇に髪が到達し火が燃え移る。パチパチと閃光花火のように炎が弾け花が咲いた。

 刹那。
 ボウっ! と轟音を立てて炎が猛り燃え上がり、まるで木が生えたと錯覚するような高さまで火の手が上がる。
 呪力で出来た炎でも元が火のためか熱量は変わらない。
 確かな熱さを感じるものの地獄の業火に比べればマッチの火程度だ。


「第四位階……国際規格だと C級中位相当の呪力量だ。二年前よりも一回り大きくなったな……」


「流石は二大宗家賀茂家の血族……」


 猛る炎の高さか熱量で判断しているようで、呪力量はある程度成長するようだ。


「続いて倉橋家息女。瀬織《セオリ》」


「はい!」


 日本人とはとても思えない白金《プラチナブロンド》の長髪を靡かせ、少女は枝毛一つない美しい髪になんの躊躇いもなく刃を入れ髪を切り取った。
 そして力士が塩を撒くかの如く豪快に髪をくべる。
 自身満々の銀髪? 幼女は腕組みをして炎が猛るのを尊大に待つ。

刹那。
 
閃光と共に火を噴いた。


BOOOOOM!!


 なーんて堀越耕平マンガでしか見ないようなアメコミ的表現の擬音が可視化出来そうな程の炎が舞い上がった。
 それは炎と言うよりは爆発に近い現象いものだ。
 炎の差それがの現在持っている呪力量を雄弁に語っているのだと気が付いた。


「第三位階B級中位の呪力量だ!」


「第三位階と言えば呪力量だけなら第一戦の降魔師こうまし相当じゃないか」


「最初に試験を突破したのに悪かったな吉田」


「仕方ないですよ。降魔師の家には薄い風習ですがレディーファーストですよ。一般の学校に行けば必要な我慢です」


「……それもそうだな」


 大人達は判ったような判らない話をする。


「古来から女性の髪の毛には魔力が宿ると言われ、長ければ長いほどその力は強くなり、髪を切ると力が無くなると伝えられて来た。
遠く離れた中央アジアでは、女性の髪は劣情を誘発させるとかんとかで髪を布で隠すと言う風習があると訊く」


 刃文が美しい短刀を引いてザクザクと髪を引き切る。
 不揃いになった部分は不格好に見えるだろう。
 だがそんなことはどうでもいい。



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