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第20話ぼっちは善意で晒される2

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 中学一年時点で比較的高得点を元々取って居た奴らは、塾や兄姉、先輩から過去問を入手して高い順位を取って居た。
 福沢諭吉は自著の「学問のすめ」の中で「人は平等だけど勉強で差が出る」(要約)と言っている。それは確かに真実であるのだが、勉強も塾に行っている奴と我流でやっている奴では明確な“差”がでる。

 それは、過去問の有無や理解している人に質問できて納得することが出来たり、助言を貰えることが出来 “出来た” とういう達成感よりも “やったところだ” という信じられる刹那的な快楽の方が楽しいと感じやすいからだ。

 これはこの一年、受験のために塾に通って知った事実だ。
 中学までは教科書が統一されているのだが、高校では千差万別と言ってよく、単元毎での大まかな予想を立てることはできても、その高校のレベルに合ったクリティカルなものではないのだ。
 だから学習塾で過去問が入手できるかどうかは正直言って分からない。
 
「確かに過去問があれば楽だもんね……」

 勉強が出来る部類の菜月なつきさんも俺の意見には賛成できるようだ。
 訊けば彼女も、駅前の大手の学修塾に中学一年の頃から通っているらしい。

「元々ゲット出来たらラッキー程度のものなので、学習塾やYouTuberでやってる授業動画を見ながら勉強してみます」

 結局、近道を探して直ぐに見つからないのならば、コツコツと勉強をするのが近道となる。

「それが一番無難よね……分からないところがあったら遠慮なく言ってね?」

「ありがとうございます。それと近日中に俺の後輩を呼ぶつもりなんですがいいですか?」

 俺の言葉に菜月なつきさんは首を傾げる。

「後輩って男の子? それとも女の子?」

 誤魔化してもしょうがない。
 プライバシーもあるので全部は言えないが、触りまでなら問題ないだろう……

「……女の子です。一個下の奴で家族と中が悪いんですよ……」

 ああ……そう言う系ね……とでも言いたげな表情を浮かべうん、うんと頷く。

「なるほど、そういう子ね……私は別に構わないわよ、私自身に特別何かしてほしいっていう訳じゃないんでしょ?」

「ただ、出来るだけ時間を潰させてあげたいって感じですかね……煩くならないように気を付けますし、リビングか俺の部屋に基本居るようにしますんで……」

「それなら後は一つだけ出来るだけ事前に連絡が欲しいかな……私も友達を呼ぶことになるかもしれないし……」

 確かに菜月なつきさんの友達や彼氏がいる事を、しらないでエンカウントしてしまえば、多分数秒間フリーズしてしまうと思う。

「俺のワガママを叶えて叶えてくれてありがとうございます」

「別にいいよ。もし悪いって思っているなら、お野菜……特に苦い奴は量を減らしてくれると嬉しいかなぁ~って」

 どんな無茶ぶりが来るかと思えば、出てきた要望は比較的可愛らしいものだった。
 苦手なものは無さそうだったのに……苦い野菜嫌いなのか……

「分かりました善処します。ピーマンはこれから使わないようにします。ピーマンはビタミンCを筆頭にβ-カロテン、ビタミンEなんかの含有率も高いので美容にもいいやつなんですが残念です」

 青椒肉絲チンジャオロースや肉詰め、野菜炒めでおなじみのピーマン別に好きなわけではないが、料理に使えないとなると少しだけ面倒だ。

「その言い方は意地悪に聞こえるなぁ……でもまぁ私、自他共に認める美少女だから! 天上天下唯我独尊」

 と言いながら俺の部屋から持ち出した少年漫画の一コマのポーズを取る。
 右手を頭上に掲げ、顎をクイっと上げて上から目線で眼下にいる人物を見下し、左手で指さすような姿勢だ。

 『天上天下唯我独尊』と言う言葉は、世間一般としては、ヤンキー共が『俺最強』という意味で使っていたので傲慢な言葉として認識されているものの。少し教養のあるひとは、お釈迦さまことゴータマ・シッダールタが産まれた時に7歩あゆみ、右手を上に、左手を下に向けて呟いた言葉として知っていると思うが、お釈迦さま以前の仏陀(目覚めた人)の一人である毘婆尸仏びばしぶつが、産まれた際に言った言葉であるらしい。

「最強コンビの白髪の方は、一度死にかけて真の最強に覚醒していたんで菜月なつきさんも、日焼けとかで一度美を失いかけるといいと思います。それと菜月なつきさん。その意味だと誤用ですよ? 正しい意味は『世界で尊いのは、この世にいるすべてである』です」

 下らない蘊蓄うんちくや能書きを垂れたところで、好き者以外に需要はないので、言葉の由来や歴史的な流れを端折って誤用を指摘する。

「知ってるよそれぐらい。『適当』や『Coolクール』みたいに言葉の意味は時代の流れで揺れ動くものなのよ?」

「知って使っているならいんです。俺も “新語” や “スラング” 、 “ローカルなカタカナ用語” を使いますし……」

 現代を生きる若者にとって “新語” や “スラング” 、 “ローカルなカタカナ用語” は直ぐに生えてくるもで時代を象徴したようなものだから、新しい文化と言うモノ事態を否定しているわけではない。
 例えば明治では留年することを意味する「ドッペる」や一人で行動をすることをいみする「短期遠征」などは現代でも流行りそうな当時の新語だ。
 アメリカなどででも、性的少数者……LGBTQIA+の人物達の一部は「he」や「she彼女」ではなくFairyフェアリーから取った「faeフェイfaerフェアーfaersフェアーズ」とちゃんと三段活用する変化を作った上でこう呼ばれたいと言っているらしい。

 因みにそれを動画で見た後に調べたところ、Fairyフェアリーにはスラングとして『女の様にナヨナヨした仕草や話し方をする同性愛者の男性』と言う意味があるらしく……それを使うというのは無知なのか彼ら……もとい『They彼・彼女ら』がいかに感覚だけで生きているのかをひしひしと感じる。
 一昔前の『zeジー』や『Zemジム』『zierジアー』やE/Em/Eir、Xe/Xem/Xyrがあるというのに、無駄に『fae妖精』や『bee』を使う人までいて混乱する。

 昨今の日本でも「くん・ちゃん」ではなく、「さん」で統一するなどして性差のある言葉を学校教育内で使わないようにしており、教育実習に来た大学生も驚いていた。

 だがマスク文化と同じように人は環境の変化に適応する。

「別に新しいモノを否定している訳ではなくて、温故知新おんこちしんの気持ちをもってと言いますか……俺自身が独り文芸復興運動ルネサンスとでもいう逆張り行動を個人の範囲でやっているだけと言う話ですよ」

 言語化すればなんてことはない。
 中二病と高二病の中間期見たいなものだ。
 ただの逆張り、言ってしまえば思春期の気の迷い。
 成長の過程で自己を確立するための唯の停滞期でしかない。

「確かにそうかも、辞書的な意味を白井でも生活には困らないけど知っていているのと知らないのでは確かに違うわね……」

 こういう変なところにこだわるから俺は勉強が進まないのだろう……
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