上 下
8 / 46

第8話映画

しおりを挟む
 映画を観終えた俺達は、映画館ビルの階下のファミレスで談笑していた。

「面白かったですね!」

 推しのイケメンが出演しているせいか、サラの評価は高いようだ。
 プラスチック製の不透明なコップに入ったオレンジジュース片手に、『ムフゥ』と満足げな笑みを浮かべる。

「ああ、ドラマ版でも十分面白い内容だったが、まさかこう続きを作ってくるのか……という意味では面白かったな」

「確かに、少し強引な展開でしたよね……」

 サラは困ったような笑みを浮かべると、先に届いたサラダを頬張る。

「そういえば、地上波じゃないから良いんだけど、途中で何度か挿入されるサービスシーンって必要だったのか?」
 
「必要です! イケメンの裸体が嫌いな女なんていませんよ!」

「ああ、だから食い気味にスクリーン観てたのね……」

 俺の指摘にサラは茹蛸のように顔を赤らめる。

「~~~~んっ!」

――――と声にならない声を漏らす。

「そ、そう言うセンパイだってサービスシーン食い入る様に見てたじゃないですか! 白状すると、ああいうシーンでどういう反応をするのかな? って思って視てたんですけど……」

「ああ、なんか視線感じるなって思ったけど、そういうことか……」

 気まずくて視線を逸らしただけかと思っていたけど、別に異性愛者なら同性の裸を見てもそこまで気まずい思いはしないか……

「はい。何というかサービスシーンなんだから、男性は喜んで鼻の下伸ばしてるんだろうなーって思ってたら、鼻の下を伸ばした直後に『何の意味が?』って顔してて、正直面白かったです」

 サラが楽しんでくれたのなら、俺の恥程度なんて事はない。

「だって余りにも脈略がなかったから……ねぇ」

「まぁ言いたいことは、何となくわかります」

映画の感想で盛り上がっていると、注文した料理が届き始める
 
「と、ところで、例の”お食事会”はどうだったんですか?」

 今日初めて”そのこと”について触れて来たなと思いながら、アツアツのドリアに匙を入れる。
ホワイトとミート2つのソースに蕩けたチーズが複雑に絡まる。実に味わい深い。遠くにミラノの風を感じる、まさに至高の味だ。


「ああ、二人ともいい人だったよ。
 上手く折り合いを付けてやっていけそうだ。」

「それは良かったですね。で、どこで食事会やったんですか?」

「XXホテルの最上階だな」

「あのレストランですか……知り合いが行ったことあるって言ってたんですけど、あそこ結構なお値段みたいですね」

「ああ、後に気になってググったんだけど、コース料理が食べ放題焼肉の5回分だったよ! しかもあの量で?
親父むちゃしやがって感じだったよ。」

「でも美味しかったんでしょう?」

「まぁな」

「お相手の写真とかないんですか?」

「あるよ。ホラ」

 俺は写真を表示させ、スマホを差し出した。
そこに映っているのは、構図こそ基本的な家族写真。だがどこか違和感を感じるものだった。 

 前列は、華やかなワンピースを纏った美少女と学ラン姿の俺、後列にスーツを着た父とドレスを纏った義母といういかにもな組合わせで、髪型が古臭ければ昭和あたりの家族写真と言われも信じるかもしれない。

「うっわ! センパイこの人めっちゃ綺麗ですね!」

「確かにお前とは別系統で綺麗だよなぁ……」

 七瀬ななせサラをアイドル系と評価するなら、“ 鎌 倉 かまくら菜月なつき……もとい高須菜月たかすなつきは、女優や人形のような芸術的な美と言っていい。

「“綺麗”と“可愛い”は違うんです! 可愛いは作れるけど綺麗は作れないんですよ……」

 サラの言葉には確かな圧があった。
 俺はサラの圧に気圧されながら、理解してる訳でもないのに返事を返す。

「な、なるほど……」

「分かってないようなので説明すると、優しい男には成れるけどイケメンには成れないみたいなものです」

 完璧に理解できたわけではないものの、言っている言葉のニュアンスは何となくわかる。
 つまりは、「努力でなんとかできる範囲と何とかできないモノがある」と言いたいのだろう。

「何となくは理解できた」

「それで、この方は義理の姉になるんですか? 義理の妹になるんですか?」

「一応、義姉あねだ。一月違いの……」

「一月違いで義姉弟きょうだいって最近のラブコメ作品みたいですね。漫画でも小説でもそういう作品ありますよね~」

 思い出したように手をポンと叩くとこういった。

「あ、でも義理のきょうだいモノって大体は、兄妹が多い気がするんですけど……」

「一月の差で義姉あね義弟おとうともあるか、よ。彼女は……そう! 同級生とか、同じ寮の住人とか会ったことがない親戚とかそう感じの距離感になるよ。お互い」

 俺の言葉でサラはつまらなそうな表情を浮かべる。

「な~んだつまらない。同居するんでしたっけ?」

「あ、うん。する……はず……」

 サラの言葉に俺は動揺を隠せない。
そういえばいつ、どちらが、どこへ引っ越すのかも俺は知らされていない事に気付いたからだ。

あの”すちゃらか親父”いっぺんシメないといけないな!
そんな事を考えているとドンドン会話は進んでいった。

「そうしたら、水回りには特に気を配らないといけないですね」

「ん? またどうして水回り?」

「トイレの使用方法とか、お風呂の時間、日用品の保管場所とかそういう棚なんか準備しないとまずいんじゃないんですか?
女性のそういうアイテムの量を舐めてると大変なことになりますよ!」

うん! 帰ったら親父と お・は・な・し 決定だ!

「ありがとう。 言い難いこと言わせちゃったね。
元々トイレは座ってするルールだし(掃除の都合で)、風呂もトイレも洗濯も最大限気を付け、配慮するつもりだ」

「王道中の王道、ラッキースケベを自ら封印する……だと……」

何かのオマージュなのかニヤニヤしながらそんな科白を口にする。 さっきのサービスシーンの逆襲なのか?

「ちょ、創作物の世界とごっちゃにして、人を犯罪者にするのはヤメレ。そもそも狙ってするラッキースケベは単なる性犯罪だ。
第一これから『家族』となる人にそう言う欲望を向けたらダメでしょ……」

「でも恋と性欲は別だって言うじゃないですか」(ニヤッ)

「まぁその通りちゃその通りだけど、実際にそういう魅力を感じたとしても相手に悟られないように気を付けたり、そういう感情を抱かないように気を付けるべきだろ?」

「そうなんですけどね……まぁ美人な家族さんが出来て良かったですね」

「まぁ、話しやすい人で良かったとは思っているけど美人過ぎるのも考えものかな……」

「まぁそうですよね。だってセンパイはお義姉ねえさんと付き合うとアレですから……まぁ何かあったら遠慮なく相談してください。私センパイと違って偏差値結構高いので受験勉強も余力あるんですよね」

 確かにあれだけ遊び歩いていても、高い偏差値を維持できているから心配はしていない。

「もしもの時はお願いするよ」

「はーい、了解しましたぁ。
 次はショッピングにいきましょうよ」

(これだけ太っとい釘さしとけば、大丈夫かな?)

――とサラは思った。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編3が完結しました!(2024.8.29)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

貞操観念逆転世界におけるニートの日常

猫丸
恋愛
男女比1:100。 女性の価値が著しく低下した世界へやってきた【大鳥奏】という一人の少年。 夢のような世界で彼が望んだのは、ラブコメでも、ハーレムでもなく、男の希少性を利用した引き籠り生活だった。 ネトゲは楽しいし、一人は気楽だし、学校行かなくてもいいとか最高だし。 しかし、男女の比率が大きく偏った逆転世界は、そんな彼を放っておくはずもなく…… 『カナデさんってもしかして男なんじゃ……?』 『ないでしょw』 『ないと思うけど……え、マジ?』 これは貞操観念逆転世界にやってきた大鳥奏という少年が世界との関わりを断ち自宅からほとんど出ない物語。 貞操観念逆転世界のハーレム主人公を拒んだ一人のネットゲーマーの引き籠り譚である。

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

処理中です...