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第54話ゴブリン
しおりを挟むこれから向かうは、前線都市アリテナの直ぐ近くにある通称【暗き魔森】と呼ばれるエリアで、モンスターが跋扈《ばっこ》する領域だ。行く場所はそのなかでもまだ浅瀬で、危険度の高いモンスターは少ないと聞いている。今回は周辺に群生する薬草の採集と、魔物討伐を同時に進行すると言う計画だ。
ゲームをするときも俺は効率的に進めるため、全てのクエストを受注して移動時間を減して進める事が多かった。
どうせやるなら効率的に……しかも今回は金と命がかかっている。
どちらにしろ失敗するリスクがあるから、両方やる事でリスクを分散する事が出来る。現実世界の投資と一緒だ。まぁ俺の場合バイト先の先輩の受け売りだがな……
それに今回は初心者向けの依頼で出現するモンスターがどの程度の強さなのかと言う疑問がある。
太陽の光が殆ど差し込まない程暗く深い森がそこにはあった。
「げっ! こんなところで薬草を探さないといけないのか……凄い落ち葉の量だ。ドイツ南部には、トウヒと言うダークグリーンの針葉樹ので出来た黒い森があると聞いた事があるけど……この森を見る限り、近くに山は見えない平地だから、中世ヨーロッパの原生林の方が近いかもしれないな……」
中世ヨーロッパとは、栄光の古代ギリシャ・ローマが衰退し、ゲルマン民族が支配する暗黒時代となり、文芸復興の時代を経て啓蒙主義へ至るまでの約千年間の事だ。
ローマ時代に盛んに作られた街道は、ゆっくりと緑の森に埋まってしまう。眼前にある森と同じく広葉樹であるので落ち葉で隠れてしまうのだ。
古の時代には、この辺りにあった帝国と称される国家の大都市があったと言うが、その痕跡は道や遺跡程度しか現存してない。
俺は落ち葉だらけの森に入って行く……カサカサとまだ硬く乾いた落ち葉が足を動かすたびに鳴る音が聞こえる。
「受付のお姉さんの話だと、一つ見つければ近くに群生しているって話だから一つ見つければ後は楽勝だな……」
そんな事を考えながら森を彷徨う事約一時間。暫く彷徨っているとある違和感を感じる。リスや小鳥などの小動物の鳴き声がは聞こえるものの、その姿を見る事は出来ないのだ。何かがおかしい。
生ぬるい不快な風が吹き抜ける。
刹那!
風音に紛れ草木をかき分けるザッザッと言う音が聞こえた。恐らくは小鬼だ。知らず知らずのうちに奴らのテリトリーに足を踏み入れてしまっているようだ。
敵の数は幾つだ?
流石に足音を聞き分けられるほど経験がある訳でないが、その数は優に2ケタに迫る事だけは直観的に理解出来た。
不味いなこの場所だと棒状武器を振るには狭すぎる。少しでも開けた場所に移動しないと横に振り抜くことが出来ない。
俺は周囲を見回しながら通って来た山道で、一番広い場所目掛けて移動し背中に背負った槍ではなく、剣を抜き払い戦闘態勢を取る。
頭を動かさずに目を動かすだけで周囲を見る。周囲には剣や槍で武装した小鬼が10体以上はいる。
小鬼は、こちらの出方を伺っているのかすぐには手を出してこない。リーダーの号令を待っているのだろう……
「掛かって来い! 小鬼共ッ!」
小鬼が人語を解せる訳はない。
だが俺は小鬼を挑発し、暴竜の鋳塊剣を構える。
小鬼弓兵や小鬼魔術師と言った後衛の姿だけが見えない。陣形が固まる前に無理をしてでも崩した方が良さそうだ。
俺は暴竜の鋳塊盾を構えそのまま突進する。
落ち葉を巻き上げる暴風の如き突進により、子供程度の背丈の小鬼は跳ね飛ばされてる。
刹那!
音もなく背後に忍び寄っていた小鬼が、落ち葉をかき分けて飛び掛かってくる。
小鬼暗殺者か小鬼盗賊と言ったところか……だが甘い!
後方の頭上から飛来する三匹の小鬼を暴竜の鋳塊剣を振り抜く――――
三匹の別動隊は俺の剣によって一刀の元に切り伏せられる。
しっかりと注意が出来ていたので危なげは無かったが、これが別邸の新人騎士ならもう少し苦戦しただろう……
「防御は不安だったが小鬼程度でも中々の強さだ」
「さて剥ぎ取るとするか……前世でやったアクションゲームみたいでワクワクするな!」
俺は小鬼の魔石と金属製の武具を剥ぎ取って、薬草を探す事にした。
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