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第53話)冒険者ギルドに行こう
しおりを挟む前線都市と言われるアリテナでさえも、冒険者ギルドは大通り……メインストリートから外れた場所にあり、用途に相応しい佇まいをしていた。暴徒や傭兵、犯罪者予備軍と言っても過言ではない荒くれ者達が出入りする酒場兼、仕事の斡旋所。
そんな冒険者ギルドが都市の外周や郊外に存在しているだが、イオンお兄さまは、「モンスターへの対応がしやすい」と言い。
シャルロット先生は、「血や体液、泥で汚れた格好で中心部まで出入りされると不潔だから」と両者共に納得の行く説明だったが……ギルド内のワイワイ、ガヤガヤ、ドンちゃん騒ぎのこの喧騒から察するに、近年日本でも問題になっている騒音問題ではないだろうか? と新たな説を提案するに至った。
冒険者ギルドの外観は煉瓦造りと言う金のかかった立派な外観の五階建てで、中に入ると先ず目に入るのは、入り口から真正面から真っ直ぐに進んだ所にある、受付カウンターだ。受付嬢らしき年若く見目麗しい女性達が、制服に身を包んで冒険者の対応をしている。
一階部分は広く依頼の受付と、飲食を提供するレストランを兼ねているようで、昼間だというのにもう酒を飲んでいる者もいる。
――――と言うか冒険者ギルドになぜ飲食店が入っているのか? ギルドが仲介した依頼を受け、その依頼報酬(ギルドは依頼者と冒険者から手数料を取っている)を受け取った冒険者達は酒場で飲み食いさせて、ギルド内で経済を回す……まるでパチ屋と古物商を用いた三店舗方式をどこか想起させる。
まぁ、元々あまり評判の良くない冒険者達が酔って暴れると面倒だから、管理しつつ金を巻き上げ補填に当てているのだろうと推察できる。
そんな事を考えながらカウンター前の列に並んでいると、俺の番が回ってきた。
「こんにちわ! 本日はどのような御用件でしょうか?」
茶髪の笑顔の素敵な女性が、笑顔で冒険者たちの相手をしている。
冒険者ギルドの受付に求められる事は、見た目か技能である。
受付の見た目がよければ、男女共に冒険者はやる気を出すし、例えば人を見る目があったり、元冒険者であればアドバイスを与え、より高難易度のクエストへ挑戦する事ができる。優秀な人材を育てることが出来る。
簡単に言えばギルドの顔である。
「冒険者の登録をしたいのですが……どうすればいいですか?」
「冒険者の新規登録ですね。かしこまりました。」
シャオンが用件を告げると、受付嬢は笑顔で一枚の書類を棚を開けて取り出し、一枚のペラ紙を差し出した。
「こちらの用紙の契約に問題がなければ、用紙に氏名、職業、種族、年齢、差し支えなければ、スキルや経歴などをご記入ください。本来は有償サービスとなっておりますが初回登録時のみ代筆、代読もできますがどうされますか?」
「自分で出来ます」
この世界では文字の読み書きが出来る人間は少なく、それだけでメシが食える……言うなれば、文字が書けて読めるだけで、簿記検定とかそう言った国家資格を持っているのに値し、多くの人間が読めるだけと言った状態だ。
「羽ペンとインク壺は、コチラでございます」
受付嬢は、棚から羽ペンとインクの小壺を取り出してカウンターの上に置いた。羽ペンをインク壺につけ、程よくインクを落とすとサラサラと紙の上を滑らせ羽ペンで文字を綴ってく……
この世界に来てから、今まで使ってこなかった羽ペンにもかなり馴れた。万筆と筆を合せたような物と考えれば分かりやすいだろう……
先端が尖っていて書き辛く、墨汁が垂れるため気を遣うそんな負の要素が強い羽ペンだが、修正出来ないインクを使える筆記具はこれぐらいしかないのだ。万年筆なりボールペンが開発できれば正に革命だと言うのに……
俺は記入した書類を手渡した。
「はい。問題ありません。では登録料は王国銀貨五枚となっております。他国の銀貨でも構いませんが、換金率が異なりますので枚数が変る事をご容赦下さい。ですが、今すぐお支払いが難しいのなら今後の報酬から少しずつ……例えば報酬の一割から二割を差し引いて、支払う事も出来ますがどうされますか?」
正直銀貨五枚が日本円でいくらなのかは知らないが……パスポートや最強の身分証明書こと運転免許証の発行手数料程度と考えておくのが無難かな……
――――と言うかこの世界でも、銀や金の含有率でレートに差異があるんだなぁ。貨幣経済は専攻者は多いモノの難しく、一学者一学説とどこかの記事で読んだことがある気がするので、あまり深くは考えないでおこう……
「じゃぁ一括で」
俺は財布の中から王国銀貨を五枚抜き出して支払いを済ませた。自分の金ではなく、妹から貰った小遣いと言うのが少し心苦しいが、「貴族年金が出たら返す。借りてるだけだ」と自分に言い訳をする。
「では冒険者について説明させていただきます。一言で冒険者組合と申しましても、支部事独立色が強く気風やルールなども異なり、全ての支部で共通しているのは『人類共通の敵であるモンスターに立ち向かう』事と『人類同士の争いには加担しない』こと拠点以外では依頼の受注が出来ません。
移動や引っ越しの際には移転届か許可証が必要になります。ただし移転届や許可証がなくても、冒険者ギルドで提供されているサービスやモンスター等の素材の買い取り、一部常設クエストの受注は可能です」
なるほど……最初の『人類共通の敵であるモンスターに立ち向かう』『人類同士の争いには加担しない』は、国家に干渉されず高い独立性を確保するための仕組みか……
これでは人類同士の戦争には冒険者ギルドを巻き込む事は出来ないが、対魔物戦争であるこれから起る戦いにおいて、各国の協力を取り付けるために巻き込むぐらいには使えるか……
「冒険者ギルドは依頼者からの依頼を仲介し、冒険者がその依頼を請け負い依頼達成後に報酬が冒険者へと支払われます。この時Sランク報酬増額、Aランク報酬満額、B満額減少、C 報酬もっと減少……と少しずつ報酬が減少していき最終的に失敗と判断された時、原則として違約金を支払う事になります。
ギルドではパーティーなどの斡旋を行いますが、パーティー内での揉め事は感知しません。ただし明らかな犯罪行為や冒険者憲章の違反があった場合には、領主や冒険者ギルド又はその両者から罰則があり、冒険者ギルドとしては最大で、冒険者資格の永久停止があります。……これらが最低限のルールです。冒険者憲章と言うのは簡単に言えば、人に迷惑をかけないと言うモラルと心構えも事です。心構えは、ギルドの食堂や受けの壁などに書いてあるので良ければご覧ください」
「わかりました」
文盲が多いのに、冒険者憲章をギルドの食堂や受けの壁などに書いておいても意味が薄いと思うのだが……
「そしてこちらが登録証明のカードになります。冒険者カードは身分の証明、冒険者ギルドやその関係ギルドでの優待などがあり、重い金銭を持ち運ばなくても冒険者ギルドで一定金額までなら即お渡しできます。本日はご依頼を受けていきますか?」
「はい。手ごろなのをお願いします」
冒険者ギルドやその関係ギルドでの優待って……クレカかよ。それに冒険者ギルドで一定金額までなら即引き落とせるって……銀行業も兼ねているのか……コレは冒険者ギルドに各国も頭が上がらないワケだわ……
「そうですね。この辺なんていかがでしょうか?」
そう言って差し出されたのは、薬草の採集依頼だった。
「ではそれとゴブリンなどの討伐も受けたいんですが……」
「かまいませんよ。しかし、常設依頼以外の依頼を失敗しますと、違約金が発生するので注意してください。また依頼の中にはギルドが認めた冒険者以外が、受けられないものもあります。
シャオンくんは、先ずは自力を付けてください。それと無茶だけはしないように……」
こうして俺は槍を片手に冒険に繰り出した。
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