勇者を庇って死ぬモブに転生したので、死亡フラグを回避する為に槍と魔術で最強になりました。新天地で領主として楽しく暮らしたい

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第52話いざ、妹と新天地へ

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「見えて来ました……あれが世界のフタ【前線都市アリテナ】です」

 俺は飛竜車の窓から前線都市アリテナを見る。
 白い巨壁が何層にも渡って張り巡らされている。
外周は巨大な壁は魚の鱗のように重なり合っている。
恐らくは少しづつ城壁を拡張しているのだろう。
壁の上には人が歩いたりすれ違えるほどの広さがあり、大砲や連弩砲などが備え付けられている。
町の雰囲気からはゲーム時代よりも緊張感を感じる。

 飛竜車は旋回軌道を取って敵ではない事をアピールしているようだ。

「シャオン兄さん、妹が今までどこで何をしていたかはご存じですか?」

 リソーナは、紅茶を片手にそんな事を切り出した。
飛竜車でも約三週間近い長旅の間、そんな事は一言も口にしなかったのに……

「イオンお兄さまからは、人材を集めているって聞いていたけど……」

 俺はイオンから聞いていた通りに答えた。

「それは長兄から命じられた仕事です。
 前線都市アリテナへの人材集め事態は、長兄に命じられるずっと以前から私個人が行っている計画的なモノです。本来は私が・・・・・閣下おじいさまに任されるように立ち回っていたのですが、残念ながら長兄に権利を取られてしまいました……しかし長兄の目的もシャオン兄さんを閣下おじいさまに認めされる事です。
 長兄の事は苦手で、業腹ですが目的のための利害の一致です妹は臥薪嘗胆がしんしょうたん辛酸しんさんを舐める重いですが……シャオンお兄さまのために頑張りましょう……
 おっと、話がソレましたね。結論を言うと粗方人材はそろっています。今まで私がやっていたのは、この城塞都市を発展させるための足掛かりです詳しい話は館に着いたらお話します」

 暫く飛竜車は空を旋回し、目的地である屋敷に到着した。

 四頭建の飛竜車がに着陸し暫くすると、ドアが開いてリソーナ付きのメイドが下車し、主人の手を取り下車を手助けする。

 続いて俺が下りる。

 現前には立派な屋敷……と言うか山城が立っている。

「ようこそ、シャオン兄さん。
前線都市アリテナの城塞ポリス蓋天城てんがいじょうへ。
城なので多少住みづらいとは思いますが早く慣れて下さい」

「リソーナ様、シャオン様湯浴みの用意が整っております」

 燕尾服を着た中年断背が恭しくリソーナに下賜付いた。
 リソーナは一瞬顔を歪めたものの、直ぐに貴族らしい笑みを湛えて燕尾服の男性の対応をする。

「ありがとう。ではお兄様湯浴みをして旅の疲れを癒した後に詳しいお話をしましょうか……」

「こちらです」

 そう言って兄妹二人ともバラバラに浴場に案内される。
 入浴後バスローブを着て体を冷ましていると、くすんだ陶器を二つ持ってきてくれた。

「ありがとう」

 どうやら葡萄ジュースを持ってきてくれたようだ。
 火照ったカラダに冷たい葡萄ジュースが染み渡る。

「先ほどの男は、アリテナで長年代官をしていた男で名前をブライブ・イベイジョンと言います。先ずは彼を代官の任から解き不正を白日の下にさらし、シャオンお兄様の権威を示す必要があります」

 不正と言っても様々あるだろう。

「分かった。リソーナの案に従うよ。
それで、リソーナはこの都市で今まで何をしていたの?」

「シャオン兄さんも見たでしょう? 魚のウロコ状に増築された壁を……」

 確かに空から見た。

「アレは本来領主の管理下で行われなければ行けない事業ですが、ブライブ・イベイジョンの懇意にしている商人……達が金を出して建造している私有地と言う扱いです。
 現在この都市の外壁はその魚のウロコによって覆われており、商人の財力・権力が高いため手が出しづらい状態です。その体制を壊すために下準備をしてきました。シャオン兄さんもなにか意見があればと思って……」

 ふむ。ミリタリーや町を作るタイプの作品に疎いせいで、あまりいいアイディアが湧いてこない。

「この都市間での主な移動手段は馬車や、家畜化されたモンスターでいいよな?」

「はい、その通りです。
河川がアリテナ内を流れているので一部では船も用いますが……」

「一つ確認したい事があるんだけど」

「なんでしょう?」

「壁の内側から魔術や大砲を撃っても余り意味はないよね?」

「えぇ……魔術や大砲は実用射程は短いですから、壁の内部に行けば行くほど使い物になりませんから、私が招聘《しょうへい》した専門家の意見を元に壁内部の武装は順次壁の外側に配置しています。シャオン兄さんも、もしかして壁を破壊し土地を確保すべきと仰るつもりですか?」

 誰かにあの壁を破壊し土地を確保するべきと言われたのだろう……町の有力者である商人か騎士達かは分からないが、今必要でないなら破壊するべきと考えているのだろう……

「そんな事はしないよ。壁を上手く使うだけさ」

「壁を使う? それはどういう事ですか?」

 リソーナは首を傾げる。

「壁と言っても、その上には大砲や人間が通れるように平らになっているだろう? それを上手く活用すれば交通・流通の便が格段に向上すると思わないか?」

「確かに利便性は上がりますが……ソレに意味がありますか?」

 先進的な価値観を持っているイオンやリソーナでも、商工業の重要性にはあまり目が向いていないようだ。
この世界の宗教でも金貸しや、金銭を貯めこむ事は良くないとされている。
貴族でありながら商人のような嗅覚を持っているリハヴァイン伯爵家のルナ・フォン・リハヴァイン嬢が異常なのだ。

 壁の上を利用するのは俺自身のアイディアではない。
 例えば古代ローマは、水道橋を用いて遥か遠くの水源から水を引いていたし(壁ではない)、現在の電車だって出来るだけ平な方が速度が出るからと、新幹線やリニアでは走る場所は他よりも一段高くなっている。
 大人気ダークファンタジー漫画では、壁の上を馬で走っているシーンがあったコレを元に馬鉄を考えたのだ。

「まず交通の便が良くなれば、商人側のコストが削減できる。
例えばこの葡萄ジュースが200Gで売られていたとする。
 そうすると原価……この葡萄を仕入れるのに3割かかっていたとすれば、2~3割程度が純利益……儲けと言ってもいい……が必要になり残りの4,5割で雇っている人間に給金を払う事になる。
さて……壁の上を大量の荷物を運べるようにすればどうなる?」

「葡萄ジュースの値段が安くなる?」

「その通り、値段を下げる事が出来るようになる」

 俺は紙とペンを取り出して喋った内容を箇条書きに纏める。

「これは幾つかのメリットがある。
雇用を生み出せるし、馬車でも何でもいいが平らな道であれば速度も出せる。しかも揺れも少ない移動手段や輸送手段として利便性が高い。しかも領主が行う事業だ金を稼ぐにはいいだろう? 他には生産性向上。市民の労働時間を延ばし物の値段を低下させる事で市民から人気もとれる。しかも問題の商人達の輸送を押さらればこちらに強くは出られない。例え利用しなければ、他の商会に値段で負ける。負けないように安くすれば、利益が減り問題の商会の力を削げる」

・雇用創出、移動手段や輸送手段として利便性が高く金も稼げる。
・移動時間が減る事で労働時間を増やすことが出来。
・物の値段を低下させる事で市民から人気獲得。
・物流を掌握する事で問題の商会の力を削げる。

「デメリットは費用が掛かる事と、更なる利便性追求のためには壁同士をつなげて道を作る必要がある事、既存の輸送業者にダメージが行くぐらいかな」

 ココであえて日照権などと言う面倒な権利の話はしない。時代は中近世、基本的人権も著作権もないのだ。権利、権利、権利と言葉だけで義務を果たさない奴らが居る以上容赦の必要はない。

「シャオン兄様はどのような形態を想像されているのですか?」

「板状の木に鉄の線……レールを釘等で固定し、レールはこのような物(ボルトのイラストを描く)で固定するとメンテナンスもしやすいと思う。鉄の上を滑る事で速度もでるし馬も疲れづらい。ある程度の場所に駅《うまや》を設置し馬の交代と積荷や人の乗り降りをすれば、一日中運航できると思うけどどうかな?」

「馬を上に上げるためのスロープの設置など、実際コストはかかりますが良い手だと思います」

「気が付いた? これ兵士の輸送や物資の輸送にも使えるし、軍馬を有効活用できる。しかも有事の時には補給路に早変わり出来るどうかな?」

「問題ありません。秘書からこの町の鍛冶師に話を通して近く実験してみましょう……」

 こうして馬車鉄道案は領主代理であるリソーナによって採用され、2カ月の実験を持って正式に採用され半年と言う短期間で数枚ある壁の上は、環状線がぐるりと一周するようになった。



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