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第51話パーティーの当日
しおりを挟む屋敷の玄関ホールにはこの日のために、イオンお兄さまが準備してくれていた変異種、暴竜タイラントレックスの頭部のはく製が飾られている。
目は見開き頬まで裂けた大きく赤く充血した口からは、ナイフのように鋭利な牙が見える。
「ほう。これが彼の暴竜ですか……」
「凄まじい圧を感じますね」
暴竜の恐ろしげな顔や大きさに由来する威圧感に、紳士や警護の騎士達は思わずその脚が止まり、ご婦人や子供は涙目になるものも散見され、そそくさと立去る様に会場に入っていく。
……子供や旦那の趣味に付き合う家族連れを見ている気分になる。
先ずは……つかみは十分と言ったところかな。
「しかし、ロシルド公孫イオン様のパーティーの形式とは違うような……」
一人の紳士が疑問の言葉を口にする。
「ほう。卿も同じ意見か……」
「もしかすると、話題の【竜殺しの騎士】シャオン殿が準備に回ったのかもしれませんな……」
「なるほど……で、あればこのような無作法も仕方がないかもしれませんな」
「まぁ致し方ないでしょう……改革者とは奇人・変人と紙一重。
願わくばシャオン殿が改革者である事を願うばかりです……」
そう言うと紳士達はメイドや執事に案内され、立食会場に案内されていった。
さぁ俺も準備しますか……
「皆様。本日のこの良き日に当家屋敷にお集まりいただき、誠にありがとうございます。私はこの度国王陛下より一代騎士爵を賜る栄誉を戴いたシャオンと申します。
この度皆様には上位貴族の方々がお見えになる時間よりも、1時間程前のお時間をお伝えさせて頂いております。
理由はイオン様、リソーナ様、私の前線都市アリテナを管理運営する人物と、直接話皆様のご協力を賜りたく思ったからです」
その言葉に子爵、男爵、準男爵、騎士爵等の下級貴族は驚きの声を上げる。
通常 貴族と言う生き物は、上位者に従い庇護下に入る事で威張る。
上に話を通せば下はそれがどれだけ嫌でも、基本的には飲まざる負えない。断れば武力を持って黙らされるからだ。
「皆に協力して頂きたい事は三つだけです。
一つは金銭的援助。
前線都市アリテナの崩壊は全ての国……人類全ての問題です。
二つ人材の援助。
過剰に雇っている騎士や行き場のない騎士や家臣……亜貴族、農民を移住させる事で、人類の生存権の確保と前線都市アリテナでの戦力拡充が目的です。
三つ食料援助。
適正価格で買い取りをしますので食料を売っていただきたい。
前線都市アリテナでも農業を行いますが、魔物災害などでいつダメになるか分かりません。」
周囲から家にメリットがない、と言うような事を言っている貴族の声が聞こえた。
「この提案は、国王陛下よりご承認いただいている内容です。
王都に流入する人民と、それにより形成されたスラム街……皆さまの領地にもあるハズです。
また近年、元騎士が盗賊や海賊に身をやつしてると言う話を聞いたことがあります。
そう言った犯罪者予備軍を前線都市アリテナで引き取ると言っているのです。
また前線都市アリテナの崩壊は【中つ国】の蓋に穴を穿つようなもの……もし彼の砦が落ちればこの【中つ国】は災害とも呼ばれる神龍が蔓延る魔境と化すでしょう……砦の修復警備費は他国にも請求するつもりですのでご心配なく。」
――――と付け加え、対モンスターを基本とした人類共闘宣言の提唱をイオンお兄さま経由で、俺は国王陛下に提案している。
一国が勇者と言う核兵器を所有するよりも、「人類の為に使います」と言って「監視団(使節団)ぐらいは受け入れるから金と兵を出せ!!」と譲歩している様に見せた方が効果的だからだ。
「まずは新しい飲み物をどうぞ……」
そう言って俺はクラフトコーラを勧める。
この日の為に訓練されたメイド達が、スッと白磁に入ったコーラを紳士淑女に手渡す。
俺もメイドから白磁器を受け取ってクラフトコーラを受け取ると……
「上位貴族の方が参られるまで暫しの御歓談と、ささやかではございますがお酒と食事を用意させていただきました。本日はお楽しみください。それでは……乾杯」
そう言って俺は、クラフトコーラをグイッと飲み干して毒ではない事をアピールする。
「「「「「「「「「「乾杯!!」」」」」」」」」」」
「なんだこのグラスはっ!? 白磁で出来ているのか……」
「見ろこれは東の国の産物ではない! あの国なら白磁の底に共通語以外の文字が書いてあるが、これには共通語が書かれているぞ!」
「しかもこの白さ東の国にも劣っていない。
家の家宝と同じぐらいの出来栄えだ!」
「しかもこのシュワシュワした飲み物はなんだ!?」
「パチパチとした辛みのある舌ざわりと、ハーブシロップの風味と甘さがたまらん」
――――とあちこちで驚きの声があがる。
「よろしければこちらもどうぞ、サンドイッチの類似品でハンバーガーと言います。
中には成形した挽肉と葉物野菜、ソースなどが挟まっております」
「ほう片手で食べられるのはいいな」
「少々下品ですが……」
「見ろ! 歯がないワシでも簡単に嚙みちぎれる! 何という柔らかさだ」
下級貴族の方には好評のようだ。「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ」「分断して統治せよ」……先人たちは洋の東西を問わず似たような事を言う物だ。
強敵が居るのならその支持基盤を潰したり、被支配者同士を争わせ、統治者に矛先が向かうのを避ける。どちらも効率的な戦い方を表している。
大貴族なら武力で解決できる問題でも、中小貴族は農民や騎士に反乱をされると自力解決が難しい。
そこで「管理できない奴らを格安で引き取るよ」と手を差し伸べてやる事で、中小貴族は「ぜひ引き取って♡」となる。
いくら武力で黙らせることが出来るとは言っても、自分の支持者の意見を全く聞かない訳にはいかない。こうして上位者と下位者の認識のズレ、齟齬、摩擦を大きくし対立させ分断させる事を今回狙ったのだ。
公爵と言う最上位貴族……の孫と直接話す機会など一介の下級貴族にそんな経験があるやつはいない。こうして公爵と話せますと言うのも得点が高いのだ。
さて上級貴族の旗色を決めかねている風見鶏共は、どう対処するんだろうな?
イオンお兄さま、リソーナ様、俺の活躍の結果……王国貴族の4割の支持と3割の中立と3割の反対を持って、王国貴族の前線都市アリテナより、取得する事が出来る資源を用いた分断統治政策が開始された。
これは勇者が降臨したことによる。王国政治の混乱を表しており、コレからシャオンを襲う幾つもの受難のほんのまだ序章でしかなかった。
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