45 / 55
第45話立食パーティー
しおりを挟む鉱人の女鍛冶師セシルさんに言われた通り、朝から晩まで挨拶回りをしている。昼も晩も晩餐会にパーティーやお茶会様々な名目で、大貴族から大商人まで様々な人物と顔を合せ頭を下げ、言葉と酒を酌み交わし表面上の友好を深めていた。
今日は偶然兄の側から離れた瞬間、以前顔を合せた事のある宮廷貴族に捕まってしまっていた。
「10代半ばで一代貴族に任ぜられるとは……シャオン殿は優れた才覚をお持ちの様だ」
ワイングラスを片手に、デップリと肥え太った腹をしたハゲのジャガイモ顔は、俺の事を誉めそやす。
「ジュノー法衣子爵あくまでも私は、結界の拠点と街を守っただけに過ぎません。かの暴竜タイラントレックスを倒したのは我が師【風刃】シャルロット・オーウェンで御座います。私は時間を稼いだに過ぎません。」
俺はこの数日言い馴れた「シャルロット先生のお陰です。」……と言う責任転嫁をしていた。
この世界でも公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵・騎士爵と基本的な爵位は変わらず、辺境伯や城伯爵、準男爵と言ったWEB小説でお馴染みのドイツ風の爵位もある。
たかが騎士爵である俺が、子爵位であるジュノー法衣子爵に意見を
遠し辛いのはこのためだ。もし俺が(公爵)閣下から正式に一族と認められていれば、公爵の孫である俺は侯爵や伯爵相当の扱いを受けるのだが、俺は公式には一族ではないため自身の爵位である。一代騎士と言う身分でしかないのだ。
「葡萄酒を持ってこい!」
酒により顔を赤らめたジュノー法衣子爵は、フラフラとした千鳥足取りで給仕の方へ歩くと、給仕を呼びつけるために声を張り上げる。
「ジュノー法衣子爵、少々お酒が過ぎたご様子。一度休憩室に向かわれてはいかがでしょう? よろしければ私が付き添いますが……」
「シャオン殿ッ! 私はまだ酔ってなどおりませんぞ!!」
「酔っぱらいは皆そう言うんだッ!!」
周囲の貴族や大商人は「気の毒に……」と言った視線をシャオンに向けるだけで、絡み酒のハゲを何とかするつもりはないらしい。
「はぁ……」
シャオンは周囲に分からない程度にため息を吐く。
前世と言うか社会人時代、嘔吐寸前の男や、くだを巻いてくるような厄介な上司の相手は、俺がする事が多かったので馴れていると言えば馴れている。
主役ではないとは言え本来このような雑事は、貴族が連れている供回りや秘書・ホスト側の給仕等の仕事であり、例えば親子や友人・寄親……(主従関係などを結んでいる者を親子関係に擬して、その主を言う、反対に庇護者を頼子という)―――などの親密な相手であれば、前世での会社員のように介助をする事もある。
だが俺はジュノー法衣子爵は、俺の寄親でも頼子でもない。だから介護などする必要はないのだがつい休憩室へ運んでしまう。
「後の事はお任せします……」
俺はパーティーホールの向かいにある部屋に、ジュノー法衣子爵を担ぎ込むとこのパーティーのホストの用意した給仕に、ジュノー法衣子爵を任せる。
「はっ。私めが介抱させて頂きます」
俺はパーティーホールに戻る前に、夜風に当たって酒で火照ったカラダを冷ます事にする。
ジュノー法衣子爵を任せた給仕の男性に、「夜風に当たりたいのだが……どこか良い場所は無いのか?」と尋ねる。
「それでしたら……良い場所がございます。近い場所でしたらパーティーホール内のテラスなどですが……パーティーの喧騒から距離を置きたいとの事でしたら、中庭などはいかがでしょうか? 当家自慢の庭園が御座います。季節の花々がありとても美しいですよ。夜には光虫が飛んでおりますので綺麗ですよ。苦手な方もいらっしゃいますのでお気御付けください」
【光虫】……カナブン程度の大きさで蛍のように発光し飛翔する甲虫であり、この世界で初めて見た時は……「わっ! 気持ちわるッ!!」と思ったが、暮らし始めて数か月流石にもう慣れた。
確かに現実世界と同じようにこの世界でも、虫嫌いの人間が居てもおかしくない。立場の弱い人間として一応注意事項として述べたのだろう……
「感謝する。これはほんの気持ちだ」
俺はそう言って巾着袋に入った金を、スーツの内側にある胸ポケットに巾着袋をねじ込んだ。
「い、頂けませんッ! 私は仕事をしたに過ぎません!!」
「気にするなそれに私は騎士爵位に過ぎない。そこまで包む程金銭の余力はない。精々食堂で一品頼める程度のほんの気持ちだ」
俺はそう言って感謝を態度で示す。
実際問題。騎士爵を持ってはいるのものの一代爵位の騎士の俺の俸禄は、年収500万G程度と役なしのため決して高給取りと言う訳ではない。
ただ俺の場合イオンお兄さまが、衣食住の全ての金銭を払ってくれているので、事実上のお小遣いだ。
少しキツイ態度のイオンお兄さまの事を考えると、たかが数千から一万G程度を包んで渡す程度で、周りからの態度が軟化する広告費と考えれば、あまり痛くも痒くもない。
武力や金を持つ者からの支持や支援は、平時では心強いが緊急事態において最も強いのは民衆の力……民意である。
それにゲロ製造マシンの処理をお願いするのだ……それぐらいは渡しても問題ない。
「ではありがたく頂戴いたし、このお方の快方に精一杯勤めます……」
そう言って給仕の男性は、休憩室にジュノー法衣子爵を運び入れる。
俺はソレを見届けると、中庭に向けて足を延ばした。
0
お気に入りに追加
606
あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン
ファンタジー
七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています
ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果
安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。
そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。
煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。
学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。
ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。
ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は……
基本的には、ほのぼのです。
設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜
犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。
この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。
これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~
きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。
洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。
レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。
しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。
スキルを手にしてから早5年――。
「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」
突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。
森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。
それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。
そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。
異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~
WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
1~8巻好評発売中です!
※2022年7月12日に本編は完結しました。
◇ ◇ ◇
ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。
ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。
晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。
しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。
胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。
そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──
ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?
前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる