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第45話立食パーティー

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 鉱人ドワーフの女鍛冶師セシルさんに言われた通り、朝から晩まで挨拶回りをしている。昼も晩も晩餐会にパーティーやお茶会様々な名目で、大貴族から大商人まで様々な人物と顔を合せ頭を下げ、言葉と酒を酌み交わし表面上の友好を深めていた。
 今日は偶然兄の側から離れた瞬間、以前顔を合せた事のある宮廷貴族に捕まってしまっていた。

「10代半ばで一代貴族キャリア・マーキスに任ぜられるとは……シャオン殿は優れた才覚をお持ちの様だ」

 ワイングラスを片手に、デップリと肥え太った腹をしたハゲのジャガイモ顔は、俺の事を誉めそやす。

「ジュノー法衣子爵・・・・あくまでも私は、結界の拠点と街を守っただけに過ぎません。かの暴竜タイラントレックスを倒したのは我が師【風刃ふうじん】シャルロット・オーウェンで御座います。私は時間を稼いだに過ぎません。」

 俺はこの数日言い馴れた「シャルロット先生のお陰です。」……と言う責任転嫁をしていた。
 この世界でも公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵・騎士爵と基本的な爵位は変わらず、辺境伯や城伯爵、準男爵と言ったWEB小説でお馴染みのドイツ風の爵位もある。

 たかが騎士爵である俺が、子爵位であるジュノー法衣子爵に意見を
遠し辛いのはこのためだ。もし俺が(公爵)閣下から正式に一族と認められていれば、公爵の孫である俺は侯爵や伯爵相当の扱いを受けるのだが、俺は公式には一族ではないため自身の爵位である。一代騎士と言う身分でしかないのだ。

「葡萄酒を持ってこい!」

 酒により顔を赤らめたジュノー法衣子爵は、フラフラとした千鳥足取りで給仕の方へ歩くと、給仕を呼びつけるために声を張り上げる。

「ジュノー法衣子爵、少々お酒が過ぎたご様子。一度休憩室に向かわれてはいかがでしょう? よろしければ私が付き添いますが……」

「シャオン殿ッ! 私はまだ酔ってなどおりませんぞ!!」

「酔っぱらいは皆そう言うんだッ!!」

 周囲の貴族や大商人は「気の毒に……」と言った視線をシャオンに向けるだけで、絡み酒のハゲを何とかするつもりはないらしい。

「はぁ……」

 シャオンは周囲に分からない程度にため息を吐く。
 前世と言うか社会人時代、嘔吐寸前の男や、くだを巻いてくるような厄介な上司の相手は、俺がする事が多かったので馴れていると言えば馴れている。

 主役ではないとは言え本来このような雑事は、貴族が連れている供回りや秘書・ホスト側の給仕等の仕事であり、例えば親子や友人・寄親よりおや……(主従関係などを結んでいる者を親子関係に擬して、その主を言う、反対に庇護者を頼子という)―――などの親密な相手であれば、前世での会社員のように介助をする事もある。

 だが俺はジュノー法衣子爵は、俺の寄親でも頼子でもない。だから介護などする必要はないのだがつい休憩室へ運んでしまう。

「後の事はお任せします……」

 俺はパーティーホールの向かいにある部屋に、ジュノー法衣子爵を担ぎ込むとこのパーティーのホストの用意した給仕に、ジュノー法衣子爵を任せる。

「はっ。私めが介抱させて頂きます」

 俺はパーティーホールに戻る前に、夜風に当たって酒で火照ったカラダを冷ます事にする。
 ジュノー法衣子爵を任せた給仕の男性に、「夜風に当たりたいのだが……どこか良い場所は無いのか?」と尋ねる。

「それでしたら……良い場所がございます。近い場所でしたらパーティーホール内のテラスなどですが……パーティーの喧騒から距離を置きたいとの事でしたら、中庭などはいかがでしょうか? 当家自慢の庭園が御座います。季節の花々がありとても美しいですよ。夜には光虫ひかりむしが飛んでおりますので綺麗ですよ。苦手な方もいらっしゃいますのでお気御付けください」

 【光虫ひかりむし】……カナブン程度の大きさで蛍のように発光し飛翔する甲虫であり、この世界で初めて見た時は……「わっ! 気持ちわるッ!!」と思ったが、暮らし始めて数か月流石にもう慣れた。
 確かに現実世界と同じようにこの世界でも、虫嫌いの人間が居てもおかしくない。立場の弱い人間として一応注意事項として述べたのだろう……

「感謝する。これはほんの気持ちだ」

 俺はそう言って巾着袋に入った金を、スーツの内側にある胸ポケットに巾着袋をねじ込んだ。

「い、頂けませんッ! 私は仕事をしたに過ぎません!!」

「気にするなそれに私は騎士爵位に過ぎない。そこまで包む程金銭の余力はない。精々食堂で一品頼める程度のほんの気持ちだ」

 俺はそう言って感謝を態度で示す。
 実際問題。騎士爵を持ってはいるのものの一代爵位キャリア・マーキスの騎士の俺の俸禄は、年収500万G程度と役なしのため決して高給取りと言う訳ではない。
 ただ俺の場合イオンお兄さまが、衣食住の全ての金銭を払ってくれているので、事実上のお小遣いだ。
 少しキツイ態度のイオンお兄さまの事を考えると、たかが数千から一万G程度を包んで渡す程度で、周りからの態度が軟化する広告費と考えれば、あまり痛くも痒くもない。
 武力や金を持つ者からの支持や支援は、平時では心強いが緊急事態において最も強いのは民衆の力……民意である。

 それにゲロ製造マシンの処理をお願いするのだ……それぐらいは渡しても問題ない。

「ではありがたく頂戴いたし、このお方の快方に精一杯勤めます……」
 
 そう言って給仕の男性は、休憩室にジュノー法衣子爵を運び入れる。
 俺はソレを見届けると、中庭に向けて足を延ばした。


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