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第44話夜食を作ろう……
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少し変則的な構成になっており、途中で視点が変ります。グルメ描写が苦手な方は飛ばしてください。一応後々出番があります
王都にあるロシルド公爵家の別宅に着いて数日。
連日連夜の挨拶周りで、俺の心は疲弊しきっていた。
人とは不思議なモノで疲れている時ほど、テンションがハイになる者も居れば、投げ出したくなる者も居る……
今回の俺は前者であり会食が終わって数時間、屋敷の料理人や女中達は寝静まっており、いくら小腹が空いたからと言って気軽に何か出来る訳ではない。
リンゴ程度なら部屋にあるが……果物で黙らせる事が出来る腹の状態ではない。
「作るか……深夜メシ……」
俺は決意を硬くするとソロリ、ソロリとベッドから抜け出し靴を履いて屋敷の一階にある厨房に辿り着いた。
当然厨房の火は落ちている。薪で調理をする経験など小中学生時代の野外活動で作ったカレーライスや味噌煮込みうどん、部活でやった焼肉、家族で川に行き鮎取った時にアラ汁や、塩焼きにした程度であり、ガス火の調節が懐かしい。
「まぁ魔術で火を出せば、火力調節何て問題ないか……」
魔術とは魔力を燃料に事象を変化させる神の御業の一遍だとそう言えば何かの本で読んだ記憶がある。
食糧庫《パントリー》を開けて中を見る……
「何を作ろうか……この世界にはハンバーグもマヨネーズもウスターソースも中農ソースも俺が知る限りは存在しない。やっちゃうか……転移転生もののテンプレ!! 料理革命!!」
俺は早速調理に取り掛かった。
「先ずは再現簡単なメインのハンバーグからにしよう……」
ハンバーグは大雑把に分けて、牛肉100パーセントや牛豚の合い挽き肉だけの繋ぎなしと、玉葱やパン粉を加えた繋ぎありのものがある。特別感が高いのは当然牛肉100パーセントだが、それでは甘味が足りない……そこで俺は玉葱の粗みじん切りとパン粉を加えたハンバーグを作る事にした。
「材料は、牛肉の筋がおおいクズ肉と、玉葱、パン粉程度かな……」
先ずは風魔術のエアエッジを多重発動させて、玉葱1/2を粗みじん切りにしてから鍋に張った牛乳で煮る。そうすることで玉葱の甘味と牛乳からコクが出ると同時に、肉の臭み消しにもなるからだ。
沸騰してから20分弱火でじっくりと火を入れて、塩を一つまみ入れ適時凝固したたんぱく質の膜を取り除く。
その間にソース作りだ。
「中農ソースやウスターソースがあれば楽なんだけど……醤油すら現状無いからなぁ……焼き肉のタレも、中農ソース、お好み焼きソースも無い現状だと肉汁系のソースか発酵系、煮詰める系しかないんだよなぁ……」
確かウスターソースの原型は、お酢に玉葱、ニンニク、アンチョビ、タマリンド他多数のスパイスを発酵させたものだったハズ……どちらにせよ時間がかかるので論外。
現状だと肉汁を用いたグレイビーソース系に纏めるのが無難か……時間があればデミグラスも美味いんだが、ブラウンルー(小麦粉をバターで茶色くなるまで炒めた纏めた物)に、牛肉と牛骨と野菜の出汁(人参、玉葱、セロリが一般的)を灰汁《アク》を取りながら半量まで煮詰め赤ワインで風味を付けると言う、大変時間と手間暇がかかり過ぎるソースなのだ。
「ないもの強請りをしていても仕方がない。ここは無難に、行くか……」
フライパンに牛脂を引いて、みじん切りにした玉葱と潰して芽と皮を取り除いたニンニクを一欠けら入れ、水分が飛ぶまで炒める。
この時塩を一つまみ入れる事で、玉葱の水分を飛ばしやすくする。本来は醤油と赤ワイン、バターを加え塩、胡椒、砂糖、醤油で味を調えひと煮立ちるのだが……無いモノは仕方ない魚醤と言う魚を発酵させたものはあるが……生臭いのであまり合わないだろうここは塩とハチミツで我慢しよう……
ソースを火にかけたままハンバーグの種に戻る。牛乳と玉葱を煮たものにパン粉を加える。水分が少なくなる程度、パン粉には肉汁を閉じ込める効果と、かさましの意味があるのだが……まぁ入れない方が肉っぽく、入れた方がボリューミーと覚えておけばいい。
そのまま氷魔術で冷やしながら、ミンチと一緒に捏ねるこれは先ほどの風魔術使う。冷やす事で肉の油が解け出て、パサパサにならないようにする。
オリーブ油を塗った手で成形し中心に窪みを付けて、膨らんだ時に破裂しないように気を付けつつ氷魔術で表面を凍らせて、網の上にハンバーグを乗せて、魔術で火を付けて表面をカリカリに焼き上げる。イメージは岐阜県の有名な炭火焼ハンバーグだ。
「あ、ついでにバゲッド(一般的にはフランスパンと呼ばれている物)
モドキも暖めよう」
焼いている間にレタスとキャベツをちぎって、シェフが作り置きしているオリーブオイルのドレッシングをかける。本来はマッシュポテトやニンジンのグラッセ(バターと砂糖で煮たもの)や、ブロッコリーが欲しいが、今は手間をかけるより腹を満たしたいと言うのが本音だ。
ついでにジャガイモ、ニンジン、アスパラを焼いて焦げの香ばしさを付ける。
焼きあがったところで大皿に乗せ、サラダ、ハンバーグ、焼き野菜を乗せ上からシャリアピンソースをかけて、別皿にバゲッド、バターを乗せ赤ワインを一本持ってくる。氷魔術でじっくりと冷やしてあるものの中でもえぐ味……ポリフェノールの少ないものを選んだ。
「これで俺の至高の深夜メシは完成だ!!」
先ずは一口。そう思って、シャオンはナイフとフォークでハンバーグを切る。するとじゅわりと肉汁が溢れだす。
表面はやや硬いもののそれはハンバーグ自らの油で、揚げ焼きに近い状態になっているからであり、決して嫌な印象は受けない。むしろカリっと噛み応えのある表面と、ジュワりと肉汁滴るフワフワで肉肉しい中身の触感が、上等なステーキを食べているような錯覚を感じさせる。
「犯罪的に旨すぎる……うう……」
火魔術で炭に引火させて香りを付けたが、炭と焦げの香りがより食欲を引き立たせている。
俺は間髪入れずに冷やしたワインを、ゴクゴクと飲みグラスを干す。
アルコールのツンとした香りと葡萄の香りが、フッと鼻を抜けて肉の香りと味を優しく洗い流す。
「キンキンに冷えてやがるっ……!! 染みこんできやがるっ……体に……」
思わず俺の中の伊〇カイジ改め藤〇竜也改め、最近Amaz○nプライムで俳優デビューしていた。ガーリー〇コード高井が出現してしまう。
焼いたジャガイモにシャリアピンソースを付けて、ジャガイモをフォークで付き刺して口に運ぶと、ジャガイモはほろほろと崩れるデンプンの甘味とソースと肉汁を良く吸っている。何よりもホクホクとして美味い。
「シンプルな味のジャガイモにシャリアピンソースとハンバーグからでる肉汁がしみ込んでいて旨いな……でもやっぱり米がほしい! 日本人なら白米だよ! 醤油、味醂、味噌欲しいモノが多すぎる」
俺が料理の出来栄えに感動していると……
「肉の焼ける匂いがするわね……誰かなにか食べてるの?」
シャルロット先生の声が聞こえる。
「やべっ!」
だが俺に逃げ道などはない。大人しく料理を献上するしかないのだ。足音が段々近づいて来てドアを開ける。
「シャオンこんな時間に何してるのよ……」
シャルロット先生はこんな時間とは言う物の。前世ではまだ多くの人間が起きている。24時代の事でありそこまで咎められる覚えはない。確かに調理場を勝手に使った事は悪いとは思っているが……
「お腹がすいちゃって……会食ではお話する事がメインですからバゲットが食べられずお腹が減ってしまったんです……」
俺は素直に話す事にした。
「ダメでしょ勝手に料理人の仕事場に入っちゃ……こういう時は夜番をしているメイドに言いつけて、準備させたりするものなの……竈に火が入って無ければ、作り置きのミートパイとかサンドイッチになるけど、主人が料理や掃除をするのは、働いている人たちに文句があるって言っているようなモノなの。もう少し公爵家の血を引いている自覚を持って……」
――――と諭されてしまう。確かにそうだと思うところはあるものの現代日本人にとって、自分のために人を使うなどホテルのルームサービス程度ではないだろうか? やはり圧倒的に経験が足りない。
「ごめんなさい」
「分かればいいのよ……さて私にもそのステーキ? 食べさせてくれる?」
シャルロット先生もお腹が減っているようで、そんな提案をしてくる。
ハンバーグは、焼き立てが美味しいものの冷めてしまっても、問題なく食べる事が出来る。最悪魔術で暖めればいいのだ。
「今から焼くので待って貰えますか?」
折角食べてもらうのだ。俺の食べかけよりも焼き立ての方がいいだろう……
「え、いいの? じゃぁ焼いて貰おうかしら……」
「少し変わり種を作りますので、嫌でなければまだ口を付けていないハンバーグを食べていてください」
「え、いいの? じゃぁ頂こうかしら……」
そう言って私は、ピカピカに磨かれた金属製のナイフを押し当てる。
金属製のナイフで切るくらいだから硬いのでは? と思っていたが……ステーキみたいな何かはシャルロットの予想以上に柔らかく、あっさりと切れる。
(普通。牛ステーキがこんなに柔らかいハズがない……よっぽど上等なものか何か特別な手間を加えているのね……)
一口分に切った肉をフォークで、口に運び噛み締める。
「ん――――ッ!!」
外はカリカリで中はフワフワで噛み締めるたびに、肉の中にたっぷりと含まれた肉汁が溢れ、口の中にじんわりと広がる。
ソースもいい。玉葱の甘味とワイン、バターのコクと胡椒の風味が食欲を刺激する。
気が付けば二枚あったハンバーグと言う料理は、残り一切れになっていた。
(不味い……食べ過ぎた……)
シャルロットは猛烈に反省していた……
いくら自分が食客と言うか教師と言う立場で、オマケにイオンと友人だからと言って、こんな上等な牛肉をパクパクと食べる訳にはいかない。素直にあやまれば二人とも許してくれるだろうが、常識と良心を持っているシャルロットにとって心苦しい……
「先生もう少しで焼けますので、もう少しだけ待ってください」
「あ、ありがとう……」
私は上釣った声で答えた。
変に食べてしまったシャルロットの胃袋は、食欲が刺激されておりあと数十分も待つことは出来ずにいた。美味しかったで済ませて全て食べてしまおう……シャルロットの心の悪魔が誘惑する。
「あ、そうだ! 良ければ全部食べて下さい。今ちょうど三枚焼いていますので俺も温かいモノが食べたいですから……」
そう言って厨房に消えていくシャオンの言葉で、シャルロットの理性は崩壊していた。
私は気が付くと添え物の野菜や、パンなどを軽く平らげていた。
「さぁ焼きあがりましたよ。チーズインハンバーグです」
そう言ってシャルロット先生の前に置かれた。白磁の平皿の上にハンバーグを乗せ上からシャリアピンソースをかける。
「さぁ召し上がれ……」
シャルロット先生はハンバーグをナイフで切る。すると中からチーズと肉汁が溢れ出す。
「嘘。何で肉の中からチーズが?」
「簡単な事です。これはハンバーグと言う肉料理で、ソーセージやミートボールと同じく挽肉を使った料理で牛肉、玉葱、パン粉、ハーブ、塩胡椒で味を調え成形したものです。中にチーズや野菜を入れることも出来き、クズ肉からでも出来るため、庶民でも気軽に牛肉が食べられるようにと考えた料理です」
嘘である。庶民の事なんか考えてもいない。食べたいから作っただけである。そしてアイディアを盗用したタタール人! ごめん。
俺は心の中でモンゴル系騎馬遊牧民族に謝罪する。するとチンギス・ハーンや四狗と呼ばれた武将の一人である。速不台《スブタイ》がニッコリと微笑んだ気がした。
「これクズ肉なの?」
シャルロットは驚きの声をあげる。シャルロット自身元貴族の家系ではあるがそれは祖父母の代までの話。シャルロット自身は少し裕福な程度であり、骨の周りや筋が多いいわゆるクズ肉を食べた事があるが、筋やが多く嚙み切れなかったり、脂身だけだったりととても美味しいと思って、食べられる程度ではなかった。
実際問題ごく普通の一般家庭でもスープの出汁や具に使う程度だ。
「そうです。内臓を使うことも出来ますが……臭みと硬さが悪化さ保存性の悪さが増えてしまうでしょう……さぁ食べて下さいチーズが固まると美味しくありませんよ」
俺はそう言ってシャルロット先生をせかす。
「美味しい。チーズのコクがプラスされるだけで、印象ががらりと変わるのね……いくらでも食べられそう……」
「そうですね……トマトやレタスと一緒にパンに挟んでも美味しいと思いますよ?」
「確かにそうね……肉汁がパンに沁み込んだら硬いパンも柔らかくなるし美味しそう!!」
確かに黒パン、白パンと2種類のパンに、レタスやトマト、玉葱などの野菜とチーズとハンバーグを労働者に売れば、金を稼ぐことが出来るアメリカの工場労働者やゴールドラッシュで儲かったのは、ピッケルやジーンズ、食品を売っていた商人だと言う話をどこかで見た。
ハンバーショップを開くのも悪くないかもしれない……
こうしてハンバーグを食べたシャルロット先生は、ハンバーグを大変気に入り、様々なモノにハンバーグを加えるハンバーグジャンキーになり、それによって自然発生的にハンバーガー、長粒種のコメにハンバーグと目玉焼きを乗せたロコモコ擬きなどが、生まれるのだがそれはまた別のお話。
王都にあるロシルド公爵家の別宅に着いて数日。
連日連夜の挨拶周りで、俺の心は疲弊しきっていた。
人とは不思議なモノで疲れている時ほど、テンションがハイになる者も居れば、投げ出したくなる者も居る……
今回の俺は前者であり会食が終わって数時間、屋敷の料理人や女中達は寝静まっており、いくら小腹が空いたからと言って気軽に何か出来る訳ではない。
リンゴ程度なら部屋にあるが……果物で黙らせる事が出来る腹の状態ではない。
「作るか……深夜メシ……」
俺は決意を硬くするとソロリ、ソロリとベッドから抜け出し靴を履いて屋敷の一階にある厨房に辿り着いた。
当然厨房の火は落ちている。薪で調理をする経験など小中学生時代の野外活動で作ったカレーライスや味噌煮込みうどん、部活でやった焼肉、家族で川に行き鮎取った時にアラ汁や、塩焼きにした程度であり、ガス火の調節が懐かしい。
「まぁ魔術で火を出せば、火力調節何て問題ないか……」
魔術とは魔力を燃料に事象を変化させる神の御業の一遍だとそう言えば何かの本で読んだ記憶がある。
食糧庫《パントリー》を開けて中を見る……
「何を作ろうか……この世界にはハンバーグもマヨネーズもウスターソースも中農ソースも俺が知る限りは存在しない。やっちゃうか……転移転生もののテンプレ!! 料理革命!!」
俺は早速調理に取り掛かった。
「先ずは再現簡単なメインのハンバーグからにしよう……」
ハンバーグは大雑把に分けて、牛肉100パーセントや牛豚の合い挽き肉だけの繋ぎなしと、玉葱やパン粉を加えた繋ぎありのものがある。特別感が高いのは当然牛肉100パーセントだが、それでは甘味が足りない……そこで俺は玉葱の粗みじん切りとパン粉を加えたハンバーグを作る事にした。
「材料は、牛肉の筋がおおいクズ肉と、玉葱、パン粉程度かな……」
先ずは風魔術のエアエッジを多重発動させて、玉葱1/2を粗みじん切りにしてから鍋に張った牛乳で煮る。そうすることで玉葱の甘味と牛乳からコクが出ると同時に、肉の臭み消しにもなるからだ。
沸騰してから20分弱火でじっくりと火を入れて、塩を一つまみ入れ適時凝固したたんぱく質の膜を取り除く。
その間にソース作りだ。
「中農ソースやウスターソースがあれば楽なんだけど……醤油すら現状無いからなぁ……焼き肉のタレも、中農ソース、お好み焼きソースも無い現状だと肉汁系のソースか発酵系、煮詰める系しかないんだよなぁ……」
確かウスターソースの原型は、お酢に玉葱、ニンニク、アンチョビ、タマリンド他多数のスパイスを発酵させたものだったハズ……どちらにせよ時間がかかるので論外。
現状だと肉汁を用いたグレイビーソース系に纏めるのが無難か……時間があればデミグラスも美味いんだが、ブラウンルー(小麦粉をバターで茶色くなるまで炒めた纏めた物)に、牛肉と牛骨と野菜の出汁(人参、玉葱、セロリが一般的)を灰汁《アク》を取りながら半量まで煮詰め赤ワインで風味を付けると言う、大変時間と手間暇がかかり過ぎるソースなのだ。
「ないもの強請りをしていても仕方がない。ここは無難に、行くか……」
フライパンに牛脂を引いて、みじん切りにした玉葱と潰して芽と皮を取り除いたニンニクを一欠けら入れ、水分が飛ぶまで炒める。
この時塩を一つまみ入れる事で、玉葱の水分を飛ばしやすくする。本来は醤油と赤ワイン、バターを加え塩、胡椒、砂糖、醤油で味を調えひと煮立ちるのだが……無いモノは仕方ない魚醤と言う魚を発酵させたものはあるが……生臭いのであまり合わないだろうここは塩とハチミツで我慢しよう……
ソースを火にかけたままハンバーグの種に戻る。牛乳と玉葱を煮たものにパン粉を加える。水分が少なくなる程度、パン粉には肉汁を閉じ込める効果と、かさましの意味があるのだが……まぁ入れない方が肉っぽく、入れた方がボリューミーと覚えておけばいい。
そのまま氷魔術で冷やしながら、ミンチと一緒に捏ねるこれは先ほどの風魔術使う。冷やす事で肉の油が解け出て、パサパサにならないようにする。
オリーブ油を塗った手で成形し中心に窪みを付けて、膨らんだ時に破裂しないように気を付けつつ氷魔術で表面を凍らせて、網の上にハンバーグを乗せて、魔術で火を付けて表面をカリカリに焼き上げる。イメージは岐阜県の有名な炭火焼ハンバーグだ。
「あ、ついでにバゲッド(一般的にはフランスパンと呼ばれている物)
モドキも暖めよう」
焼いている間にレタスとキャベツをちぎって、シェフが作り置きしているオリーブオイルのドレッシングをかける。本来はマッシュポテトやニンジンのグラッセ(バターと砂糖で煮たもの)や、ブロッコリーが欲しいが、今は手間をかけるより腹を満たしたいと言うのが本音だ。
ついでにジャガイモ、ニンジン、アスパラを焼いて焦げの香ばしさを付ける。
焼きあがったところで大皿に乗せ、サラダ、ハンバーグ、焼き野菜を乗せ上からシャリアピンソースをかけて、別皿にバゲッド、バターを乗せ赤ワインを一本持ってくる。氷魔術でじっくりと冷やしてあるものの中でもえぐ味……ポリフェノールの少ないものを選んだ。
「これで俺の至高の深夜メシは完成だ!!」
先ずは一口。そう思って、シャオンはナイフとフォークでハンバーグを切る。するとじゅわりと肉汁が溢れだす。
表面はやや硬いもののそれはハンバーグ自らの油で、揚げ焼きに近い状態になっているからであり、決して嫌な印象は受けない。むしろカリっと噛み応えのある表面と、ジュワりと肉汁滴るフワフワで肉肉しい中身の触感が、上等なステーキを食べているような錯覚を感じさせる。
「犯罪的に旨すぎる……うう……」
火魔術で炭に引火させて香りを付けたが、炭と焦げの香りがより食欲を引き立たせている。
俺は間髪入れずに冷やしたワインを、ゴクゴクと飲みグラスを干す。
アルコールのツンとした香りと葡萄の香りが、フッと鼻を抜けて肉の香りと味を優しく洗い流す。
「キンキンに冷えてやがるっ……!! 染みこんできやがるっ……体に……」
思わず俺の中の伊〇カイジ改め藤〇竜也改め、最近Amaz○nプライムで俳優デビューしていた。ガーリー〇コード高井が出現してしまう。
焼いたジャガイモにシャリアピンソースを付けて、ジャガイモをフォークで付き刺して口に運ぶと、ジャガイモはほろほろと崩れるデンプンの甘味とソースと肉汁を良く吸っている。何よりもホクホクとして美味い。
「シンプルな味のジャガイモにシャリアピンソースとハンバーグからでる肉汁がしみ込んでいて旨いな……でもやっぱり米がほしい! 日本人なら白米だよ! 醤油、味醂、味噌欲しいモノが多すぎる」
俺が料理の出来栄えに感動していると……
「肉の焼ける匂いがするわね……誰かなにか食べてるの?」
シャルロット先生の声が聞こえる。
「やべっ!」
だが俺に逃げ道などはない。大人しく料理を献上するしかないのだ。足音が段々近づいて来てドアを開ける。
「シャオンこんな時間に何してるのよ……」
シャルロット先生はこんな時間とは言う物の。前世ではまだ多くの人間が起きている。24時代の事でありそこまで咎められる覚えはない。確かに調理場を勝手に使った事は悪いとは思っているが……
「お腹がすいちゃって……会食ではお話する事がメインですからバゲットが食べられずお腹が減ってしまったんです……」
俺は素直に話す事にした。
「ダメでしょ勝手に料理人の仕事場に入っちゃ……こういう時は夜番をしているメイドに言いつけて、準備させたりするものなの……竈に火が入って無ければ、作り置きのミートパイとかサンドイッチになるけど、主人が料理や掃除をするのは、働いている人たちに文句があるって言っているようなモノなの。もう少し公爵家の血を引いている自覚を持って……」
――――と諭されてしまう。確かにそうだと思うところはあるものの現代日本人にとって、自分のために人を使うなどホテルのルームサービス程度ではないだろうか? やはり圧倒的に経験が足りない。
「ごめんなさい」
「分かればいいのよ……さて私にもそのステーキ? 食べさせてくれる?」
シャルロット先生もお腹が減っているようで、そんな提案をしてくる。
ハンバーグは、焼き立てが美味しいものの冷めてしまっても、問題なく食べる事が出来る。最悪魔術で暖めればいいのだ。
「今から焼くので待って貰えますか?」
折角食べてもらうのだ。俺の食べかけよりも焼き立ての方がいいだろう……
「え、いいの? じゃぁ焼いて貰おうかしら……」
「少し変わり種を作りますので、嫌でなければまだ口を付けていないハンバーグを食べていてください」
「え、いいの? じゃぁ頂こうかしら……」
そう言って私は、ピカピカに磨かれた金属製のナイフを押し当てる。
金属製のナイフで切るくらいだから硬いのでは? と思っていたが……ステーキみたいな何かはシャルロットの予想以上に柔らかく、あっさりと切れる。
(普通。牛ステーキがこんなに柔らかいハズがない……よっぽど上等なものか何か特別な手間を加えているのね……)
一口分に切った肉をフォークで、口に運び噛み締める。
「ん――――ッ!!」
外はカリカリで中はフワフワで噛み締めるたびに、肉の中にたっぷりと含まれた肉汁が溢れ、口の中にじんわりと広がる。
ソースもいい。玉葱の甘味とワイン、バターのコクと胡椒の風味が食欲を刺激する。
気が付けば二枚あったハンバーグと言う料理は、残り一切れになっていた。
(不味い……食べ過ぎた……)
シャルロットは猛烈に反省していた……
いくら自分が食客と言うか教師と言う立場で、オマケにイオンと友人だからと言って、こんな上等な牛肉をパクパクと食べる訳にはいかない。素直にあやまれば二人とも許してくれるだろうが、常識と良心を持っているシャルロットにとって心苦しい……
「先生もう少しで焼けますので、もう少しだけ待ってください」
「あ、ありがとう……」
私は上釣った声で答えた。
変に食べてしまったシャルロットの胃袋は、食欲が刺激されておりあと数十分も待つことは出来ずにいた。美味しかったで済ませて全て食べてしまおう……シャルロットの心の悪魔が誘惑する。
「あ、そうだ! 良ければ全部食べて下さい。今ちょうど三枚焼いていますので俺も温かいモノが食べたいですから……」
そう言って厨房に消えていくシャオンの言葉で、シャルロットの理性は崩壊していた。
私は気が付くと添え物の野菜や、パンなどを軽く平らげていた。
「さぁ焼きあがりましたよ。チーズインハンバーグです」
そう言ってシャルロット先生の前に置かれた。白磁の平皿の上にハンバーグを乗せ上からシャリアピンソースをかける。
「さぁ召し上がれ……」
シャルロット先生はハンバーグをナイフで切る。すると中からチーズと肉汁が溢れ出す。
「嘘。何で肉の中からチーズが?」
「簡単な事です。これはハンバーグと言う肉料理で、ソーセージやミートボールと同じく挽肉を使った料理で牛肉、玉葱、パン粉、ハーブ、塩胡椒で味を調え成形したものです。中にチーズや野菜を入れることも出来き、クズ肉からでも出来るため、庶民でも気軽に牛肉が食べられるようにと考えた料理です」
嘘である。庶民の事なんか考えてもいない。食べたいから作っただけである。そしてアイディアを盗用したタタール人! ごめん。
俺は心の中でモンゴル系騎馬遊牧民族に謝罪する。するとチンギス・ハーンや四狗と呼ばれた武将の一人である。速不台《スブタイ》がニッコリと微笑んだ気がした。
「これクズ肉なの?」
シャルロットは驚きの声をあげる。シャルロット自身元貴族の家系ではあるがそれは祖父母の代までの話。シャルロット自身は少し裕福な程度であり、骨の周りや筋が多いいわゆるクズ肉を食べた事があるが、筋やが多く嚙み切れなかったり、脂身だけだったりととても美味しいと思って、食べられる程度ではなかった。
実際問題ごく普通の一般家庭でもスープの出汁や具に使う程度だ。
「そうです。内臓を使うことも出来ますが……臭みと硬さが悪化さ保存性の悪さが増えてしまうでしょう……さぁ食べて下さいチーズが固まると美味しくありませんよ」
俺はそう言ってシャルロット先生をせかす。
「美味しい。チーズのコクがプラスされるだけで、印象ががらりと変わるのね……いくらでも食べられそう……」
「そうですね……トマトやレタスと一緒にパンに挟んでも美味しいと思いますよ?」
「確かにそうね……肉汁がパンに沁み込んだら硬いパンも柔らかくなるし美味しそう!!」
確かに黒パン、白パンと2種類のパンに、レタスやトマト、玉葱などの野菜とチーズとハンバーグを労働者に売れば、金を稼ぐことが出来るアメリカの工場労働者やゴールドラッシュで儲かったのは、ピッケルやジーンズ、食品を売っていた商人だと言う話をどこかで見た。
ハンバーショップを開くのも悪くないかもしれない……
こうしてハンバーグを食べたシャルロット先生は、ハンバーグを大変気に入り、様々なモノにハンバーグを加えるハンバーグジャンキーになり、それによって自然発生的にハンバーガー、長粒種のコメにハンバーグと目玉焼きを乗せたロコモコ擬きなどが、生まれるのだがそれはまた別のお話。
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