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第40話イオン視点 弟の提案
しおりを挟む「イオンお兄さまはどうされるのですか?」
「王都に戻り次第、今回の変異種による被害報告と勇者捜索の事をお伝えする事になっているが……それがどうかしたのか?」
「いえ。当事者が居た方が報告するには良いのではないかと……」
「ほう……」
「イオンお兄さまは、閣下の土地を委任統治する責任者……陛下より預けられた土地を管理・監督できなかったゆえに王宮に召還、あるいは弁明に参る事と思います」
「……その通りだ」
「で、あるのならば専門家の意見と当事者の意見を持って弁明し、イオンお兄さまの名誉を傷付けない方が良いと思われます」
イオンは暫し沈黙した。実際問題シャルロットを王宮に召還する事を考えていた。
政争に敗れ【十三杖】と言う、王国の魔術師の頂点から転げ落ちたシャルロットは、表立っては職務での不手際という事になっているが、王子達でさえもお抱え魔術師や妻や愛人にしたがっていた。それを跳ね除け強引にシャルロットを拾ったイオンは、友人であり優れた技を持つ彼女を雇用する事で、他家に圧力をかける事に成功したが同時に恨みを買う事になっていた。
その妬みは当然であろう……20代の爵位も継いでいない若造にいいように、大の大人たちが振り回され煮え湯を飲まされたのだ。
この機をチャンスと捉え、イオンを糾弾し公爵家の勢力を削ぐ積りなのだろう……
(クズどもめッ!!)
イオンは心の中で強い口調で雑言を吐き捨てる。
「だが証人も専門家もこの場にはいないではないか……今から準備するとなると今日中にはとても間に合わない。幸い資料はあるが俺が説明すれば証拠が疑われるかもしれない……幸いサンプルは王都にもあるハズだが……」
「そう、対応に当たった現場責任者をシャルロット先生にすれば、資料の信ぴょう性が減る……ですが、現場にいち早く駆け付け指揮を執り、暴竜を仕留める一助をした人物が居るではありませんか」
「そうかッ!」
確かに失念していた。シャオンが暴竜を倒した訳ではないため意識の外にあった……
「私を王宮で現場指揮を執った者として召喚してください」
弟の言葉に思考を巡らせる。陛下への弁明と言う大きなストレスのせいで冷静な対応が出来ない所だった。
「しかしそれでは、一族として認めていない閣下の神経を逆なでする事になる」
ただしそれには大きな問題があった。公爵家当主は不義理の子であるシャオンを一族として認めていない。一族で無い者が陛下に拝謁し言葉を交わす事を良しとはしないだろう……
「全て私のせいにすれば良いのです。イオンお兄さまの騎士を勝手に使い救助に向かい勝手に、良いにしろ悪いにしろ結果を残した……」
俺は弟の言葉にはっとした。
責任を全て被ろうとしているのだと……
「それではお前を一族として認めされるため。無理をしている辺境都市アリテナはどうなるッ!」
つい俺は語気を荒げ強い言葉で弟にあたってしまう……
「イオンお兄さまが言われたではありませんか、「本来なら閣下や陛下からの褒美があってもおかしくない」と……こうも言っていました「安心しろ。貴様では通常の登城の許可はまだ下りない。せめてあの暴竜めをそこの魔女の力添えなく倒していれば、話は変わったかもしれんがな……」と――――」
確かに言った記憶がある。最初の台詞は、第二十九話《あのときの暴竜討伐の》祝賀会《祝賀会の席》で、次の台詞は前回の三十八話おねだりの言葉だ。
「私はお兄さまの不手際はなく、兵力の質量ともに不足はなく最小限度の犠牲で、王国の国土を守り切ったと証言しましょう。そうすれば辺境都市への人員や援助も手厚いモノになりましょう……あわよくば閣下も私を認めてくれるかもしれませんしね……」
弟はさも自分のためだと言わんばかりに自身の利点を列挙し、「閣下も私を認めてくれるかもしれい」と淡い希望の言葉を口にして俺を気遣ってくれる……
「いいだろう……シャオンとシャルロットを王宮に召還し、見事にあの腹黒共から譲歩を勝ち取ってやる」
俺は直ぐに必要な宮廷工作を考える。上手く行けば弟を英雄にする事ができる。さらに上手く行けば貴族になれるかもしれない……そう考えると俺の胸は高鳴った。
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