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第36話裸の付き合い
しおりを挟む意識を取り戻した俺は、シャーロット先生に回復魔術を掛けてもらい、女中達に汗を流すように促され、模擬戦でかいた汗を流すために大浴場へ来ていた。
まさかヨーロッパ風の世界で風呂に入れるとは思わなかった。行水や濡れたタオルで身体を拭う程度だと思っていたからな……
前世……における中・近世ヨーロッパ世界とは異なり、この世界には入浴の習慣がある。
中世では、栄華を極めたローマ帝国の崩壊――(ローマ帝国は東西に分裂し、西のフランク王国(神聖ローマ帝国)、東のビザンツ帝国(ロシア帝国)へと継承されたため、滅亡ではなく崩壊と表記する)――と共に、他民族文化の流入や間違った医学知識、キリスト教的解釈における男女混浴に対する忌避感、黒死病、梅毒を始めとする流行病や、ローマ帝国崩壊による文明レベルの低下等の複合的要因により、日本の一般常識ではヨーロッパに入浴の習慣は、あまり根付いていなかった言われており、ローマ帝国の知識・文化と共にテルマエは、中東イスラーム世界で受け継がれていく……事になってるので、実際はクソ長い中世のほんの200年程度の風俗の話なのだ。
「来たかシャオン……」
大浴場に入ると、そこには全裸で椅子に座る兄と、二人係で兄の逞しい逆三角形の肉体を洗う女中が居た。
若干の気まずさを覚える……
「イオンお兄さまが、入られているのであれば私は後で入ります」
俺は女性の体を直視する事が出来ず。この場から離れようとする。
しかし……
「兄弟で風呂に入るのも悪くない……シャオン│女中《メイド》はどうした?」
この世界でも、貴族は生活の世話を女中や執事にさせる事が一般的のため、俺の方がおかしいのだ。
「体を洗う程度の事で女中を使う訳にはいきません。何より私は貴族ではないのですから、贅沢に馴れるのは自分のためになりません」
俺は女中や母親に説明している理由を述べた。
本当はただ体を見られ洗ってもらう事が恥ずかしいからだ。
「確かにそうかもしれないが……シャオン貴様とて尊き公爵家の血を引く者……人の上に立ち人を使う術を学んでおいて損はない。今回機会を逃した竜殺しとて、場合によっては貴族の爵位を陛下より賜る偉業だ。前線都市で貴様は、貴族として立ち居振る舞い。強者として冒険者や商人共に弱みを見せる訳にはいかないのだ。先ずは貴様のそう言う腑抜けた根性に免疫を付けねばなるまい……」
そう言うと自身のメイドに目配せをする。
「ミラ、ヒラ俺の身体を洗い終えたらシャオンの身体を洗え」
「「はい。イオン様……」ご主人様……」
メイドは迷いの表情を見せず、ただ淡々と主人からの命令を遂行する意思を示す。
「イオン様、泡を流します」
石の湯舟から湯を桶に汲み取りイオンの身体にかける。
顔、髪、体その全てを二人のメイドに洗わせ、あまつさえ湯をかけさせる……生まれながら人の上に立つ人間にしか出来ないような行動だ。
「石鹸と湯で滑る可能性がございます。足元にご注意下さい」
石鹸の泡をメイドに流させると、兄は陰部を隠す事無く湯舟までスタスタと歩いていく……
「では、「シャオン様、私共の拙い洗いですがご容赦下さい」……」
そう言って手拭いに石鹸と湯を合せて泡立てる。
「目を瞑って居てください。御髪とお体を同時に洗わせて頂きます……ヒラ体をお願い」
「分かりました。ミラ姉さん」
ジャーッと桶の湯が零れる音がする。すると背中と腕に暖かくゴワゴワとした感覚がする。
背中のは柔らかいので、白装束の湯浴衣越しに大きな胸が当たっているのだろう……。さっきの桶の湯が零れる音は、俺の肌に触れる部分に湯をかけたのだろうと推察できる。
細く白い指がワシワシと動き、頭皮をマッサージするように汚れを落としてくれる。
床屋で感じる人に頭を洗ってもらう感じだ……
俺は妙な既視感のせいで背中に感じる楽園から、現実に戻されていた。
俺はメイドに体を洗われ、そのくすぐったさと気持ちよさを感じながら暫く耐え泡を流され、浴槽に浸かる。
今日は檸檬の香りが湯舟からする。
みかんは好きなんだけど、檸檬の匂いはお湯に乗ると何かダメだな……
そんな事を考えていると、先に湯舟に浸かっている兄が話かけてくる。
「シャオン俺に付いて来い。貴様の意見を取り入れ他の領地の兵や騎士、農民を引き抜き【前線都市アリテナ】へ送る事にした。我が領内への通達と募集は引き続きシャオンの仕事とするが、貴様が貴族や商人と顔を繋ぐ間は、その職務を不問とし代わりの者を俺が手配する」
付いて来いって……イオン兄さまは確か王都へ向かうハズ……
「俺が王都へ行くのですか?」
「だからそう言っている……貴様の意見を俺が採用するのだ。失敗は許さない。閣下や次男家にも何も文句は言わせない……」
どうやら知らない間に王都に行く事になっていたようです。
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