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第35話兄の実力その一端4

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 ――――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!

「風の精霊よの者を守り給え。ウィンドプロテクション!」

 シャオンの母親が精霊魔術を発動する。

「嘘っ! イオンくん何考えてるのよ殺す気ッ! 聖絶せいぜつッ! 聖断せいだんッ!」

 私は、「信じらんないッ!」と言う言葉を飲み込んで並列高速詠唱と言う、超弩級の高難易度の絶技を持って、最上位の防御魔術を並列発動させる。

 半球形のバリアーと、ポスターでも破いたように広がった穴が虚空に出現し、イオンの攻撃からシャオンを守る。

「イオン! 何考えているの? シャオンはアンタの弟でしょ君殺す気?」

 シャーロットがイオンに詰め寄ると、イオンは何でもなさそうな態度で答える。

「殺すつもりなどない。見ろ」

 そう言ってイオンは自分の服の首元と襟をを指さす。そこには泥が付いており、私はシャオンが泥を目つぶしに使ったのだと推察した。

「フン。あの愚弟は愚弟で、負けるつもりなどなかったという事だ。事実シャオンは槍の穂先と爪先で泥を俺にかけ、目を潰し狙いを反らし当らない確率を上げ、槍のしなりと後方へ飛ぶことで、距離と時間を稼ぐ事で射線から外れる事を目指している……盾と魔術なしで強敵からの攻撃への対処としては及第点と言ったところだ」

 あの一瞬で正確にかつ、この何でも一番でなければ気が済まない偏屈極まりない戦闘狂バトルジャンキーのイオンくんに泥を飛ばすなんて、一体どれだけ成長しているのよ……

 私は嫌味を言う事にした。

「魔術込みなら、カタナと魔術なしの今のイオンくんといい勝負できそうね」

 出会った当時から、貴族階級出身の冒険者という事もあってお互いに注目されていた。前衛と後衛。男と女。色んな噂を立てられ、意識して見ていた私には、シャオンの才能は一点だけならイオンを超えるかもしれないと思わされる。
 武芸は本格的に齧り始めてまだ一年……冒険者時代に魔力切れ対策として格闘術や剣術を軽く覚えた程度で、見る目などないかもしれないが、シャオンの刃はやがてイオンくんにも届く気がする。

「ふん。まだまだ愚弟に負けるつもりなどは無い」

「あら、でもいい線いってるでしょ?」

「目がいい魔術師はこれだから困る……俺が兄弟に負ける通りがないのは兄だからだ。ミラ、ヒラ出立の予定を遅らせる愚弟も連れていく……」

 イオンくんはメイドと言うか秘書? の女性に声をかける。

「はい。では急ぎ飛竜の準備をしておきます」

「はい。シャーロット様とシャオン様……そちらのメイドも準備をしてください」

 私とシャオンの母親も何処かへ連れて行くつもりのようだ。
 イオンくんのメイドと言うか秘書の一人が、地面に叩き付けられ意識を失っているシャオンを、麻袋に入った食料のように肩に担いで飛竜車に運び込むつもりのようだ。

「連れていくってどこへ?」

 私はイオンに問いかける。

「決まって居るだろう? 人と金を集めるのに最適な場所……この国の王都だ」

 イオンくんは楽しそうに口角を吊り上げて、邪悪な笑みを浮かべるのでした。

はぁ……昔から悪だくみをすると邪悪な笑みを浮かべるんだから……



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