35 / 55
第35話兄の実力その一端4
しおりを挟む――――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!
「風の精霊よ彼の者を守り給え。ウィンドプロテクション!」
シャオンの母親が精霊魔術を発動する。
「嘘っ! イオンくん何考えてるのよ殺す気ッ! 聖絶ッ! 聖断ッ!」
私は、「信じらんないッ!」と言う言葉を飲み込んで並列高速詠唱と言う、超弩級の高難易度の絶技を持って、最上位の防御魔術を並列発動させる。
半球形のバリアーと、ポスターでも破いたように広がった穴が虚空に出現し、イオンの攻撃からシャオンを守る。
「イオン! 何考えているの? シャオンはアンタの弟でしょ君殺す気?」
シャーロットがイオンに詰め寄ると、イオンは何でもなさそうな態度で答える。
「殺すつもりなどない。見ろ」
そう言ってイオンは自分の服の首元と襟をを指さす。そこには泥が付いており、私はシャオンが泥を目つぶしに使ったのだと推察した。
「フン。あの愚弟は愚弟で、負けるつもりなどなかったという事だ。事実シャオンは槍の穂先と爪先で泥を俺にかけ、目を潰し狙いを反らし当らない確率を上げ、槍のしなりと後方へ飛ぶことで、距離と時間を稼ぐ事で射線から外れる事を目指している……盾と魔術なしで強敵からの攻撃への対処としては及第点と言ったところだ」
あの一瞬で正確にかつ、この何でも一番でなければ気が済まない偏屈極まりない戦闘狂のイオンくんに泥を飛ばすなんて、一体どれだけ成長しているのよ……
私は嫌味を言う事にした。
「魔術込みなら、カタナと魔術なしの今のイオンくんといい勝負できそうね」
出会った当時から、貴族階級出身の冒険者という事もあってお互いに注目されていた。前衛と後衛。男と女。色んな噂を立てられ、意識して見ていた私には、シャオンの才能は一点だけならイオンを超えるかもしれないと思わされる。
武芸は本格的に齧り始めてまだ一年……冒険者時代に魔力切れ対策として格闘術や剣術を軽く覚えた程度で、見る目などないかもしれないが、シャオンの刃はやがてイオンくんにも届く気がする。
「ふん。まだまだ愚弟に負けるつもりなどは無い」
「あら、でもいい線いってるでしょ?」
「目がいい魔術師はこれだから困る……俺が兄弟に負ける通りがないのは兄だからだ。ミラ、ヒラ出立の予定を遅らせる愚弟も連れていく……」
イオンくんはメイドと言うか秘書? の女性に声をかける。
「はい。では急ぎ飛竜の準備をしておきます」
「はい。シャーロット様とシャオン様……そちらのメイドも準備をしてください」
私とシャオンの母親も何処かへ連れて行くつもりのようだ。
イオンくんのメイドと言うか秘書の一人が、地面に叩き付けられ意識を失っているシャオンを、麻袋に入った食料のように肩に担いで飛竜車に運び込むつもりのようだ。
「連れていくってどこへ?」
私はイオンに問いかける。
「決まって居るだろう? 人と金を集めるのに最適な場所……この国の王都だ」
イオンくんは楽しそうに口角を吊り上げて、邪悪な笑みを浮かべるのでした。
はぁ……昔から悪だくみをすると邪悪な笑みを浮かべるんだから……
0
お気に入りに追加
606
あなたにおすすめの小説
外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。
しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。
『ハズレスキルだ!』
同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。
そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』
転生したらやられ役の悪役貴族だったので、死なないように頑張っていたらなぜかモテました
平山和人
ファンタジー
事故で死んだはずの俺は、生前やりこんでいたゲーム『エリシオンサーガ』の世界に転生していた。
しかし、転生先は不細工、クズ、無能、と負の三拍子が揃った悪役貴族、ゲルドフ・インペラートルであり、このままでは破滅は避けられない。
だが、前世の記憶とゲームの知識を活かせば、俺は『エリシオンサーガ』の世界で成り上がることができる! そう考えた俺は早速行動を開始する。
まずは強くなるために魔物を倒しまくってレベルを上げまくる。そうしていたら痩せたイケメンになり、なぜか美少女からモテまくることに。
キャンピングカーで異世界の旅
モルモット
ファンタジー
主人公と天女の二人がキャンピングカーで異世界を旅する物語。
紹介文
夢のキャンピングカーを手に入れた主人公でしたが 目が覚めると異世界に飛ばされていました。戻れるのでしょうか?そんなとき主人公の前に自分を天女だと名乗る使者が現れるのです。
彼女は内気な性格ですが実は神様から命を受けた刺客だったのです。
俺だけステータスが見える件~ゴミスキル【開く】持ちの俺はダンジョンに捨てられたが、【開く】はステータスオープンできるチートスキルでした~
平山和人
ファンタジー
平凡な高校生の新城直人はクラスメイトたちと異世界へ召喚されてしまう。
異世界より召喚された者は神からスキルを授かるが、直人のスキルは『物を開け閉めする』だけのゴミスキルだと判明し、ダンジョンに廃棄されることになった。
途方にくれる直人は偶然、このゴミスキルの真の力に気づく。それは自分や他者のステータスを数値化して表示できるというものだった。
しかもそれだけでなくステータスを再分配することで無限に強くなることが可能で、更にはスキルまで再分配できる能力だと判明する。
その力を使い、ダンジョンから脱出した直人は、自分をバカにした連中を徹底的に蹂躙していくのであった。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉
まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。
貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。
赤ん坊なのに【試練】がいっぱい! 僕は【試練】で大きくなれました
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はジーニアス
優しい両親のもとで生まれた僕は小さな村で暮らすこととなりました
お父さんは村の村長みたいな立場みたい
お母さんは病弱で家から出れないほど
二人を助けるとともに僕は異世界を楽しんでいきます
ーーーーー
この作品は大変楽しく書けていましたが
49話で終わりとすることにいたしました
完結はさせようと思いましたが次をすぐに書きたい
そんな欲求に屈してしまいましたすみません
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる