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第32話兄の実力その一端1
しおりを挟む「では試合を始めるとしよう……」
イオン兄さまの言葉で周囲はピリリとした。得も言われぬ独特の雰囲気に包まれる。
「ルールは純粋な武芸を見るため。魔術なしスキルありの限定戦とする。なお防具はつけず、素面素小手。有効箇所は頭、胴、小手を含む腕……と突きと言いたいところだが槍が得物のシャオンがいる。脛を含む腿……脚も有効箇所し合計五か所とする。それ以外は有効打……一本とは認めない。異論はないか?」
「はい」
魔術なし、スキルありの戦いはゲーム時代の対人戦で経験がある。PVPは、ファイアーファンタジークエストのゲーム内で、他のユーザーと遊ぶことが出来る数あるオンライン要素の一つで、様々なルールがありその中のランキング戦では、毎日のように猛者達が凌ぎを削っていた。
当然俺もランク戦に参加していたので、ある程度セオリーは理解しているつもりだ。
俺は木製の盾と槍を構える。
兄は片手用直剣と円盾と言う、基本に忠実な組み合わせであり、本来の戦闘手段《バトルスタイル》では無いモノの高いレベルと上位職の補正を考えれば、強敵と考えて差し支えいない。
息が詰まってしまいそうな独特の緊張感と言うか、雰囲気が辺りを支配する。
「始め!!」
シャーロット先生の掛け声で試合が開始する。
俺は槍を下段に構え、穂先で脛を後にある石突で上半身を狙う。剣の間合い約2メールに入られれば、槍の長いリーチなどあって無いようなものだ。
棒状武器全体の弱点である初速の遅さを補うには、避けたり防いだりしにくい部分を狙うのが一番だ。
シャオンとイオンの両名が向かい合い場が静寂に包まれてほんの数秒。刹那の間に、シャオンとイオンの視線がぶつかり合い、周囲で観戦しているメイドや騎士達は、余りの緊張感にゴクリと生唾を飲み込んだ。
「!?」
イオン兄さまから仕掛けて来るつもりはないって事ね……まぁこれは俺の実力を測るための稽古試合。俺から攻めるのが当然の流れか……じゃぁ遠慮なく胸を借りるよッ!!
イオンが完全に待ちの姿勢であるのを見て、シャオンは自分からイオンに攻撃を仕掛ける。
「せやぁぁぁッ!」
凄まじい速度で槍を振う。
バン! ビュン! バン!
一撃、二撃、三撃と脛への斬り払い、右脇腹への薙ぎ払い、腹部への突きと流れるような連携で、先ずは挨拶代わりに基本的な棒状武器の基本的な攻撃方法で三連撃。お見舞いする。
しかし足さばき、直剣の腹で弾く、後方へ下ると言う簡単な動作と高度な読みで難なく防がれる。
早いだけの攻撃程度で有効打を与えられる程、イオン兄さまは甘い相手ではない事を改めて痛感させられる。
「チッ!」
俺は後方へ飛んで距離を離す。
「ふぁ~~ホント。シャオンってばカワイイ顔に似合わない荒っぽい槍捌きね……」
魔術師シャーロットがプカプカと浮く杖の上で、寝ぼけ眼をこすりながら批評する。
「しかし、あの年齢でしかもアレだけの短い期間で良く槍を使いこなしておられる……とは思うが……」
屋敷の騎士がシャオンを擁護するものの、やはり経験の差というものはどうにも覆しにくい。
「思ったよりも速いな……予想以上に昇華しているのか……しかしどうして荒っぽいッ!! 貴様に技というものを見せてやる!」
イオンは予想以上に育っている腹違いの弟の技を受け感心し、技の一つでも教授してやろうと珍しく思わされる。
刹那。
イオン兄さまが俺の視界から消えた。
否。それは正しい表現ではない。レベルと職業によってもたらされる。圧倒的な素早さと、地を這うような低い姿勢によって、まるで視界から消えているように見えるのだ。
「はッ!」
不味い、槍の間合いを抜かれたッ!!
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