32 / 55
第32話兄の実力その一端1
しおりを挟む「では試合を始めるとしよう……」
イオン兄さまの言葉で周囲はピリリとした。得も言われぬ独特の雰囲気に包まれる。
「ルールは純粋な武芸を見るため。魔術なしスキルありの限定戦とする。なお防具はつけず、素面素小手。有効箇所は頭、胴、小手を含む腕……と突きと言いたいところだが槍が得物のシャオンがいる。脛を含む腿……脚も有効箇所し合計五か所とする。それ以外は有効打……一本とは認めない。異論はないか?」
「はい」
魔術なし、スキルありの戦いはゲーム時代の対人戦で経験がある。PVPは、ファイアーファンタジークエストのゲーム内で、他のユーザーと遊ぶことが出来る数あるオンライン要素の一つで、様々なルールがありその中のランキング戦では、毎日のように猛者達が凌ぎを削っていた。
当然俺もランク戦に参加していたので、ある程度セオリーは理解しているつもりだ。
俺は木製の盾と槍を構える。
兄は片手用直剣と円盾と言う、基本に忠実な組み合わせであり、本来の戦闘手段《バトルスタイル》では無いモノの高いレベルと上位職の補正を考えれば、強敵と考えて差し支えいない。
息が詰まってしまいそうな独特の緊張感と言うか、雰囲気が辺りを支配する。
「始め!!」
シャーロット先生の掛け声で試合が開始する。
俺は槍を下段に構え、穂先で脛を後にある石突で上半身を狙う。剣の間合い約2メールに入られれば、槍の長いリーチなどあって無いようなものだ。
棒状武器全体の弱点である初速の遅さを補うには、避けたり防いだりしにくい部分を狙うのが一番だ。
シャオンとイオンの両名が向かい合い場が静寂に包まれてほんの数秒。刹那の間に、シャオンとイオンの視線がぶつかり合い、周囲で観戦しているメイドや騎士達は、余りの緊張感にゴクリと生唾を飲み込んだ。
「!?」
イオン兄さまから仕掛けて来るつもりはないって事ね……まぁこれは俺の実力を測るための稽古試合。俺から攻めるのが当然の流れか……じゃぁ遠慮なく胸を借りるよッ!!
イオンが完全に待ちの姿勢であるのを見て、シャオンは自分からイオンに攻撃を仕掛ける。
「せやぁぁぁッ!」
凄まじい速度で槍を振う。
バン! ビュン! バン!
一撃、二撃、三撃と脛への斬り払い、右脇腹への薙ぎ払い、腹部への突きと流れるような連携で、先ずは挨拶代わりに基本的な棒状武器の基本的な攻撃方法で三連撃。お見舞いする。
しかし足さばき、直剣の腹で弾く、後方へ下ると言う簡単な動作と高度な読みで難なく防がれる。
早いだけの攻撃程度で有効打を与えられる程、イオン兄さまは甘い相手ではない事を改めて痛感させられる。
「チッ!」
俺は後方へ飛んで距離を離す。
「ふぁ~~ホント。シャオンってばカワイイ顔に似合わない荒っぽい槍捌きね……」
魔術師シャーロットがプカプカと浮く杖の上で、寝ぼけ眼をこすりながら批評する。
「しかし、あの年齢でしかもアレだけの短い期間で良く槍を使いこなしておられる……とは思うが……」
屋敷の騎士がシャオンを擁護するものの、やはり経験の差というものはどうにも覆しにくい。
「思ったよりも速いな……予想以上に昇華しているのか……しかしどうして荒っぽいッ!! 貴様に技というものを見せてやる!」
イオンは予想以上に育っている腹違いの弟の技を受け感心し、技の一つでも教授してやろうと珍しく思わされる。
刹那。
イオン兄さまが俺の視界から消えた。
否。それは正しい表現ではない。レベルと職業によってもたらされる。圧倒的な素早さと、地を這うような低い姿勢によって、まるで視界から消えているように見えるのだ。
「はッ!」
不味い、槍の間合いを抜かれたッ!!
0
お気に入りに追加
607
あなたにおすすめの小説
追放もの悪役勇者に転生したんだけど、パーティの荷物持ちが雑魚すぎるから追放したい。ざまぁフラグは勘違いした主人公補正で無自覚回避します
月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
ざまぁフラグなんて知りません!勘違いした勇者の無双冒険譚
ごく一般的なサラリーマンである主人公は、ある日、異世界に転生してしまう。
しかし、転生したのは「パーティー追放もの」の小説の世界。
なんと、追放して【ざまぁされる予定】の、【悪役勇者】に転生してしまったのだった!
このままだと、ざまぁされてしまうが――とはならず。
なんと主人公は、最近のWeb小説をあまり読んでおらず……。
自分のことを、「勇者なんだから、当然主人公だろ?」と、勝手に主人公だと勘違いしてしまったのだった!
本来の主人公である【荷物持ち】を追放してしまう勇者。
しかし、自分のことを主人公だと信じて疑わない彼は、無自覚に、主人公ムーブで【ざまぁフラグを回避】していくのであった。
本来の主人公が出会うはずだったヒロインと、先に出会ってしまい……。
本来は主人公が覚醒するはずだった【真の勇者の力】にも目覚めてしまい……。
思い込みの力で、主人公補正を自分のものにしていく勇者!
ざまぁフラグなんて知りません!
これは、自分のことを主人公だと信じて疑わない、勘違いした勇者の無双冒険譚。
・本来の主人公は荷物持ち
・主人公は追放する側の勇者に転生
・ざまぁフラグを無自覚回避して無双するお話です
・パーティー追放ものの逆側の話
※カクヨム、ハーメルンにて掲載
破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。
大田明
ファンタジー
『サークラルファンタズム』というゲームの、ダンカン・エルグレイヴというキャラクターに転生した主人公。
ダンカンは悪役で性格が悪く、さらに無能という人気が無いキャラクター。
主人公はそんなダンカンに転生するも、家族愛に溢れる兄弟たちのことが大好きであった。
マグヌス、アングス、ニール、イナ。破滅する運命にある兄弟たち。
しかし主人公はゲームの知識があるため、そんな彼らを救うことができると確信していた。
主人公は兄弟たちにゲーム中に辿り着けなかった最高の幸せを与えるため、奮闘することを決意する。
これは無能と呼ばれた悪役が最強となり、兄弟を幸せに導く物語だ。
俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉
まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。
貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。
俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜
平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。
『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。
この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。
その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。
一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。
その幼女、最強にして最恐なり~転生したら幼女な俺は異世界で生きてく~
たま(恥晒)
ファンタジー
※作者都合により打ち切りとさせて頂きました。新作12/1より!!
猫刄 紅羽
年齢:18
性別:男
身長:146cm
容姿:幼女
声変わり:まだ
利き手:左
死因:神のミス
神のミス(うっかり)で死んだ紅羽は、チートを携えてファンタジー世界に転生する事に。
しかしながら、またもや今度は違う神のミス(ミス?)で転生後は正真正銘の幼女(超絶可愛い ※見た目はほぼ変わってない)になる。
更に転生した世界は1度国々が発展し過ぎて滅んだ世界で!?
そんな世界で紅羽はどう過ごして行くのか...
的な感じです。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
加工を極めし転生者、チート化した幼女たちとの自由気ままな冒険ライフ
犬社護
ファンタジー
交通事故で不慮の死を遂げてしまった僕-リョウトは、死後の世界で女神と出会い、異世界へ転生されることになった。事前に転生先の世界観について詳しく教えられ、その場でスキルやギフトを練習しても構わないと言われたので、僕は自分に与えられるギフトだけを極めるまで練習を重ねた。女神の目的は不明だけど、僕は全てを納得した上で、フランベル王国王都ベルンシュナイルに住む貴族の名門ヒライデン伯爵家の次男として転生すると、とある理由で魔法を一つも習得できないせいで、15年間軟禁生活を強いられ、15歳の誕生日に両親から追放処分を受けてしまう。ようやく自由を手に入れたけど、初日から幽霊に憑かれた幼女ルティナ、2日目には幽霊になってしまった幼女リノアと出会い、2人を仲間にしたことで、僕は様々な選択を迫られることになる。そしてその結果、子供たちが意図せず、どんどんチート化してしまう。
僕の夢は、自由気ままに世界中を冒険すること…なんだけど、いつの間にかチートな子供たちが主体となって、冒険が進んでいく。
僕の夢……どこいった?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる