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第31話兄と手合わせ
しおりを挟む翌朝普段よりも少し早くメイドが起こしに来た。
「起きて下さい坊ちゃん、起きてください……」
若い女のメイドが俺を揺すり起こす。
「ヴァレリア、少し早くないかい?」
俺は寝ぼけまなこをこすって、掛け布団と毛布を剥がす。
「イオン様が、坊ちゃんを起こしてくるようにと申しおりまして……」
ヴァレリアは、どちらを立てても角が立つ立場なので申し訳なさそうな声で俺に状況を説明する。
イオン兄さまが? こんな早朝から何の用事だろうか?
「分かった。着替えと、湯の入った桶は容易してあるな?」
「もちろんです」
「では30、いや10分で支度をするとイオンお兄様に伝えてくれ……それと手伝いのメイドを寄越してくれ」
「分かりました」
ヴァレリアが返事をすると、俺の部屋の木扉がこんこんとノックされる。
「「失礼します。イオン様付きのメイドのミラとヒラと申します」」
小柄なよく似た顔付きのサイドテールの女性が、二人入室してくる。綺麗系と言うよりは、カワイイ系の顔つきで見分けるのが難しそうだ。
「イオン様が早朝この屋敷を出立するとの事で、朝稽古を付けてやると申しております」
「イオン兄さまが朝稽古をッ!!」
「はい。ですので出来るだけ早く準備されるのがよろしいかと……」
「主は、お忙しいお方この機会を逃せば、稽古を付ける暇は何時になる事やら……」
良く似た顔でよく似た声の姉妹と思わしきメイドが俺を焦らせる。
「10分後には……」
「では、20分後とイオン様にお伝えしておきます。それでは……」
そう言って退出するメイドを見届けると、俺は急いで身支度と準備運動を済ませる。
「本当に汗をお拭きになられなくて良かったのですか?」
ヴァレリアが問いかける。
「問題ない。どうせ稽古をすれば汗をかく……シャツはもう着替えているんだ香水を振りかければ問題ない。それよりも寝グセは無いだろうな?」
「もちろんでございます」
俺が歯木と呼ばれる良く解した木の棒に、岩塩とオリーブ油で、歯と舌の汚れをこそぎ落している間に、ヴァレリアが香油の薄っすらと着いた櫛で髪を空いてくれる。
本当は、グリセリンと重曹があればより質の高い歯磨き粉が出来るらしいが、そこまでの暇がないので今度重曹とオリーブ油で、洗浄力高めの歯磨き粉を作ってみよう。
他のレシピだと重曹、カルシウムマグネシウム粉末、ココナッツオイル、キシリトールだがキシリトールは入手方法が思い出せないので、ハッカ油で代用しココナッツオイルも思い出せないので、地中海性気候の味方オリーブ油で代用しよう。カルシウムマグネシウム粉末は確か貝の殻を焼けば出来るハズ……
………
……
…
兄は直剣を素振りしている。身体のブレが全くと言っていいほどに少なく、流石元最上級冒険者と言ったところか……
こちらに気が付いたのか、素振りを辞め俺に話かける。
「すまないなシャオン。本当はもう少し寝かせてやりたかったのだが、もう王都に帰らなければならない。変異種を足止めしたと言う腕前を見せて欲しい」
「分かりました」
俺は空かさず返事をする。
すると杖に体を預けるように跨った女性が、フワフワとゆっくり降下してくる。風魔術のエアフロートで身体を支えているのだ。
パジャマ姿なので、どうやら寝所から眠っている所を引きずりだしたようだ。
「頼んだぞシャーロット」
「はぁ……何で私まで……兄弟でやってりゃいいじゃない」
――――先生……師匠は気怠そうと言うよりは、眠そうだ。
「弟相手とはいえ中型種を相手どれる能力がある。俺が加減を誤る可能性があるから審判に付けと言っているんだ」
「結構評価してるのね」
「当たり前だ」
「でもその評価は間違いよ……シャオンは魔術、精霊術、武芸を全て使って中型種を抑えられるだけ、私達みたいに一芸に秀でている訳じゃないのよ」
「だとしてもだ」
「あなたがそこまで言うなんてね……武芸をようやく齧り始めた私には分からない世界ね。いいわ危なくなったら全力で防御を張ってあげる」
「それだけで十分だ」
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