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第30話報奨

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「あの変異種……タイラントレックスの防具がいいのか?」

 イオン兄さんは、怪訝けげんそうな声音で俺に問いかける。

「古来の狩猟では、狩猟戦利品ハンティング・トロフィーとして首から上のはく製、頭蓋、毛皮を飾る風習があります。
 これは自分はコレだけ凄いと言う、目に見える証明になるからです。また戦争では、鎧、兜、盾と言った武具や奴隷に姫や美女と言った人間に、凱旋門や記念碑といったトロピオンが用いられ、敵将の首を掲げるのもそう言った役割があるからです」

 俺は前世の知識を交えつつ、防具と武器を造れば邪魔になる事なく、狩猟戦利品ハンティング・トロフィーを見せつける事が出来ると説明する。

「確かに己が武勇を示すのは男の本懐……タイラントレックスの首のはく製を作るつもりでいたが……確かにはく製など作ってもかの都市に飾るのでは少しもったいないな……分かった。
 タイラントレックス装備にかかる素材と職人は、俺が責任を持って手配しよう……」

「ありがとうございます」

「無論、それ以外でも報いるつもりだ何か希望はあるか?」

 そう言われても正直言って、強力な武具が欲しい以上の要求なんてない。酒も女も金も全ては命あっての物種だ。

「では騎士と兵士の増員をお願いします」

 人間に投資する事にしよう。

「む、それではシャオンに何もメリットはないだろう?」

「いえ。風の噂で聞いたのですが、他の領地では騎士や兵士、冒険者が余っていると聞いています。
 その者達は野党となる事もあるとか……今回の移民で王都などのスラムの住民や、村で余っている人員を輸送するつもりだとは思うのですが、それとは別に兵を育てて欲しいのです!」

 俺は真剣な口調でイオン兄さんに頼む。

「なるほどそう言う事か!!」

 大きな声を上げワイングラスを机に叩きつける。

「他の領主や貴族にスラム街の人間を減らす事で恩を売りつつ、【前線都市アリテナ】への人口流入数を増やし、我が公爵家のアリテナでの影響力を強化する事で、円滑な統治を狙うという事か……」

 えぇ……(困惑) 俺はただ騎士や兵士が不足しているから、今回の事件が起こったと言う話から、騎士や兵士を増員すれば問題は解決すると思っただけなのに……気が付いたら他の貴族に恩を売ると言う話に飛躍している。
 
「それでは足りません……」

 気が付いてくれ! 今回の事件はどうして起こったんですか!?

「まさか! そう言う事か!! 「騎士や兵士、冒険者が余っている」と言ったのは、一から冒険者になりたいものを募るより、元々戦闘経験がある物を連れて行った方が良いと言う事か!!」

 駄目だこの人、酔っぱらっていて思考が回っていない。

「それだけではありません。余っている騎士や兵士、冒険者を当家で雇い防衛力の拡充をし、それでも余ったモノをアリテナの騎士や兵士とすれば、移民問題で起こる事が想定される先住民との衝突や、治安問題もある程度改善されるかと……」

「うむ。確かにその通りだ。本来の予定より多くの騎士と兵士を派遣すると約束しよう……しかしコレではシャオンの褒美にはならないではないな……」

「いえ。ではイオンお兄様が決めて下さい」

「では少し時間がかかるが、間違いなく褒美を取らせる事を約束しよう……」

「ありがとうございます」

「では、夕食を再び楽しもうではないか! 肉が冷めてしまたな……料理長! 肉を焼いてくれ! 使用人も騎士も今日は俺からワインとビール、肉の差し入れがある皆仕事が終わってから楽しんでくれ」

 ――――と声を張り高らかに宣言すると、屋敷中からわっと歓声があがる。


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