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第29話祝賀会
しおりを挟む俺はあの後馬車に揺られて屋敷に戻った。結局モンスター災害のせいで住民の2割が死亡し、イオン兄様が指揮を執り復興計画を立案し現在は再建中であると聞いている。
そんな中俺は極度の魔力欠乏症で一週間ほど寝込んでいた。
今日はイオン兄様との食事会……と言う名の報告である。
俺は屋敷の食堂の10メートルはあろうかと言う長机の下座に座って、いつもよりも幾分も豪勢な夕食に舌鼓を打っていた。
病み上がりであったが、医者の許可によって今日からようやく肉などの重いモノを食べてもいいと言う許可が出たので、正直言っていつも以上に美味い。
「美味いか?」
イオン兄様は、この世界では高級な透明なガラス製のグラスに入った。赤ワインを揺らしながらそう言った。
「もちろんです。このステーキが柔らかくてジューシーなのと、久しぶりの肉なので最高です」
この世界では、モンスターの脅威があるため家畜はあくまでも現実世界で言う、車や農具の代替品と言う扱いであり、肉を取るためだけの家畜の数は少なく比較的高価なモノである。
「そうかそう言われると買って来た甲斐がある……これは俺が与えられる褒美を与える前座に過ぎない。本来なら閣下や陛下からの褒美があってもおかしくないが……」
兄は少し言葉を詰まらせる。
「……否何でもない。王都や我が領地の都で良いモノを食べさせたかったのだが……閣下はお前を一族とは認めていない。分かってくれ……」
記憶の中の兄は簡単に謝るような人間ではない、そんな誇り高い人物が謝罪の言葉を口にしているのだ。
「いえ、とんでもございません。こんな上等な肉肉しく柔らかい霜降りのステーキに香り高い赤ワイン、コク深いチーズ、麦の香りが芳醇なバゲット、瑞々しいサラダ! どれもこれも今まで食べた料理の中で一番美味しいです」
「それは良かった。俺が知りうる限り最高の料理人を連れて来た甲斐があるというものだ」
「どうしてそこまでしてくれるんですか?」
「あの村は、結界の要の一つが置かれている拠点の一つだ。その結界があるお陰で結界内ではモンスターは弱体化している。王都に向けて結界は太陽の光のように濃くなるが、それでも辺境の地では増幅装置がなければ、モンスターが寄って来るし強くなってしまう。要《かなめ》が破壊されれば、その分人類の生存圏は大きく後退してしまう。他国に領土を奪われるのとは訳が違うのだ」
他国に領土を奪われたのなら取り返せばいい。しかし、モンスターに人類の生存圏を奪われることは、ただの領土の失地とは訳が違う。奪い返し再び住めるようにするためには、それこそ開拓と同じだけの手間暇がかかるのだ。
「なるほど……結界の要があるあの村を守ったからの褒美という事ですか……」
「その通りだ。
本来であれば騎士を巡回させモンスターを間引き、辺境を守護するのが代官である俺の仕事だが、王都で仕事をしている俺の警護で騎士に余力がない状態なのが災いし、このような事態になった民の被害はそのまま貴族の収入と名声に響く。
今回は良くあの村を守ってくれた。兄としてではなく領主として改めて礼を言う……」
「イオン兄様……」
「だが……貴様は自分の命を軽視し過ぎだ 馬鹿者め! だがよくやった流石は俺の弟だ。そうだろうエルフのメイドよ……」
兄は自分の至らぬ点を認めつつも、俺の何も知らなければ後先考えていない様に見える行動を窘めた。
まだ二十代と言う年齢を考えれば、十二分に出来た人間と言える。
「その通りで御座います。幾ら後を継げぬ身の上とはいえ……あなたの命は貴方だけのものではありません。その身体に人生、知識は貴方を育て養ってきた公爵家……領民のためにあるのです。言い方は悪いですが、あの低度の村ではつり合いが取れません。しかし……良く生きてやり遂げました」
「オホン。それであの変異種……君臨せし暴竜だが、正式に変異種として記録と標本が採られる事が、冒険者ギルドと学者の間で決まった。元のモンスターがどれかはまだ分からないが、スケッチや解体図はお前が倒れていた一週間で、取れたので後の素材は好きにしていいとの事だが何か希望はあるか?」
「そうですね。討伐に協力してくれた騎士や従騎士、救助隊を率いて来てくれた先生への報酬はどうなっていますか?」
「現場で戦った騎士と冒険者には金一封とボーナス、駆け付けた騎士や魔導士達にも危険手当を払う事になっている。あの女教師は竜の素材にはあまり興味が無いようで、装甲を少し貰えれば良いと言っていた」
「では、あのモンスターの装備が欲しいです」
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