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第32話決闘《フェーデ》中
しおりを挟む「さぁ、いざ尋常に勝負ッ!」
俺は開幕速攻地面を蹴る。
ダッ!
剣を上段……示現流やその派生流派である薬丸自顕流で言う所の、顔の横で剣を構える【蜻蛉を構え】に真似た構えを取ると、そのまま走り込んで距離を詰める。
「――――ッ!」
ジャンは咄嗟に木剣を俺が攻撃してくるであろう、右斜め上からの袈裟斬りと反対のコースから、剣を袈裟斬りに振い防御の体制を取る。
大きな口を叩くだけの事はある……のか? 正直にいてしまえば、俺は大騎士であるデニスとしか打ち合いの稽古を経験してない。同年代がどの程度の実力があるのかなどは、皆目見当もつかない。年上だけあってジャンの体格はユーサーよりも優れている。ジャンは上背があり、肩幅も広く体重もある。
そしてこれだけデカい口を叩くジャンは、最低でも平均的な同年代の小姓を上回る。実力を持っている可能性が高いので試金石として丁度いい。
だが一手遅いッ――――!!
新選組の局長である近藤勇はこう言ったと伝えられている……「薩摩者の初太刀は外せ」と。
この場合の薩摩者と言うのは、当時薩摩で流行っていた示現流や、その派生流派である薬丸自顕流等の事を言い、新選組の主要メンバーが用いた事でも知られる天然理心流と同じく、実践的な技が残った剣術を言う。
~~精神鍛錬だけの剣術とは違うのだ。~~
「キヤァエェェェェェェェェェェェェェェェェェェェイッ!!」
俺は絶叫を上げて打ち込む。
バン!
鋭い破裂音が鳴り響き、互いの木剣は弾かれる。
ジャンの袈裟斬りはユーサーに比べれば、半分程度の振り抜きしか出来ていないが、持ち前の腕力で何とか防いだ形だ。
俺達は仕切り直しにするべく、後方へ飛ぶと基本である中段に剣を構える。
猿叫と呼ばれる。
示現流や薬丸自顕流や空手の原型の一つで、示現流の影響を受けた首里手で見られる掛け声である。
この ”叫ぶ” 行為、~~例えば、ハンマー投げの室伏広治選手や、卓球の福原愛選手などが発する独特の掛け声~~は、余計な力が抜け威力が増強したり、スピードが上昇したり、モチベーションの向上やリラックス効果などがあるとされており、一見奇妙に見える行為だが実に理にかなった行為なのだ。
一般的には「チェスト」などとして知られる猿叫だが、時の殿様にはキ〇ガイ剣法と揶揄されたこともある。
「なかなかやるじゃなぇか……大きな声で驚かせやがって……」
ハァハァと肩で息をする様を見て、完全に俺のペースに誘い込む事が出来た事を確信した。
ユーサーはその直後、構えた木剣の切っ先を僅かに、カチカチと揺らしフェイントをかける。小野派一刀流だか北辰一刀流の使い手が使っていたのを何かの作品で見た事がある。
カチ、カチ、カチ……
「チッ。小賢しいマネを……」
攻める側と言うのは目に見えて体力を使うが、防御側は攻撃側に比べ精神力を摩耗される……ある意味体力と精神力の綱引きみたいなもんだ。
こっちは攻撃に手ごたえを感じており、いわゆる勢いづいている。
負ける通りは無い。
「卑怯だぞ! それが騎士の戦い方か!」
「何か勘違いしてないか? 俺は騎士じゃねぇ貴族だ! それに付け加えるなら、俺は敵に勝てるならどんな手段を使ってもいいと思っている……今のフェイントだって十分に効果があるだろう? 正々堂々いざ尋常にが戦場である訳ないだろう? 勝てばいいんだよ。ちったぁテメェの無い頭を使えよ……」
俺の言葉は、騎士道の理想論をぶち壊す、極めて現実的な意見だ。
だがその正論は、御伽噺の騎士を夢見る子供には激昂するには十分な言葉だった。
「テメェぇええええええええええッ!」
ジャンは大きな声で叫ぶと、剣を上段に構えながら一気に踏み込むと、ドン! と言う体重の乗った重たい音を立て、大きな巨体が迫りくる。
上段からの鋭い振り下ろし。
風を切り裂きヒュルヒュルと鳴く風音を伴った剛剣。
唐竹(上から下への鋭い振り下ろし)か、利き手右上方からの袈裟切りの可能性が高い。
右半身に攻撃が来ると分かっているユーサーは、ひらりとした足捌きで躱し、ジャンに対して左斜めにズレ、斜に構える事で攻撃の被弾面積を出来る限り減らす。
敵の攻撃手段をを制限する狙いがある。
ユーサーの行動を目で追っていたジャンは、ユーサーの構えの変化に一瞬、躊躇ってしまった。
背中を向けており瞬時に防御する事が不可能な左側を狙うべきか、最初の狙い通り体重と速度が十分に乗った重い一撃を当て、力技でユーサーの防御姿勢を崩すべきか……
たった一瞬のほんの僅かな迷いが、ジャンの鋭い剣筋を僅かに鈍らせ、ユーサーが構えに至るまでの時間を計らずしも稼いでしまった。
鹿島神傳直心影流鶴ノ構
脚の被弾面積を少なくし、攻撃に転じる事が出来る攻防一体の構えだ。
ジャンの攻撃は空振り、崩した姿勢によってがら空き状態になったジャンの背中目掛けて、木剣を振り下ろす。
ポンとかコンとかそう言う。軽い音を立ててジャンの肩にヒットする。
「勝負ありだ」
俺はそう言うと実践のように軽く木剣を振い、斬った際に付着する血を払う動作をした後に、左手で半円を造りそこに木剣を修める動作をすると、相手に向かって一礼をした。
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