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第31話決闘《フェーデ》上
しおりを挟む父への提案から約一カ月が経過した。
俺は日課の子守女中のマリーネと大騎士であるデニスとの訓練を終え、午後から花壇の雑草取りでもしようかと思い、珍しく供を連れず屋敷の裏にある花壇を目指して歩いていた。
ドン! 何かに当たった感じがする。
曲がり角だったせいで、人が歩いて来ることに気が付く事が出来なかったようだ。
俺はその予期せぬ衝撃で、重心を崩しその場に倒れてしまう……
俺の不注意でもあるし……使用人を強く責める事は出来ない。
どうせ先に謝って来る。それを許せば問題ないだろう……俺がそう考えていると……
「――――っ。痛ッてェなッ!!」
想像よりも若いと言うよりは、幼い少年の声が聞こえる。
下級の使用人だろうか? まだ使用人としての教育が行き届いていないから、言葉使いが悪いのだろうと考えた。
「おい! 大丈夫かジャン」
俺の予想は裏切られ、心配の声を掛けられたのは、俺ではなくジャンとかいうガキだった。
まぁいい。俺が目的を果たせればお前みたいなガキには用はない。
俺は立ち上がると、服に着いた砂や泥を手で払い、多少でも服を綺麗にしようと努力する。
魔法で綺麗にすればいいと思うかもしれないが、俺の魔法力が多すぎて上手く制御できないのだ。使える魔法も中級魔法の制御が甘くても発動出来るものだけで、繊細な制御を求められる魔法を使う為に、この一年間修業中なのだ。
「おい! お前このジャン・スミスにぶつかっておいて、タダで済むと思うなよ? 使用人や騎士の子弟であろうとタダじゃすまなさないぞ!」
なんだこの典型的な藤子・〇・不二雄作品に出て来る。太った昭和のガキ大将みたいな子供は……
見るからに騎士に向かないと素人である俺でも分かる。見事な丸まりと太った達磨体型は圧巻の一言に尽きる。確かに力はありそうだが、年を取るにつれ膝が悲鳴をあげ、騎士としても落ちぶれていくと容易に推察できるほどである。
腰のあたりを見ると削れた木剣が差してある。
取り巻きを見ると背を負っている者も居る。恐らく使用人の子供か小姓として、俺が立案した士官学校に通っている生徒だろうと辺りを付ける。
何と言うか、その体型のせいで木剣も子供の玩具の様に小さく見え、笑いを堪えるのに必死になってしまう。
クソが! 俺の肝いりの政策にケチ付けやがって……テメェらのせいで計画が凍結されたらどうしてくれるんだ?
俺がそんな事を考えていると……
「おい! コイツの着ている服は妙に金がかかっていないか……この糸の解れ一つない洋服。もしかして城主様のご子息なんじゃ……」
ジャンの取り巻きのスネ夫枠が、顔を青くして騒ぎ出す……恐らく商人や村長など、ある程度の立場にある者の縁者なのだろう……
因みに城主と言うのは父の事で、城下町一体を管理しておりこの城を修めている事から、家臣でない領民からは城主と呼ばれている。
「城主の息子が、なんで使用人の暮らす離れの当たりに居るんだよ?
頭を使って考えてみろそんな訳ないだろ?」
「それもそうだな……」
どうやら三馬鹿は自分達で納得したようだ。
「すまなかった。急いでいて前を見ていなかったんだ。
どうかこの通り、頭を下げるから許してくれ……」
俺は三馬鹿の立場を憂いて頭を下げ、この場を穏便に解決しようと努力した。
しかし――――
「ガキが調子に乗ってんじゃねぇーよ」
ジャンはそう言うと、子分の持っていた木剣を引き抜いて俺に投げつける。
木剣はカランと言う乾いた音を立てて地面に転がる。
「騎士や貴族は白い手袋を投げ、決闘の合図にするらしいじゃないか、生憎と手袋やハンカチは持ち合わせていないんでね。剣を拾えテメェのその舐めた態度に、俺様が直々に教え込んでやるよ!」
言う事は随分と立派だが実力のほどはどうだろうか?
俺は地面に落ちた木剣を拾い上げる。
身長差のせいかいつも訓練で使っている木剣よりだいぶ長い。このまま振ると長さに慣れていない分俺が不利だ。最悪木剣の切っ先を折って長さを整えればいいか……
「お手柔らかに頼みますよ。先輩……ルールは?」
魔法が使えるなら楽に戦えるが仕方がない。
「魔法以外『何でもあり』だ」
「……」
面倒だな……と正直に言って俺は思った。
俺が勝ったとしても負けたとしても絶対に問題が起こるからだ。
はぁ……こんな事なら女中の一人でも連れていれば良かった……
「なんだ怖気付いたのか?」
俺はどうやって穏便に処理しようか? と考えていたのを怯えているから黙っていたと解釈したようだ。
「いいや。決闘って言うのは、神様にどっちが正しいかを決めてもらう神明裁判の一種なんだ。騎士や貴族は例え農民からの決闘でもそれを断る事は出来ない……自力救済。最後にモノを言うのは暴力と言う訳さ。君達の無謀な決闘をどうすれば大事にしないようにできるか? と心砕いて考えていたが……もうどうでもいい。ノーフォーク公孫ユーサー・フォン・ハワード! 謹んで貴殿からの決闘をお受けしよう!」
俺はお手本通りの綺麗な所作で、三馬鹿相手に礼をする。
「「「――――ッ!」」」
三者三様の反応をしているが、場の空気を支配しているのは俺だ。
「さぁ、いざ尋常に勝負ッ!」
俺の掛け声で決闘の火蓋は切られる事になった。
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