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第26話士官を増やそう上

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 剣の稽古が始まり暫く経過、基本的な素振りや型稽古を中心に打ち合い稽古を通じて、足運びや体重移動と言った体捌きを中心に日々訓練をしている。
 お爺様の手配したデニスは、本家の屋敷で騎士として上から二番目の大騎士アークナイトとして仕えている主力格であり、この屋敷で勤務していた有望な若手騎士数十名と配置換えトレードする形で、配属されたと言うエピソードもある。
 父は冒険者時代や公爵公子時代のツテを用いて、剣や槍の先生を今だに探してくれているようである。

 そんなある日の事。
 昼食を後の食後の休憩が終わる頃に、子守女中ナースメイドに付き添いの元、俺は父であるパウルにある提案をするために、事前に父の秘書官を通じてアポイントメントを取っていた。
 俺は木製のドアを二回叩く。

「ユーサーです。お父様入ってもよろしいでしょうか?」

 俺は入室の許可を確認する。

「もちろん。構わないよ……」

 父の許可もあり俺は部屋に入室する。
 部屋の手前には数名の秘書官や文官の仕事机があり、書式や紙の大きさすら、ロクに統一されていない書類を書き写したり、分類したりして処理している。漫画家の仕事部屋や、学校の職員室を思い浮かべて貰えると、分かりやすいかもしれない。
 奥の方には、他の机に比べると幾分か豪奢な椅子と机が置かれその椅子にに父パウルは座っている。
 たかが公爵家の所領の城下と、その周辺の統治でこのありさまなのか……

「……ここだと皆の仕事に差し障るかもしれないからな……隣の部屋に行こう」

 そう言って俺と父は隣の部屋に移動した。

「それで……剣の修行の際に色々と思いついた事があるとの事だけど……ここまで人払いをしなくちゃ不味い話なのかな? 今までのユーサーの行動を考えると、即断即決で情報が多少れようとも早く、動いた方がいいと言う考え方だったと思うんだが……」

 ……お父様は、随分と俺の事を評価してくれているようだな……ここは少し大口を叩いて、どう反応するか見てみる事にしよう……

「程度の差があります。お父様私の提案を受け入れて頂ければ、父上が動かせる公爵軍の能力は、3倍以上になり騎士の数も二倍以上になるでしょう……」

 実際問題、小姓ペイジが中々従騎士エスクワイアに昇級できないのは、教えてくれる先生が付かない事に問題がある。勉強も武芸も出来なければいけないのに、ソレを学ぶ機会がないのだ。豪農や村長の息子や退役軍人や冒険者の息子と言った、恵まれた環境でもなければ、完全な平民から騎士になんて到底なる事は出来ない。
 軍の能力は指揮官と兵の優秀さで半分以上は決まる。例え騎士に馴れなくても将校になれば、騎士を不要だと思っている俺にとっては願ってもいない状態だ。近代的な軍隊の方が扱いやすいからな。

「……ユーサーは軍を間近で見た事はないだろう? それなのに三倍は少し……否、かなり吹かし過ぎなように聞こえるけどね……」

 父の冷静な口調に俺は焦りを覚える。
 ”実際に見ていない” と言うのは覆し難い事実だ。幾ら未来の優れた方法を取り入れようとしても、理解し実行してもらえなければ何の意味もないからだ。

「……では先ず計画を提示しますので、納得頂けたら金を出してください。ただしお爺様に介入されると、他の勢力にもこの手口は使われてしまいますので、その点はご留意ください」

 情報が流出すればアドバンテージは無くなるから、注意しろと相手をビビらせる事で、コレから言う意見をより大きなもののように見せる事が出来る。

「もちろんだ……」

 父は固唾を飲むと返事を返した。

「ではプレゼンを始めさせて頂きます。先ず計画の骨子は「教育」です。軍では計算や読み書き、作戦立案が出来なければ上に立つ事は出来ません。
 我が師である大騎士デニスに聞いたところ小姓ペイジの多くは、騎士から教育を受けさせてすら貰えないとの事で、独力に近い形で修練を積むしかありません。ですから【士官学校】を設け【騎士】や兵を束ねる【指揮官】を育成する学び舎を設けるべきだと提案します」

 先ずは何をするのか? という事を簡潔に説明してから何をするのかを説明する。

「騎士を雇うのにいったい幾らかかると思う? その程度の些末な事は賢いお前なら分かるだろう? 幾ら公爵家と言えど予算は無限ではない……その点はどう解決する?」

 父パウルの言葉は正に正論であった。
 政治……まつりごととは本来、集落が集まり都市国家化していく際に、氾濫原の源でもある豊かな河を制御しようとしたことが、その始まりと言え、灌漑かんがい農業と治水は表裏一体であり、汎ユーラシア文明、取り分け東洋ではドラゴンは、水害の隠喩メタファーであると言う。

 八岐大蛇ヤマタノオロチを倒したスサノオノミコト。

 西遊記や封神演義ほうしんえんぎに登場する道教の武神、顕聖二郎真君けんせいじろうしんくん

 古代中国の伝説の王朝夏王朝の太祖にして、三皇五帝の一人顓頊せんぎょく禹神うしんと言う治水の神として信奉されており、現代の日本や諸外国でも死人をだす水害を何とか抑えるため、古代中国の文帝や煬帝ようていは、国を傾け国民が困窮しても治水を施した。
 川とは古代において道であり、上下水道であったのだ。
 税金をかけるべきは本来社会の根幹であるインフラなのだ。



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