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第24話剣を学ぶ下
しおりを挟む「確かにそうですな……公爵になられてから改善されるか、そうですね……閣下に提言されるのはいかがでしょうか?」
「うーむ」
今の考えのまま教育を行ってしまえば、後々教育と言う真綿でゆっくりと首を絞められて王政は死んでしまう。
俺は思考を巡らせる。
前世のYouTubeで見た有名人はこんな事を言っていた。「民は国民になりやがて市民になったと……」。
民の時代は学もなく、御上の言う事をはいはい聞いていれば良い時代で、国民の時代は服従心と団結心を植え付け、工場労働者に向いている人材を育成する教育し、選挙によって意見を伝える時代、市民の時代は個性と競争が重視され自分の意見を直接政治家に訴える現代のような教育であり、イタリアのフィレンツェ共和国の外交官・政治思想家で君主論、政略論、戦術論の著者として知られるニッコロ・マキャベリの言う、単純で効率的な統治体制から、複雑で効率の悪いモノに進化してきている。
だからこそ民主主義国家は、独裁政治を行う共産・社会主義国家に後れを取りがちなのだ。極論だが優秀なリーダーが王をやっている方がずっと早く決断できるのだが、「民主主義は最悪の政治形態らしい。ただし、これまでに試された全ての政治形態を別にすればの話ではあるが」とは、イギリスの首相サー・ウィンストン・レナード・スペンサー・チャーチルの言葉だ。
理性的で優秀な政治家が、暴走する事無く政治を行ってくれるなら、社会主義でも共産主義でも、絶対王政でもなんでもいいが現実は無常であり、人は権力を手に入れると暴走する。だから古代ローマの時代より任期を設けているのだ。
「はぁ……」俺は思わずため息をついた。多くの転生・転移物で教育を軽く捉え、実行している作品が多いが教育によって何がどうなるか? を中・長期的に考えている作品は少ないように感じる。近年のWEB小説で、ナーロッパと揶揄される世界は中世ヨーロッパをベースとしているので、高等教育による産業革命からの民主革命の到来を速めているようにしか感じない。
私も親ガチャよる幸運で、公爵位を手に入れたも同然なのだ。むざむざ捨てる積りはない。出来る事のなら子孫にもこの生活を送らせてやりたい。と権力に取りつかれるのは人間の性と言っていい。
先ずは小さなところから始める事にすれば、公爵家は大いに発展する事だろう。その間に生き残る術を見つける事が得策かな……
「先ずは小姓に教育を施し騎士(指揮官)の増員を目指そうか……騎士になるためには読み書き算術は必須なのか?」
俺は疑問を口にした。
「一般騎士には必要ありませんが、指揮官などは農民上がりでも皆出来ます。読み書きが疎かなのは世襲ではない騎士の子か、農民の子が多いです」
俺の質問にデニスは答える。やはり出身階級で差があるな……教育は王政を殺す原因足りえるが、高度な官僚制度を配備するためには、古代中国の科挙制度のような人材登用制度が必要だ。
先ずは軍人に限って教育を進める事にしよう。商人や村長、豪農の子弟が教育を受けたいと言えば、金を取ればいい。
差しあたっては一般兵の教育度合いを尋ねるか……
「一般兵はどうか? 歩兵や弓兵にも長が存在しそいつらは、書類が読めなければ困るだろう?」
「確かにその通りですが、一団の長とは言えど百人隊長でもなければ、読み書きなど出来なくても十分では?」
確かに、複雑化した大砲のような兵器を細かく使う必要のある兵種が少ない今は、教育の重要性の認識は薄い。だが古代ローマの皇帝達が退役軍人たちの処理に、苦心していたことを知っている俺としては、農民や開拓民としてだけではなく、デスクワークとして軍に残ったりする。他の道を増やしてやりたいと言う思いがある。
産まれてから4年たっても、まだ屋敷の外をロクに知らない俺にはこれ以上案を煮詰める事は出来ない。ならば年の功がある人間に草案のまま投げてしまうのはどうだろうか?
「確かにそうかもしれない。一度父と話し合ってから、お爺様に話をするかを考えよう……」
俺はそう言って問題から手を引いた。
「それが良いかと……」
俺の言葉にベニスも追認した。
「騎士には心構え……物語などで語られる騎士道がありますが、ユーサー様には必要ないモノです。主君への忠誠と弱者を守るなど、貴族とあまり変わらない事が語られているだけですので……では素振りから始めましょう。ユーサー様はいつもあのように走られているので?」
「ああ一年ほどはほぼ毎日女中と走っている」
「普段使わない部分を動かすので、最初は回数をこなす必要はありません。ゆっくりと正しい姿勢で剣を振って下さい。型稽古を始める前に先ずは木剣ですが、それを振り回せるだけの筋力と体力が必要です」
俺は剣道や剣術で言うところの晴眼に、木剣を構えてゆっくりと剣を振る。筋トレと同じくゆっくりと筋肉を意識してトレーニングする方が、雑に回数をこなすよりも辛い。
10回の素振りを5セット。つまり50回素振りをするころには、俺の腕は棒のようになっていた。
「疲れたぁ……」
俺は木剣を手放しピクピクと、筋繊維が痙攣するのを感じる。
「やはり走り込みなどをしている分、基礎体力がありますね。これからも毎日走ってください。武芸の基本は体力、技術は回数をこなせば身についてきます。本当はランニングや打ち合い稽古から始めるつもりでしたが、まさか初日からキチンとした稽古が出来るとは思いませんでした」
「そう言って貰えてなによりだ。従兄弟殿達とは違って俺は年は下だが頭は大人なんだ。今日はもう筋肉痛が出ているので本でも読んで過ごそう……デニスもそれでいいか?」
「無論です。筋肉痛の時に無理に動かす必要はありません」
こうして俺の騎士としての稽古が始まったのである。
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