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第22話四歳の誕生日のその後下
しおりを挟む俺は主家であるノーフォーク公爵家の長男であるパウロ様の長子で、娘のベリンダの乳兄妹のユーサー様のお披露目会に出席していた。
パウロ様の計らいで、アイリーンに与えられている客間に特別に宿泊を許可された。本来であれば屋敷の主と客の関係が例え近くともフロアを変えたり、建物を別にして互いに用心するのだが……
パウロ様は――――
「ユーサーの乳母の旦那それもノーフォーク公爵家の直臣である。十二家を信じられず誰を信じられると言うのか!」
――――と言う一言で、この屋敷に在中する護衛騎士団を黙らせた。
ユーサー様も――――
「日頃リンダとアイリーンにはお世話になっています。今日ぐらいは親子で過ごしても良いのではないでしょうか? 二人で飲めるお酒とツマミ、リンダ用に菓子を手配しておきます」
――――と子供とは思えない気使いも見せてくれた。
そんな事もありカルデコート子爵当主である。俺ルドルフ・フォン・カルデコートは、屋敷のドアを開けた。
「パパ!」
娘のベリンダが突撃してくる。
「あなた」
短い言葉で俺を呼ぶのは妻のアイリーンだ。
「リンダ良い子にしていたか?」
俺は突撃してきたリンダをキャッチして、腕を伸ばしグルグルと回す。キャッキャと騒ぐリンダが可愛らしい。
そのまま床に着地させる。
「うん!」
リンダは元気な声で返事を返した。
「そうか、それは良かった」
俺はリンダの絹のようなサラサラとした茶髪を撫でる。
「そんないい子のリンダには、お土産があるぞぉ~~」
「やったぁ!」
当家の執事に持たせていた。ユーサー様からの心付けをリンダに渡す。
「タルト・タタンだ!」
リンダはコレを知っているようだ。公爵家で育っていると、家では見た事も聞いたことも無いような食べ物を食べる機会があるのだろう。
「タルトなのに少し焦げがあるんだな……もしかしてユーサー様の手作りか?」
俺の言葉に妻が反応した。
「このタルトはユーサー様が、見聞きしたレシピを元に作られているんです。まだ三歳の頃。シルヴィア様とお茶会を楽しんでいた時にユーサー様が「このお菓子は甘すぎます」と言われ、私の「お菓子とはこう言うモノです貴族に相応しいものはこう言う物なのです」と言う言葉にムキになられて作られたお菓子なんですよ」
――――と恥ずかしそうに言った。
「手紙で聞いては居たが、家庭教師の教育を一年程度で終了させたのは驚きだ。今、その家庭教師はリンダの家庭教師を務めていると聞いているが……」
俺は正直に言って金の心配をしていた。公爵家が雇う家庭教師など法外と言っていい金をとるので、家のような子爵家では到底払いきれるとは思えない。
「パウルさまが一括で、ユーサー様のために数年分お支払いしているようで、家庭教師の先生もユーサー様から学んだ新しい教育理論を試したいからと大変安価な金額で受けてくれています。お休みも返上され屋敷に努めている騎士の子供達にも教育をしているようです」
「それは助かる。女子に教育などと小言を言う老人は多いが、女王が国を治める国も存在する。男女の優劣など肉体面しかないのだからな……」
事実。この世界において強力な魔法を行使できる人間は、男女ともにほぼ同数存在する。
「ですが保守的な方々には、頭のいい女は賢しく映ってしまいます。婚約者を探すのに難儀しませんか?」
「次期公爵候補の長男の乳兄弟の婚約者だ。皆喉から手が出る程、カルデコート子爵と友誼を結び、ノーフォーク公爵家の覚え目出度い存在になりたい貴族家は多いだろう……」
俺の言葉に妻は安堵の息を吐露した。
「酒を入れてくれ二人分。」
俺の言葉で、妻は赤葡萄酒の入った子樽の栓を開け白磁のグラスに注いでくれる。
「上等な赤葡萄酒にベーコンやハムに、ソーセージ、ジャーキーと言った保存の効くツマミ。ユーサー様は年のわりに随分と搦手が得意と見える」
葡萄酒は数国またいだ半島の東部にある。葡萄酒の名産地から公爵家が直接買い付けている高級品。ベーコンやハム、ジャーキーは保存食だが保存性より味を重視したものは高級品として取引されている。
「ユーサー様はリンダにとっては良き兄の様な存在です。できれば事を荒立てたくはないんですが、他家はソレを許してはくれないでしょう……」
妻は葡萄酒を一口で飲み干すと胸の内を吐露した。
「当家の安定した未来のためにも、この百年ノーフォーク本家の方の乳母に成れず権威を落として、事故で先代が死に弱っていた当家に乳母の名誉を与えてくれた。パウル様ユーサー様に報いるためにもカルデコート子爵家は、全面的に長男家の支援をする。君の実家のダヴェントリー子爵にもパウロ様の支援を要請してくれるかな?」
ダヴェントリー子爵は、現在どの派閥にも属していない無派閥を貫いている家の中でも、有力な家系で現在のノーフォーク公爵の乳兄弟が当主を務めている。
「もちろんです。ユーサー様は息子のような存在です。このよう無駄な争いで芽を摘み取られてたまるものですか……」
こうしてお披露目会の裏では、カルデコート子爵家、ソウルベリー子爵がパウル・ユーサーの味方となったのだった。
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